第8話 不可解なもの
死傷者がでます。すみませんがご了承下さい。
その頃二番隊では。
「また会ったネ。ショール、体の調子はドウカナ?」
「まだ傷が痛むよ。というわけで、ここは引いてくれない?」
「悪いねぇ、こっちも久しぶりのアノ方からの指示だから気合入ってるんダ」
ショールたちはリコリスと対峙していた。
リーダーのロベリア、以前ヒスイと戦ったヨモギ。
たった二人だが、リコリスの力を知る騎士たちは十分警戒していた。
警戒が足りなかったのは、まだ経験の少ない一般兵士で――
「ぁ……」
突然、一番端にいた兵士が倒れた。眼球から脳へ、深くナイフが刺さっていた。もう助からないだろう。
「んん、弱いネ。腕ならしにもならナイ」
「全員警戒を緩めないで」
ショールが前に出ると、ロベリアはふっと鼻で笑う。
「ヨモギはショールの相手よろしく。ボクはショールを傷つけれないから。ボクが他の相手をするよ」
「おっけーッス!」
前のアルフレッド戦のときのように、一方的に負けるわけにはいかない。強い気持ちを胸に、ショールは武器を構えた。
_________
ノバラが隊長を務める三番隊は、すでに西の塔に辿り着いていた。山賊での錯乱がジャスピアンの作戦ならば、彼らはそこを突いてくるはず。その前にこちらが攻め入ろうということだ。
ライトは最後に見た一番隊のイベントが気になったが、ノバラの諌めと鈴蘭への信頼から、心配を振り切った。
「3、2、1、突撃……!」
中に入ると、戦闘準備の途中のジャスピアンがいた。どうやらこちらの読みが当たったようだ。
ライトは必死にノバラに付いていき、微力だと自覚しつつもサポートに回る。
そこで気づいたことだが、ノバラは天才だ、ということだ。
「(一度見たものをコピーするできる特殊な人だって聞いてたけど……本当だったんだ)」
ノバラは天才だ。
剣技一つとっても、全く異なる流派を複数使っている。一人の人生では到底見つけれることなど不可能数……
昔ライトが見たことのある戦士の剣技、カイトの剣技、アレア、カーナ、カルセドナ。
練度はともかく、ありとあらゆる人の技をノバラは使いこなしていた。
「これで、最後」
ノバラの最後の攻撃で、ジャスピアンは全員気絶した。
塔の奪還は、案外呆気なく成功したのだった。
………
……
…
「ノバラさん、全員捕縛しました。三番隊の被害報告はこちらにまとめてあります」
「ご苦労様。あとは、待機」
そういいながら、ライトに小さく微笑んだ。
ノバラの人形のような白く透き通った肌を見て、さっきまでの強さが嘘のように見えてしまう。剣が似合わない美しい人だ。
「(噂によると、カイト様はノバラさんを溺愛していらっしゃるとか……。たしかに、わざわざ踊り子生命を断ったノバラさんを引き取ったくらいだもんな)」
ノバラのシンデレラストーリーは、ジェミニカでは有名だ。
以前も話した通り、今は焼け焦げた劇場での出来事が小説化され、女性に人気が出て、今では様々な出版会社から本が出ている。
ライトは待機の間、時間があるからと軽く話を振ってみることにした。
「そういえば、ノバラさんがモデルの本、すごく人気ですよね。あれって、ノバラさんが書いたんですか?」
すると、ノバラは眉間に皺を寄せた。
何かまずかっただろうかと不安になるが、ノバラはゆっくり口を開く。
「ライト、黒い本、知ってる……?」
「黒い本、ですか? 知りません」
どういう意味だろう。
内容が黒いのか、見た目が黒いのか、そういうタイトルなのか。
「あれには、気をつけたほうがいい。私達は"ナニカ"に監視されてる」
この時、ライトにはよくわからなかった。
ノバラの言いたいことも、黒い本の意味も。
_________
第二部隊の戦闘は、比較的有利に進んでいた。
いつもならロベリアがいる時点で、敵が少数でも壊滅することは少なくない。
けれどスラン騎士隊や、結城とショールの機転で最小限の被害で済んでいた。
