第9話 英雄は正義
今回も残酷な描写があります。ご了承下さい。
【第八話 英雄誕生日】
モルガは家族を愛していた。
裕福に暮らしてきたけれど、貴族同士の抗争や腹の探り合い……けっして苦労しなかった訳ではない。そしてそんな世界で自分を育ててきてくれた両親に感謝し、恩返ししたいと思っていた。
他の貴族に足を掬われてしまえば、落ちるときはあっという間に落ちる。家族を守るためには、貴族として生きていくには、金と権力が必要だ。
たしかに、領民からは必要分税を徴収した。
たしかに、権力を得るために近衛騎士の団長になった。
けれど、金と権力が家族を守る。それが全てだ。
国民が苦しんでいるのは横目に見えていたけれど、毎夜のパーティーは地位を見せつけ確実なものにするため、そして味方を増やし敵を識別するために必要なものだ。
日々の豪勢な食事だって理由がある。もしも貧相なもの周りに置いていれば、他の貴族に侮られるのだ。
一般人にはわからない苦労がそこにある。
「スラン! 勝って! スラン!」
「この腐った貴族の世を終わらせてくれ!」
会場に響き渡る声に、モルガはギリッと歯を食いしばった。
一般人から見れば金を巻き上げる貴族としか見えなかったかもしれない。けれど30年前から始まった貴族の世で、そこで生き残るためにはこちらも命懸けで立ち向かっていた。
それに領地の運営をしていたのは貴族だ。施策を体感できなかったかもしれないが、領民のことを考え動いていたのは貴族だ。金を巻き上げていたとしても貴族がいてこそここまで繁栄してきたのだ。
「それに目も向けず、強いだけの子供を支持? ……本当に人とは目先のことしか見えないのだな」
どれほど裏で努力していても、見えていなければ、感じなければ、それは無いに等しい。
「とはいえ、彼らの貧しさに向き合わなかったのは事実。……俺が優勝し、今度こそは国民皆が幸せに暮らせる国をつくろう」
モルガは剣を構えた。
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声援がうるさい。
鈴蘭は耳をふさぎたいと思いながら競技場に立っていた。声援が聴こえるが、どうでもいいのだ。
国の行く末なんてどうでもいい。もしジェミニカが滅んだらメイオールの国に行けばいい。鈴蘭に拘りはない。
……だって、故郷に捨てられ、捨てた身なのだから。どこにいてももう変わらない。
「私は優勝してリカを救う。それだけだ」
国民? ジェミニカ? 貴族? 王族?
――どうでもいい。
「試合開始!」
鈴蘭が斬り込む前に、モルガが動く。鈴蘭は相手のことなど知らない。けれどモルガは鈴蘭の研究はずっと前からしていた。勝利を確実なものにするために。
「はっ!」
流石は近衛騎士団長。モルガの攻撃は今までの対戦相手とは一線を画していた。
「……だが、話にならないな」
淡々と防御から攻撃へ移った。
鈴蘭はあまりに強すぎるのだ。普通の人では……それ以上の人でも太刀打ちなどできない。それは生まれ持った才能。
剣を選ぶ運命の人間にしか、鈴蘭に域には触れることさえ叶わない。
「さようなら」
「まだだっ!!」
鈴蘭は引導を渡そうとしたが、モルガの粘りがそれを躱した。
どうしても負けられない。守りたいものがある、未来への希望がある。
「負けられないんだっ!」
咆哮が競技場に轟き、渾身の一撃を鈴蘭に――
「そうか……」
甲高い音が会場に響き渡る。
「知ったことではないけどな」
カラン。虚しく折れた剣が地面に落ちた。
冷たい紅の瞳は無慈悲だった。
白い髪、紅の瞳。そして鈴蘭の優勝をミヤケたちに見せつけるために着てきた真っ白な服。遠くの観客から見れば天使や救世主のようだっただろう。
けれどモルガには悪魔か悪鬼に見えた。
「勝者、スラン!!!」
割れるような歓声が溢れた。
全ての人が鈴蘭の勝利を喜び、力を得た。
「ありがとうスラン!!」
「スラン!! 我らの英雄だ!!」
革命しよう。
この腐った世を変革する時が来た!!
「吠えて願うなら強くなってからにしろ。……強さを持っていても願いは叶わないものだがな」
鈴蘭は周りの歓声に煩わしそうに顔を歪めてから、モルガに言う。
そして優勝者の願いを叶えてもらうべく、王族の元へと行くのだった。
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第一王子タイガと第二王子カイトと話をし、鈴蘭は無事"土地をもらう"というミッションをクリアした。
そして話し合いの結果英雄となり、革命の導き手となることとなった。また王族に味方するにあたり、宵闇という組織に入った。
大会が終わったその日に、鈴蘭は早速タイガから命令を出された。
『モルガを二度と剣を持てないくらいに負傷させろ』
シュヴァン家は没落しても存在するだけで脅威になりかねない。そして武力の象徴たるモルガがいる限り、再び武力によって脅かされる可能性があった。
モルガに対抗できる力を持つのは鈴蘭くらい。
それでシュヴァン家はタイガとカイトが。鈴蘭はモルガを徹底的に潰すことになった。
………
……
…
「というわけで、悪いな」
鈴蘭は満身創痍のモルガに切っ先を向けながら呟く。
「優勝も取っていったくせに、家も俺の身体もお前は奪うというのか!!」
時刻は深夜を回ったところ。誰もいない場所で、一人は嘆き、一人は無関心に見下ろしている。
「悪いとは思うが、タイガが言ったんだ。それが正義だと」
まだ戦意を失わないモルガの瞳。鈴蘭は少しばかりその目に心を乱された。
罪悪感に似た何かが、ざわざわとする。
「……早く終わらせてしまおう」
これ以上見たくない。
鈴蘭はモルガの左目を斬りつけた。
「っうあああああ!!!」
痛みに悶えるモルガに、鈴蘭はぼろっと涙を溢れさせた。
「ごめん、ごめんなさいっ……。私、は……!」
可哀想な英雄が生まれたお話だ。
1章11話に鈴蘭たちの大会後の話し合いが書かれています。




