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忘却の白と黒の記録書  作者: オトノシユ
4章 聖礼祭編
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第1話 ライトと結城

読んでくださってありがとうございます!

間が空いてしまいましたけど、よろしくお願いします!




〈結城side〉



この世には理不尽が溢れている。

何も悪いことをしていなくても責められたり。存在自体を否定されたり。無理を強要されたり。自分を押し殺さないといけなかったり。

それなのに……どれほど理不尽に抗おうと、能力があろうと、才能があろうと……誰かに愛してもらえるとは限らないし、幸せになるとも限らない。



あぁ、俺は今日も眠れない。



仕事なんて日中に終わらせることは出来る。俺は新人にして総合兵隊情報部副長になった結城だぜ?

それくらいの仕事は容易い。



……だが、わざわざそれを夜まで引き伸ばすのは、眠ることが怖いからだ。



「鈴蘭に悪夢でもいいから寝ろなんて、どの口が言うんだか」



泣きながら俺の存在を否定し、包丁を持って追いかける……母親の夢を見たくない。



「今日も、眠れない」



俺は椅子に腰掛けて浅い眠りを繰り返す。




_________




〈ライトside〉



「(俺にしか、鈴蘭は助けられない……かもしれない!)」



時刻は確認していないけど、さっき日の出を見たばかり。ということは、それなりに早い時間だ。こんな時間に呼び起こしたら、折角の休日なのにって怒られるかも。



でも、ここで曖昧にしていたら、俺はずっと結城を疑い続けてしまう。

それに、鈴蘭を助ける機会を逃してしまう。



「結城、おはよう。いるか?」



コンコンとノックしてから呼びかける。普通の兵士なら寮で二人一部屋くらいなんだが、俺と結城は個室を用意された。特別役だからだ。



そしてしばらくして、扉が開いた。



「……はよ。なんか用か? 今日は休みなんだが」



「ごめん。中入ってもいいか?」



「どーぞ」



結城はのそのそと気怠そうに奥へ戻っていく。昨日も夜遅くまで仕事していたのかもしれない。



「で、なんだよ。昨晩鈴蘭たちのデートを目撃したから慰めろ……とか?」



そう言われて、改めて昨日は聖礼祭だったことを思い出した。なんか本を読んでいたせいで時間感覚変な感じだ。



「いや、流石にそんな情けない真似はしないから」



苦笑しつつ答えると、結城も少し笑ってから珈琲を淹れてくれた。珈琲が理由で結城を疑い始めたからか、なんか珈琲が怖いな。



「これでも飲めよ。つか、何緊張してんだよ」



「緊張してるってバレたか」



「誰も俺に隠し事なんて出来ないからな」



このドヤ顔である。

でも事実だから困ったものだよ。



「ほんと結城はすごいよな。そういえば今年入隊したのに情報部副長になったくらい実力があるし……」



鈴蘭とかヒスイがいるせいで当たり前のように馴染んでいるけど、結城はかなり異色な存在だ。

総合兵隊でも誰もが結城は逸材だと言っている。



「結城は何者なんだ?」



俺は結城のこと、何も知らない。だから俺は疑ってしまう。

――ああ、そっか。知らないから疑うのか。知りたくて、信じたくて、ここに来た。



結城は少し空気を変えて俺を見てきた。値踏みするような目は、初めて会った時みたいに冷たい。



「……。なるほど、今日来た理由はそれか。

何者って、何が聞きたいわけ? はっきり言えよ」



結城は色んなことに貢献してきた。俺よりも優秀で、そんな結城のこと尊敬してるし、憧れてる。

……でも、わからないんだ。



「結城は………………カラアの現人神か?」



珈琲だけが証拠なんて馬鹿げてるかもしれない。でもここで有耶無耶にしていたらだめだと……思う。



「どうして急にそれが出てきたのか知らないけどさ……」



結城は淡々と答えながら席を立つ。窓から差し込む朝日が逆光になって、表情がよく見えなかった。





「そうだ。……俺が、現人神だ」





_________





〈結城side〉




朝っぱらから馬鹿な質問をされた。



「そうだ。俺が現人神だ」



俺がそう答えると、ライトはぽっかーんと間抜けな顔になった。この様子だと、俺が否定すると期待していたようだ。

まったく、こいつは俺を信用してないのか、信用してるのか……。



「……って言ったら、お前はどうするつもりなんだよ。もっとよく考えて行動しろ。

――じゃないといつか、後悔するぞ」



「えっ、じゃあ今のは……」



「カラアの現人神だぁ??