「新品の武器を味わうがいいッス!」
無表情のヨモギが楽しそうに斧を振り下ろす。
ショールはそれを軽やかに避けたが、ヨモギはすぐ軌道変更して下から振り上げた。
「うわっと」
不規則な動きに危うく直撃するところだったが、なんとか避ける。
武器で受け止めれば折れる。
「……そんな攻撃に直撃したら、俺スパーンと真っ二つじゃん。君、本当に人間?」
「人間以外なら何に見えるッスかー? あ、ヒスイさんからは熊って言われたッス」
「あー、熊ね」
会話をしながら考える。
どうやってヨモギを倒すか。
ヒスイはどうやったのか。
「馬鹿力だと罠も張れないし」
「馬鹿力って失礼ッス」
武器を取っても、素手でやられそうだ。
「……仕方ない。ヨモギさん、ごめんね?」
ショールは笑った後、ヨモギに背を向けて走り出した。ヨモギはもちろんそれを追う。
しかし、ショールはすぐに振り返り懐から取り出した"何か"の引き金を引いた。
鼓膜を裂くほど大きな発砲音が響く。
「う……」
ヨモギは撃たれた右太股を抱えるように蹲った。
ショールの手にあるのは拳銃だ。
「最近手に入れた一級品でね、中々手に入らないんだ。かなり痛いと思うんだけど、ごめんね」
「そッスね。遠距離から急に来るとは思わなかったッス。……由々しき自体になっちゃったッス」
こんな時でもヨモギの表情は変わらない。
撃たれたであろう脚を抱えて蹲っているだけだ。それに気づいたロベリアが、ヨモギの元へ飛んできた。
「ヨモギ、大丈夫カイ?」
「ちょっとヤバイッス。撤退していいッスか」
「あぁ、もう十分ダヨ。……それじゃあね、ショール」
こうして二人は撤退した。
ロベリアに勝てる人がいない以上、追うのは愚策。ショールはおとなしくそれを見逃す。
「……それより」
ショールの視線は一点に注がれる。
ヨモギが蹲っていた場所に。
血が一滴も落ちていないその場所に。
※※※※※※※※※
ガッツリ黙って読んでいた。
もう俺の集中力半端ない。
「はあーー。もう夜中だ」
家に本を持ち帰って二巻を読んでいたら、こんな時間だ。一応明日は休みだから良いんだけど。
それよりも二巻を読むことが先決。二巻に入ってから凄まじい速さで、謎やら、過去やら、が判明してる。
頭がパニック。
「ってか、ヒスイが貴族の血筋なんて少しも聞いたことなかったし」
鈴蘭とメイオール公爵とパール辺境伯との関係も、知らなかった。
そして、鈴蘭の罪も。
シモンのことも――
「シモン、この作戦から姿を消して、カーネリアン家から追い出されて。……しかも、カイト様と友達って話はただの噂だとかで有耶無耶になったっけ」
この時の自分は何も知らなかったから、ただ単にシモンがリコリスからの刺客だと思ってた。実際そうなんだけど、鈴蘭への復讐が目的とか……
でも暴動の時の内通者とシモンは別なんだよな。
何が真相なんだろう。誰が敵なんだろう。
「えっと……増えた謎は」
シモンが兵士になれた理由。
鈴蘭が大会で優勝したときに要求した土地について。
ヨモギが撃たれたのに血が流れてなかったこと。
……そして、
「ロベリアの背後にいる人物、だな」
『ボクもよく知らないけど、物語の進行のためって指示を受けたんだよネ』
ロベリアに指示をだしている人はきっとセカイだ。
この口ぶりだと、ロベリアはセカイじゃないっぽいけど、リコリスはセカイに操られた組織だと思う。
それと、もう一つ重大な気になること。
『ライト、黒い本、知ってる……?』
『あれには、気をつけたほうがいい。私達は"ナニカ"に監視されてる』
ノバラさんの言う黒い本は、きっとセカイが書いたこの本のことだろうけど……
「ノバラさんは黒い本を知っていたのか……?」
拳銃はこの世界ではあんまり普及していません。
1章5話で拳銃が出てきましたが、距離も殺傷能力も低めではあります。
ショールが手に入れた拳銃は、最新モデルで高性能です。




