第4話 剣を選ぶ運命※
残酷なシーンがあります。
【第四話 選択】
「鈴蘭殿の剣術はおそらく、殺人剣術です」
剣術のコントロールを始めてしばらく経った。クローリアに分析してもらったものを、聞いているところである。
「殺人剣術……」
よりによって嫌な剣術だ。これがコントロール出来ないとなるとかなり危ないなと鈴蘭は震えた。ちなみに稽古をするときは戦力になるアルフレッド、リカ、クローリアが取り囲んでいる状態でしている。
「これは以前身につけた……というより、天性の才と言えるでしょうね」
「(そんな才能要らないなぁ)」
「……ですが、ここまで異質に強化されているのを見ると、何者かに洗脳、もしくは強迫観念で動かされていた可能性もあります」
――つまり、貴女の才能を、精神に異常をきたすほど無理矢理引き出そうとしたのでしょう。
とクローリアは付け足した。
「剣を握るとその頃のことを無意識に思い出して破壊しようとする。けれど自己の防御本能でその間の記憶を無くそうとする……みたいな感じでしょうか」
「どうすればコントロールできますかね」
「鈴蘭殿の精神が強くなる状態を維持できればいいと思います。常に動じない心は……少しずつ鍛えて、まずは外見や態度を変えて一番強く気を持てる状態というものを探してはいかがですか」
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「先生、次はこの服着てみましょう」
「えぇっ……、こんなフリフリ似合わないよ」
「いや、似合うかどうかでいえば確実に似合う……。というか、もっと不遜な言葉遣いって決めましたよね。忘れずに癖にしてください」
「う、わかった」
鈴蘭はアルフレッドに色々な服を着せられていた。ドレス、ワンピース、甲冑、スーツ、マント、男装……
というのも、鈴蘭の剣術コントロールに必要なことを探すためだ。
言葉遣いについても、先日[言葉遣いを不遜ではっきり、態度も堂々と]させるとコントロールできたからだ。
「服装は男装だとコントロールできるみたいですね。……少し残念だ」
「アル……聞こえてる。というか男装が一番効果的ってわかったならもういいでしょう」
纏めると、男装とはっきりした言葉遣いがいいとのことだ。なぜそれが精神が強くなる状態なのかはわからないけれど、男らしくあろうと決意する鈴蘭だった。
「では先生、男装で稽古しましょう」
「そうだね。……えっと……稽古の後は皆で昼食だな」
「はい。……かわいい」
「アル、聞こえてるって」
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アルフレッドとの稽古も順調に進んだ。鈴蘭のコントロールが出来るようになるにつれ、指導も上手くなった。
こうして鈴蘭の殺人剣術はアルフレッドに教授されていったのだ。
「にしても可愛い娘が逞しくなるのを見ると……あぁ、成長とは寂しいものだね……!」
昼食の時間、ミヤケは鈴蘭の凛々しい姿に瞳を潤ませる。少し前まで仔犬のような可愛らしさがあった鈴蘭が、今では美少年であれば、多くの人が寂しさを感じるだろう。
「鈴蘭カッコイイぜぇ。だが確かに可愛さがなくなるのは寂しいな」
そう言ってリカが鈴蘭の頭を抱き寄せる。するとアルフレッドがムッとした表情で鈴蘭を引き戻した。
「リカ、食事中は大人しくしろ」
「……アル、も……だ……よ」
すかさずナシロが注意するあたり、ナシロはやはり双子の姉である。ナシロはぱくぱくと昼食を食べ終え、ミヤケの方にお辞儀をした。
「現人神様の……ところへ、食後の…珈琲を、持って参ります」
「ああ、頼むよ」
そしてナシロは鈴蘭の方を向いて笑う。ナシロはいつもオドオドしているし、前髪で顔が隠れているが、現人神の元へ行くときは嬉しそうなのだ。
「鈴蘭にも……今度、お茶と珈琲の……淹れ方、教えて……あげるね」
「ありがとう、ナシロ姉さん」
鈴蘭がキリッと返事すると、ナシロは少し頬を赤らめて手を振って部屋を出た。
「……なんか鈴蘭。男装、様になってるわよ」
「コシロ姉さんもしてみる?」
「しないわよ」
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鈴蘭がセピアに来て一年以上が過ぎた。