んなわけないだろ、馬鹿か。ってか、何を根拠に言いだしたんだよ。いい加減な根拠だったら許さねぇからな」



"カラアの現人神"なんて、よほどの歴史好きか、民族博士とかじゃないと知らないことだろう。

30年前の――1073年の事件のせいで、カラア民族はジェミニカでは触れてはいけないものになった。だからカラアについての情報は時の政府にほぼ全て消し去られてしまった。



ふとライトの手にある禍々しい黒本が目に入り、コレのせいだろうな想像がついた。



「現人神は珈琲が好きって知ったから……結城じゃないかって思ったんだ」



「……それだけか?」



……おい待てよ。嘘だろ。もっと何かしら決定的な証拠があったから疑ってるのかと思ったけど、そんなくだらん理由だったのか。

――なんか、少し苛つくんだけど。



「俺も誰かを疑うことはある。だが俺は、疑うだけの証拠を集めてから疑ってる。……なのにお前はそんな不確かなもので俺を疑った。

それは、俺への裏切りみたいなもんじゃねぇか?」



この考えなしのお馬鹿に一言申したい。

……いやさっき言ったけど、もう一度釘を刺しておく。



「お前は、もっと考えて行動しろ!」




_________





〈ライトside〉




お、怒られた。

たしかにこんな不確かな根拠で疑って……悪かったな……。



「ごめん。そうだよな、疑われたら気分悪いもんな」



なんでこんな簡単に疑ってしまったのか、自分でもわからない。なんとなく……カンみたいな?



「それにさぁ。白黒つけるために来たんだろうけど、現人神ならこんな質問されて『はい私が現人神です』なんて言うと思うのか? だから馬鹿な質問なんだよ。

……お前は初めて会った時もそうだよな。自分の怪我も考えずに突っ込んで。ったく、冷静なのか考えなしなのか」



「すみません……。これからはもう少し考えて行動します」



本当に反省してる。さっきは視界が狭くなっていた。

今思うと、俺だけが鈴蘭を救えるのかも……なんて、自惚れも甚だしくて恥ずかしい!



……でも、あの時思ったことは嘘じゃない。

結城のことを知らないから疑ってる、知りたいってやつ。



ヒスイもこんな気持ちだったのかな。鈴蘭の秘密も主たるフローラとの関係も見えなくて、ただ側にいることが窮屈な感じが。



「反省してる……けど、思ったんだ。俺は結城のこと、何にも知らないなってさ」



すると結城はピタッと黙り込んだ。

表情からして、そうくるかぁ、みたいなことを考えてるんだろうな。……うん、俺も大分結城に慣れてきた。



「歩み寄らないか?」



言いたいことは伝わってると思う。けれど結城はたっぷり時間を使って考えていた。

何分経ったか。

時間感覚がわからないくらいの妙な緊張感を、結城がスパンと切り裂いた。



「やだね」



「やっぱり」



そう言うと思ってた。



「全てさらけ出すことが全てじゃないだろ。子供じみた真っ直ぐやり方じゃなくても……今を、見りゃあいい」



「……はぁ、結城は格好いいわ」



「ふん、今更気づいたか?」



俺の呆れを含んだ笑みに、自信満々の笑みを返してきた。たしかに俺と結城では、ヒスイと鈴蘭みたいな真っ直ぐな向き合い方は似合わなさそうだ。

改めてそんなことを思いながら、笑いながら返事を返す。



「はいはい。言っとくけど、今を見て思うところがあれば遠慮なく言うからな」



「逆にそうしてくれ。遠慮された方が気持ち悪い」



これが俺達の向き合い方だから、これでいい。



………

……



「ふーん。この黒い本に鈴蘭の人生が書いてると。そんで作者のセカイってのが鈴蘭を自分のシナリオ通りに動かしてる……ね」



俺は結城に黒い本のことを話した。結城は俺よりも聡明だし、何か鈴蘭を救える手がかりを見つけられるかもしれない。



「お前が読んだ分、俺に貸してくれ。少し分析してみる。その間読んでない四巻読んでおいてくれ。……ちゃんと手がかり見逃すなよ」



「了解。ありがとな、結城」



「はっ。今まで十分迷惑かけられてんだから、同じだ同じ」



というわけで、一巻から三巻までを結城に預け、俺は四巻を読み始めることにした。



四巻は……聖礼祭の話。今月の話だ。




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