表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却の白と黒の記録書  作者: オトノシユ
3章 セピア・革命編
35/93

第2話 セピア家族




【第二話 破壊の剣術】




「お父様、お父様。見てくださいっ。ナシロ姉さんとクッキーを焼いたんです」



鈴蘭はひょこひょこミヤケの後ろを駆けてついて行きながら、満面の笑みでお皿を見せた。

仕事に追われていたミヤケだが、その可愛らしい姿に顔の筋肉を緩めて鈴蘭の頭を撫でる。そうすると鈴蘭が猫のように目を細めて擦り寄るところが、可愛らしくて仕方がなかった。



「良くできている。ナシロの教え方がいいのだろうし、鈴蘭も器用なんだろうね。これ、私にくれるのかい?」



「はい。皆に渡しに行こうと思ってるんですけど、お父様は少し多めに持ってきました。お仕事、頑張って下さい」



「わぁ、ありがとう。うちの娘はいい子だな」



ミヤケは心から喜んでクッキーを受け取った。

鈴蘭はそんな父親を見て、とても忙しい彼をいつも不思議に思っていた。

鈴蘭がセピアに来てすでに数ヶ月経った。村人とも良好な関係を築けていて、この村はカラア民族の村ということ。ミヤケがその長であることは知っていた。



けれど、時折セピア一家は深夜の作戦会議をしていたり、外出をしているのだ。

一番仲の良いリカに尋ねても、まだ鈴蘭は知らなくていい、と困ったように笑う。そんな風に言われたら鈴蘭も駄々をこねるわけにもいかなかった。



「そうだ、アルにも会いに行くなら、少し話し相手になってあげてくれるかい?」



「はい。私で良ければ」



「うん。逆に鈴蘭じゃないと駄目だと思う。思春期だからかな……思い悩んでいるみたいだから」



この言葉の意味はよくわからなかったが、鈴蘭は全員にクッキーを渡して、一番最後にアルフレッドに会いに行った。長く話が出来るように。



アルフレッドは、命の恩人で最初に出会った人だ。そういうわけで鈴蘭はアルフレッドとよく会話しようとしたけれど、彼は無口。あまり鈴蘭に……というか、周りと関わろうとしなかった。

それで、アルフレッドは一番の恩人だけれど、一番の仲良しはリカ。という構造が出来上がったわけだ。



「アル!」



「……」



庭で素振りをしていたアルフレッドが、ゆっくり振り返った。周りの人曰く、鈴蘭の前だと穏やかだというが、鈴蘭には違いがわからなかった。



「クッキー焼いたから、貰ってもらえる……?」



アルフレッドは黙って頷いてクッキーを受け取った。

やっぱり無口だ。

一番長い会話をしたのは最初に会った時くらいだと思う。



「えっと、ナシロ姉さんと作ったの。隠し味はなんだと思う?」



「……」



わからない、と伝えたいようにコテンと首を傾げた。頑なに口を開かないため、鈴蘭も少しムキになる。

絶対一言は喋らせてやりたい……と。



「蛇だよ」



「っ……!!??」



「冗談」



「……」



驚いて息を呑んだみたいだが、声は出さなかった。代わりに恨めしい目を向けられる。声を出さなくてもこんなに気持ちは伝わるのだな……と逆に感心してしまう。



「正解は珈琲豆。カラアの人って皆珈琲好きみたいだから」



「……現人神様の好物だからな」



「!! そうなんだ!」



やっと口をきいてくれた。

カラア民族にとって現人神は自分たちの全てだ。現人神を絡めた話なら会話をしてくれると考えた鈴蘭は、以前からの疑問も兼ねて質問してみた。



「現人神様ってどんな方?」



「……全てを知っているお方だ。現人神様はカラアの神。謁見できるのはカラアの長たるお父様と、次期長の俺、そして世話係のナシロの三人だけ」



アルフレッドは、村にそびえ立つ塔に目を向けた。



村は最新のテクノロジーを取り入れて、生活に機械や電子機器を取り入れている。発展した村になっているのは、カラアの優秀な能力と、その現人神が与える先進的な科学的知識のおかげだ。