セピア一家が夜な夜な行っている作戦会議や外出についてはまだ分かっていなかったけれど、仲間はずれにしたくてしているのではないと鈴蘭はわかっていた。
むしろ守ろうとしてくれているようにさえ感じる。
しかしそんなある日の夜。事件は起きた。
鈴蘭がすやすやと夢の世界にいた時、無理矢理現実に戻すほどの爆音が外から聞こえてきたのだ。窓ガラスや家具まで揺れるほどの衝撃を伴って。
「な、なんだっ!?」
鈴蘭は慌てて起き上がり着替えを済ませて、自分の元々持っていた剣を傍らに置いておく。いつでも飛び出せるように。
と、そこへリカがやってきた。
「鈴蘭、起きてたか! 絶対にこの部屋から出んなよ。何があっても出んなっ。わかったか」
「え、でもリカ兄さん……」
「いいから!!!」
珍しいリカの怒鳴り声に、鈴蘭はびくりと怯えた。リカはそれを見て反省したのか、鈴蘭の側に近づいて頭に手を置く。
「怒鳴ってごめん。でもここで出れば、折角守ってきたのに……セピアの餌食になる」
「えっ……? セピア?」
「詳しく話してる暇はない。……一つ言えることはオレはカラア族じゃないってこと。今日からはオレ以外には気をつけろ。あいつらがどれだけ優しくても、所詮現人神のいいなりなんだから」
――オレの言葉を信じろ。外には出るな。
リカはそれだけ言い残して部屋を出ていった。鈴蘭は混乱した頭で考える。
リカはカラア民族じゃない。
カラア民族は所詮現人神のいいなり。
セピアの餌食。
守ってきた……
「リカ兄さん……」
意味がわからない。
窓の外は暗闇。爆音の正体もわからず、駆けつけることもできない。
鈴蘭が窓の外を見ていると、また爆音が轟いた。
すると今度は村の一角が明るくなった。真っ赤に、煙を上げながら。
「も、燃えてる!!」
さっきの爆音が、村を狙った爆発だとようやく理解する。そうこうしている間も火は大きくなり、大切な村がどんどん焼けていく光景が目の前に広がった。
そうしていると、火の近くに甲冑を着た集団が見えた。村人ではないし、セピアでもない。……本で読んだ騎士のようだ。
もしかして騎士が村人を助けに来たのかと思ったけれど、次の瞬間その考えは間違えだとわかる。
カラアの村人を、斬ったのだ。
騎士たちは、爆発に慌てて家から出て逃げる村人を作業のように容易く斬り始めた。
八百屋のおじさんも、お菓子屋のおばさんも、畑で働くお姉さんも、鈴蘭が知ってる人たちが殺されている。
「いや……」
助けないと。
きっとリカもあそこに行ったのだ。
鈴蘭はセピア一家の中で一番強いクローリアよりも強かった。つまり鈴蘭が一番の戦力となり得る。駆けつければ確実に助けになる。
「でも……」
外には出るな。
リカは何度も念押しした。
どうすれば……
「あれは……アル!」
と、騎士団に突っ込んで行くアルフレッドの姿を見つけた。クローリアと鈴蘭に剣を学んだアルフレッドは流石に強く、あっという間に村人を救う。
けれど圧倒的に騎士団の方が人数が多い。人数差に押され始め、遠目にも重傷を負ったことがわかった。
「行かないとっ……!」
鈴蘭は咄嗟に剣を手にして部屋から出た。リカの言いつけを破った自分は、永遠に後悔するかもしれない。けれど今アルフレッドを見捨てた方が、永遠に後悔する。
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走って走って……熱気が近づくにつれ、逆光で影のように佇む騎士団が見えてきた。
「アル!!」
「先生……! 来てしまったのか……」
鈴蘭を視界に入れたアルフレッドは、安堵と悲しみを混じえた表情に歪めた。
けれど鈴蘭はそれよりもアルフレッドの怪我に目が行く。腹部を抑えた手から血が滴っている。顔は真っ青で、今にも倒れそうだ。
アルフレッドが死んでしまう。
村人たちのように、呆気なく、この人たちに。
「……許せない」
途端に、鈴蘭の瞳から光が消えた。と同時に、理性も何もなくなった。
アルフレッドはすぐに異変に気づいたけれど、声をかける前に鈴蘭は視認できない速さで騎士団に向かっていく。
「先生!!」
村人の誘導を終えてアルフレッドの援護へ来たクローリアとリカが目にしたのは、騎士団の骸に囲まれて涙を流す鈴蘭の姿だった。
