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忘却の白と黒の記録書  作者: オトノシユ
2章 西の塔奪還編
28/93

第7話 復讐者




【第六話 西の塔へ】




許さない。許せない。

父親を殺したあいつが許せない。

復讐してやる。それだけが全て。



「西の塔奪還部隊、出発だ!」



やっと作戦が決行される日が来た。全ての情報が筒抜けだと気づいていない彼らに思わず笑みが零れそうだった。



「(ずっと探して、探して、やっと見つけた。……鈴蘭、お前を絶対に許さない)」



シモンは復讐という道でしか、もう生きていけない。




_________





ジャスパへ向けて出発して、数日。この森を抜ければ塔は目前というところまで来ていた。今のところ何の問題も起きていない。



リーダーはスラン騎士隊の隊長アレア。補佐はショールが務めていた。



「鈴蘭、顔色悪いけど。大丈夫?」



「ノバラさん……。ありがとうございます。大丈夫です」



心配して話しかけて来てくれたノバラに、柔らかく微笑み返す。南の街から帰ってきてから、鈴蘭の雰囲気はより柔らかくなっていた。

それが兵士たちにも伝わり、秘かに人気になっているとは気づいていない。



「(心配されるなんて、まだまだだな。……どうもシモンの雰囲気が気になって仕方がない)」



鈴蘭は後ろにいるであろうシモンのことを考えた。顔合わせの時以来、殺意や殺気は感じなくなったが、初対面であれほど強烈な感情をぶつけられることはないだろう。

であればどこかで恨みを買ったとしか思えなかった。



「(もう、どこで恨みを買っているのかわからない状態だけどな)」



セピアの時か? 英雄としてか? 宵闇の時か?

なんであれ、恨みをかったことに違いはない。




「……止まれ、全員戦闘用意……!」




突然、アレアが静かに命令を出した。

選りすぐりの精鋭たちはすぐに戦闘態勢に入る。鈴蘭は神経を集中させて、周りの確認をした。



「(……囲まれているな。山賊か。三十…いや、五十か)」



鈴蘭はアレアに耳打ちする。一番気配に敏いだろうということで、ショールの推薦で得た役割だった。



「配置を考えるに、おそらく南西へ誘導したいのかと」



「了解した。全員、作戦βへ移る!」



アレアの声で、全員が三つのグループに別れて散った。あとは各グループのリーダーによる、目印の発砲で合流する予定だ。



「鈴蘭、ついてこいっ」



「はい」



アレアの一番隊は鈴蘭……そしてシモン。

ショールと結城は二番隊。

ノバラとライトは三番隊。



戦闘能力だけみれば、鈴蘭とアレアがいるチームに偏っているが、一番隊は陽動。ショールと結城は頭脳派を揃えて、本命は二番隊という役割があった。三番隊は総合的に揃えたチームで、全体援護だ。



「……アレアさん、様子が少しおかしいです」



鈴蘭は山賊の動きに違和感を感じてアレアを止める。本来ならここで一番隊が戦闘をしている間に二番隊が森を抜けるという役割だったが、山賊は真っ先に二番隊を狙っているように見える。



「まさかっ……!」



アレアはすぐ様情報が漏れていることに気づき、一番隊に二番隊の援護を指示した。

兵士は素早く取り決めていた動きを取るが、どこかばらつきがある。アレアと鈴蘭は少しの違和感を感じつつも、援護のために走り出した。





_________





「ショールさん、おそらく作戦部隊に情報をリークした奴がいる。作戦は筒抜けだ。一度散開すべきです」



「……やっぱり問題が起きたか。ありがと、結城」



ショールは結城からの提案に納得し、二番隊に指示をする。一番隊の対応のおかげで、まだ被害はない。

とはいえ、山賊の異常な動きに他の兵士たちも情報が漏れていたことに気づきつつあった。ジャスパの暴動で内通者がいることは、殆どの人が気づきだしていた。けれど放置の甲斐もあって、やっと疑心暗鬼が収まりつつあったのだ。なのに、また情報が漏れた。