そんな現人神は、村に建てられた図書塔に住んでいる。立ち入りは禁止されていて、中はありとあらゆる世界の真実が記された書があるという噂だ。



「現人神様の言葉は絶対だ。俺たちカラア民族は全て現人神様に従う。……それを苦と思わせない程に、素晴らしく崇高な存在だ」



「そうなんだ……」



鈴蘭は見知らぬ人現人神という存在に思いを馳せた。

カラア民族が信仰する宗教の神。

世界の真実全てを知っている。

高度なテクノロジーの叡智をカラアに授ける。



……本当に神様だ。



そんな人と会う権利があるアルフレッドはきっとすごい人なのだ。鈴蘭は少し彼を遠く感じた。



次期長じきおさなんて、アルはすごいね」



するとアルフレッドは眉間に皺を寄せて複雑そうな表情になった。鈴蘭は自分が失言をしたのかと口を抑える。



「すごくない。……鈴蘭は何も知らないくせに」



アルフレッドはそう言い残して去ってしまった。



やってしまった。アルフレッドは何か重く深いものを背負っているだろうと感じていたというのに、そこに触れてしまったようだ。

鈴蘭はズキズキ痛む胸に手を当てて、その場に立ち尽くした。



………

……



「ちょっと鈴蘭!」



しばらくしていると、気の強い声が飛んできた。コシロだ。



「何度も呼んでたんだけど」



「あ、ごめんね。コシロ姉さん」



「ふん、ナシロも鈴蘭もどんくさいのよ。……ま、さっきのクッキーはまぁまぁだったわ。ほら、お礼よ。受け取りなさい」



と、コシロは頬を赤らめながらラッピングされた袋を手渡してきた。鈴蘭は呆気に取られつつ受け取る。

中にはカタツムリのぬいぐるみが入っていた。



「これは……?」



「村に来た商人が売ってたのよ。にょろり、とかいうゆるキャラだって。ゆるい顔したあんたにぴったりよ」



「ゆるい顔って……。でもありがとう、嬉しい」



鈴蘭はそのにょろりというカタツムリをじっくり眺めた。点目になみなみの口。……実にゆるい。



「これ、アルも好きみたいよ。これをきっかけにもう一度話でもしてみればいいんじゃない?」



「あ、見てたの?」



「わたくしはセピアの情報収集とコネクション確保担当よ。空気の機微には敏い方だと自負しているわ。

……アルは難儀な性格だから、わたくしたちじゃあ駄目なのよ。もっと、近くて……遠い……鈴蘭の存在が必要なの。アルのこと、頼んだわよ」



近くて遠い存在。



鈴蘭は確かにそのとおりだと自嘲気味に微笑んで、力強く頷いた。




_________




鈴蘭がアルフレッドを追うと、また素振りをしているのを見つけた。そこまで強くなりたいのかと関心を通り越して呆れてしまうのは……力なんて不必要だと思うのは……何故だろう。



