第4話 平和への儀式
【第三話 聖礼祭】
聖礼祭当日。朝から王宮は大忙しだった。特に王宮の警備体制は過去最大のものとなった。
それもそうだろう。英雄党、ジャスピアン、セピア、リコリス。今年は何かと慌ただしく事件も多かった。それに来賓客にナッチメイルの公爵がいるということも大きな理由の一つと言えよう。
「おい、指示通りの配置につけ。……交通班と舞台設営が遅れている? わかった。俺が舞台設営の指示に行く。
そこ、ライトに交通整理が遅れていると連絡してくれ」
「連絡が届いてない? わかりました。結城に報告しておきます。
交通整理が遅れてる? 機動隊の人員を割いて早急にお願いします」
総合兵隊の結城とライトも警備のごたごたに奔走していた。
そしてショールもまたフットワークの軽さから、いろんな場所へ駆り出されていた。
「アレアー。スラン騎士隊の配置は大丈夫?」
「はい。今のところ問題は起きていません。ショール様は警備班だったのでは?」
「あー、急遽全体確認要員になっちゃってね。できる男は辛いねぇ。というわけで次行ってくるよ」
多くの人が忙しく働きまわっていたけれど、誰もが聖礼祭を楽しみにしていた。
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「うぅ、大丈夫かしら。変じゃない?」
「大丈夫ですよ。姫はどこの誰よりも美しいです」
緊張のあまり何度も衣装や立ち居振る舞いの確認をしているフローラに、ヒスイは紳士的に答える。鈴蘭もまたフローラにエールを送りながら、二人の空気が少し変わったことを察していた。
「(姫様とヒスイ……、空気が柔らかくなったな。何があったのかわからないけど、よかった)」
ゆっくりけれど確かに、三人で一つになってゆく姿。鈴蘭は少しの寂しさと、寂しさ以上の喜びを感じていた。
「(……ん? 寂しい? どうして私は寂しいなんて思ってるんだ?)」
鈴蘭の視線の先には、ヒスイの言葉で自信を取り戻して笑っているフローラの姿があった。
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日が暮れ、王都は蝋燭のイルミネーションに包まれた。花火がバチバチと弾け、明るい夜に音楽が鳴り響く。明るい店内にはプレゼントがずらりと並び、ひっそりとした公園では恋人たちが逢瀬を楽しんでいた。
家からは家族の笑い声が響き、カーテンに映る影は楽しそうに動いている。
時刻は18時。儀式が始まるまであと一時間。
城の前にはすでに多くの人が集まり、フローラの登場を今か今かと待ち侘びていた。
「やっぱり王都の聖礼祭は素敵なのー! 薬師、儀式見たいって我儘きいて王都に連れてきてくれて、ありがとうなの」
儀式観覧の最前列で騒いでいるのは、ホタルの助手ルイである。子供らしいはしゃぎっぷりを見て、ホタルはそっと彼女の頭に手を乗せた。
「どういたしまして。さ、今からはしゃいでると儀式の時までに体力がなくなるよ。さっき屋台で晩ごはん買ったから食べながら待っていようね」
「おおー! イカフライとフィッシュフライなの。今回の屋台は海鮮類が多くて嬉しいのー。漁業が盛んなナッチメイルと同盟結んで正解なの……あっち!」
口を大きく開けてイカフライを頬張る。熱かったのか、涙目になりながらも食べようとするルイに、周りの大人たちも和んでいた。
「儀式の来賓にナッチメイルの公爵様も来るらしいよ。鈴蘭との仲も良いらしいし、二国間の繋がりは当分ゆるがなさそうだね」
「ふふっ、安心なの。……こうなるとネイコはもーっと孤立しちゃうのね」
ルイは付け合せのキャベツを、ザクッと音を立ててフォークで突き刺した。
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19時になった。
来賓席にはメイオール、パールをはじめ何人かの貴族が並んでいる。別の席にはタイガ第一王子と、カイト第二王子が座り、その斜め後ろにショールとノバラが待機していた。
城の前の観覧席には、パーティを中断し、店を閉めて、ほとんどの人が儀式のために集まっている。
12月の夜。少しだけ降っている雪が、空気を清め心を穏やかにしているようだった。
19時の鐘の音と共に、中央の扉が開いた。
「うわぁ……! お母さん、お姫様が出てきた!」
「……ええ。綺麗ね」
「フローラ姫様だ。なんて美しいんだ」
誰もがフローラの姿に目を奪われ、心も奪われた。
純白の衣装と、赤い宝石があしらわれたティアラ。長いシルバーピンクの髪を上に結い上げ飾り付けしてある。
何より美しさが現れていたのは、フローラの瞳だ。薄桃色の瞳に、強い意志が現れ心なしかより色づいて見えた。
夜の黒と雪の白が混じり合う空間で、その強い桃色が何よりも輝いていた。
「私はフローラ=ウィル=ジェムシェール。宝石の国ジェミニカの第一王女です。今年は様々な事件や騒動が起こりました。それによって傷ついた方も多くいらっしゃったことでしょう。だから私は、神に祈りを捧げます。悲しみがこの世界から無くなるように、平和な世の中が訪れるように。……そして感謝をします。今年、多くの人の考えを知ることができたことを」
フローラの一言が終わり、儀式の言葉が始まった。誰もが口を開かず、ただそれを見守っていた。
感謝と祈りを捧げるフローラは、その時誰よりも美しく誰よりも国民の心と繋がり、誰よりも世界の平和を祈っていた。
そんな中、一人ひっそりと笑っている人がいた。
「神に平和を祈る……か。その祈り、神である私が受け止めましょう」
――私はセカイのリーダー、世界の神。