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茫然自失の鈴蘭は連れ帰られた後、数日間何にも反応せず、憔悴しきっていた。
初めて人を斬り殺した。
生々しい血の匂い。
命の炎が消える瞬間が目の前にあった。
手に感覚が残っている。
「おえっ……うぇっ、……」
せめて死後の世界で幸せになってほしいと祈るしか、鈴蘭にはできなかった。時間が巻き戻っても、鈴蘭は同じことをしただろう。だって大切な家族を守るためだから。
それでも、微妙に理性の欠片が残っていたせいで記憶や感覚が残っていた鈴蘭は、どうしても罪悪感に苛まれ続けた。
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その頃ミヤケたちは。
「皆に伝えたいことがある。……現人神様からのお告げだ。鈴蘭をセピアの戦力にするように、と」
ミヤケは淡々と告げた。
この場にいるのは、アルフレッド、クローリア、ナシロ、コシロ、リカだ。
「待ってくれ、前回鈴蘭を戦力にするって話は延期にしてくれただろ! 現人神だって旦那の打診を受け入れたじゃねぇか」
「たしかに前回、リカの強い要望でそうなったね。でも今回鈴蘭は戦いに参加した。しかも村の四分の一が焼失という損害も出た。……今までを超える力の入った襲撃をしてきたということは、貴族騎士がこれから活発にカラア民族を襲おうとしているということ」
「だから鈴蘭を戦力にするってか!」
「そうだ。今までは鈴蘭は何も知らなかったから延期もできたけれど、鈴蘭ももう無関係ではない。これは現人神様のお告げだ。皆異論はないね」
ミヤケが全員に確認すると、異論は誰もなかった。けれどその表情を見れば、賛成している人がいないことも一目瞭然だった。
「ではこの方針でいく。解散」
執務室から全員出ていった後、ミヤケは深く息をついて椅子に凭れかかった。
「……ごめんね、鈴蘭」
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鈴蘭が少し落ち着いてきた頃、ミヤケは鈴蘭を呼び出した。
「体調は大丈夫かな」
「……はい」
「そう……。今日はいままで鈴蘭に隠していたことを話そうと思っているんだ。鈴蘭は今のジェミニカのことを知っているかい?」
基礎の勉強や時事問題についてはリカに教わっていた。
約30年前……1073年の事件から、カラア民族はジェミニカで迫害を受け始めた。カラアはジェミニカでは忌み嫌われる存在。現在は誰も知らないこの地に村を築いていると。
そして最近のジェミニカは貴族中心の世の中。けれど貴族の裕福な暮らしのせいで、一般民衆が貧しくなり、貴族への反発が増えているとか。
「民衆の反発は大きくなれば脅威だ。そこで貴族は全ての罪をカラア民族になすりつけ、怒りの捌け口にしようとしているんだ」
「えっ、カラアは何も関係ないじゃないですか」
「まぁね。効果が出ているのかは疑問だけど、それが貴族の方針。……しかも貴族に何故か村の場所を特定されてしまった。私たちが夜な夜な会議を開いていたり、外出していたのは、貴族が送り込んだ騎士を撃退していたからなんだ」
カラアは完全なとばっちりだ。けれど忌み嫌われる民族だというなら、貴族にとっては都合が良かったのかもしれない。
「そこで鈴蘭に頼みがある。……今回、村はかなりの損害を出した。死傷者も……。これからは私たちと一緒に戦ってくれないか」
「え……」
「今後もこの前みたいなことが何度も起こるだろう。セピア一家はその脅威から村を助けなければいけない。どうか鈴蘭の力を貸してほしいんだ」
またあんな恐ろしいことが起こるかもしれない。カラア民族は何も悪いことをしていないというのに。セピア一家も何も悪くないのに。
けれどあんな恐ろしいことをまたしなければならないのだろうか。
あんな残酷で生々しく手に残る恐怖を再び……
「私はカラア民族皆を守りたい。そして何より、私の家族を守りたい。……鈴蘭はどうだい?」
そんなの、決まっている。
「私も家族を守りたいです」
「ありがとう鈴蘭。私と一緒に守ろう」
…………これでいいのだ。
鈴蘭には何もない。過去も、気持ちも。……セピア以外に、何も。
「はい……。私はセピアの剣になります」
セピアが鈴蘭の全てだから。