何か砂嵐の中に光を見つけたような感覚がしたが、すぐにそれは消えてしまった。



「……アル」



「……」



声をかけると、煩わしそうな視線を向けてきた。それでも素振りを止めてくれるあたり、律儀だ。



鈴蘭はさっきもらったにょろりのぬいぐるみを突き出すように見せつける。



「コシロ姉さんにもらったの」



「……にょろり、好きなのか?」



「好き」



「……ふぅん」



共通の趣味を持つことは人間関係において重要ですよ、と言っていたクローリアを思い出し、即座に端的に答える。

傍から見れば違和感だらけの会話だが、不慣れは二人はこうなってしまう。



「アルも、にょろり好き?」



「別に」



と言いつつ、チラチラにょろりを見ているあたり、好きなのだろう。鈴蘭はアルフレッドに詰め寄る。

二人の距離はほとんどない。



「アル。私はアルのこと、知りたいよ。にょろりが好きなことも、実は珈琲が苦手なことも、アルのこと全部。

……私はアルがいなかったら生きてないもの。私はこんなに近くにいる。でも、私たちは遠い存在」



鈴蘭の命を救って、世話をして、その後も言葉を交わさずとも気にかけてくれていたアルフレッドの優しさを知っていた。



けれどどうしてそこまで見知らぬ人を気にするのか、鈴蘭とっては不思議だった。けれど何となくは察してはいたのだ。



――アルフレッドは家族に頼れなかった。



苦しくても、近すぎる家族にそれを吐き出せなかった。どれだけその家族が優しくても、温かくても。

そんな時に現れた他人である鈴蘭は、いわば避難所のような役目をしていたのだろう。



「(私は所詮他人。皆が愛してくれて、幸せでも、近くても……遠い。……アルがそんな私だから落ち着けるというなら、今その役目を果たしたい)」



鈴蘭はアルフレッドの素振りに使っていた剣を見る。なぜかその時、剣を交えれば少しは前に進めるのでは……と、思ったのだった。



ああ、また砂嵐。



「アル、私と模擬試合しよう」



鈴蘭は真っ直ぐに言い放った。




_________





それから鈴蘭は、セピア一家に見守られた状況の中で試合をすることになった。



「審判は私、クローリアが務めさせて頂きます。……鈴蘭殿、あまり無理はされないよう」



「大丈夫ですよ。……なぜか、負ける気がしないんです」



木剣を手にした時、確信めいたものを感じた。



――自分は誰にも負けない。負けたことなどない。



「早く……剣を振りたい」



鈴蘭は微笑んでいた。うっとりと剣を眺めながら。何かに取り憑かれたように……



「それでは、試合開始!」



………

……



カランと軽い音が響いた。




ハッと、鈴蘭は目を覚ます。





「あ、れ……? 私、何を……」



確か試合開始の合図を聞いて、それで――



「え……」



鈴蘭が何気なく前を向くと、信じられない光景が広がっていた。



試合をした場所の物は破壊しつくされていた。

傷だらけのアルフレッドとリカ。

呆然としているナシロとコシロ。そんな二人を背に隠すミヤケ。



目の前にはクローリアが重傷のまま立っていた。

手には剣は握られていない。おそらくクローリアに弾き飛ばされたのだと察したが、アルフレッドとの戦いだったはずなのでは……と混乱する。



「ええと……どうしたんですか」



違う。本当はわかった。



全て自分がしたのだと。



「えっと、私は……」



鈴蘭はどこも痛くない、無傷。

ゆっくり何もない両手を見て――



「ひっ……!!」



血がついていた。



アルフレッドとリカとクローリアは傷だらけ。つまりそういうことだ。



「わ、私……っ!」



砂嵐。



何かが頭を掠める。



誰かが叫んでいる。







『殺してっ……! 大切な人を手にかけて、もう、私は……!』



『なら、全て忘れさせてアゲル』







ドクンと心臓が鳴って、息が出来なくなった。



「私は……また、大切な人を……」



そしてプツンと糸が切れたように倒れてしまったのだった。





※※※※※※※※※





「鈴蘭……」



今の鈴蘭とは全然印象が違う。セピアも俺が思っていたよりも温かい場所だった。先輩とカルセさんをあれほど痛めつけた人たちとは思えない。



それに、鈴蘭が前に言っていたコントロール出来ないってこういうことだったんだな。



「……、……。気になることが二つある」



俺は思いに耽るのを中断してノートを取り出した。

すごく心の中は荒れている。違うはずなんだ。違う。違うと信じているから落ち着かないと。



気になること一つ目。

鈴蘭が記憶喪失前のことを一瞬思い出した時の描写、語尾がカタコトの人がいた。俺が今まで本を読んだ限り、それに当てはまるのは一人だけ。

…………ロベリアだ。




気になること二つ目。

これが問題で、俺の心を荒らすものだ。

現人神は珈琲が好きだって書いていた。……俺の身近に珈琲が凄まじく好きな人が一人いる。

いや、珈琲好きってだけで決めつけるのは尚早だとは思う。でも、セカイなら既に正体を登場させていそうだと思ったんだ。



「違うよな。……結城」




結城が珈琲好きなのは、1章13話に書いてあります!


ちなみに、アルフレッドが珈琲苦手なことは鈴蘭は知りませんでした。コシロとの会話の後に教えてもらった感じです。

コシロ『そうだ、アルは珈琲嫌いだから今後クッキーは珈琲味避けるといいわよ』

鈴蘭『えっ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