この作戦チームの中に内通者がいる。

不安な空気が流れる中、ショールはいつも通り笑っていた。嗤っていた。



「ちょっと、不安そうな空気止めてよ? 今回はスラン騎士隊の人が何人かメンバーにいてくれてるんだよー。むしろ彼らの動きを見て参考にするくらいしなよ」



ショールは指示の合間に、空気を変えるような言葉を発する。ショールは人の感情の機微に敏感だ。だからこそマイナスの空気を消そうとしたのだ。

その効果はあったようで、二番隊の士気は上がる。



「(さぁ、次はどう動く?)」



ショールはシモンのいる一番隊をちらりと見てその場を離れた。





_________





「ノバラさん、二番隊散開しました。一番隊は山賊と戦闘中です」



「わかった」



ライトはロベリアの補佐役に抜擢されていた。というのも、ショールが前もって、今回は情報が漏れる可能性があるとノバラに言っていたからだ。







『もしも二番隊が散開したら、三番隊は無傷で森を抜けることに専念してね』


ショールはロベリアにそう指示したあと、補佐をつけるならライトにするように言った。


『なぜライト?』


『特別役になった結城とライトの経歴は全て調べさせてもらったんだよ。ライトは色々複雑だったけど、それ故に信頼できる。……結城はまだ確証が持てないし、俺の隊に欲しいから。ライトなら裏切りの心配はないよ』







という経緯があったのだ。ライトは人懐っこくて単純、そして誠実で人に好かれやすい。三番隊の作戦会議のときも、上手く兵士のモチベーションを上げていた。ノバラにとってもありがたい存在だっな。



ノバラはライトの報告を聞いて、三番隊は森へ抜けると指示した。



「……あれ?」



「ライト、どうした?」 



ライトは森の出口へ走りつつ、双眼で周りの状況を見て報告していた。そして一番隊がおかしな動きをしていることに気づいたのだ。



「一番隊の動きがおかしいんです……!」






_________







一番隊は混乱していた。

初めは少しの違和感だったが、動きが一人一人意思疎通出来ていない。指示をしても上手くそれを実行出来ていない。対応できているのはスラン騎士隊と一部の騎士ぐらいで、大半を占めるの機動隊や総合兵隊がほとんど混乱状態に陥っていた。



「決めていた指示はこっちだろ!」

「何言ってんだ! 今は別の指示が来ただろ!」

「各個撃破は散開だって暗号って聞いてたけど」

「そんなわけないだろ!」



何が起こっているのか一瞬わからなかったが、鈴蘭はハッとする。誤った指示が故意に流されていたのだ。冷静になれば彼らも指示を理解できるだろうが、山賊の人数がさっきからどんどん増えている。

戦いながらだとより一層混乱するだろう。



一度注目を引きつけなくてはと思うが、山賊がそうさせてくれない。気づくと一番隊は囲まれてしまっていた。



「(しまった……。兵士たちを庇いつつ、山賊を殺さず、アレアさんの補佐……ハードだな)」



鈴蘭の癖、全て自分で抱え込むこと。

フローラにも指摘されて、やっとヒスイと協力できるようになったが、すぐに治るものでもない。



無意識に全てやろうとして駆け出そうとした時、アレアがそんな鈴蘭の肩を掴んだ。



「鈴蘭落ち着いて」



「アレアさん……」



「一応先輩だから。任せておいて」



アレアがそう言うと、一気に周囲の山賊を一掃して地面に何かを叩きつける。



すると眩しい光に包まれた。



「閃光弾!?」



「いや、そこまでの威力はない。少し注意を引く程度だよ」



アレアの穏やかな返事を聞いて、鈴蘭は少し安心した。とにかく任せておこうと思ったのだ。



「全員、俺を見ろ!」



閃光弾もどきで一瞬静かになった瞬間を狙い、アレアは声を張り上げた。簡単な指示に、兵士も……つい山賊までもアレアに注目した。



「今から作戦を全て忘れろ! 俺だけを見て、付いてこい!」



そしてアレアはばっと身を翻し剣を掲げる。森の木漏れ日が反射して鋭く光る。



「俺に続けっ!!」



大きくたくましく、安心感のある背中が全てを語っていた。ついていけば何も心配はない。何故かそう思える人というのは稀にいる。

そういう人物なのだ。



「「おぉっ!!」」



兵士の声が揃った。



そこからの快進撃は書き表せないほどだった。一気に山賊を畳み掛け、短時間で制圧した。特にアレアと鈴蘭のタッグが圧倒的で、ずっと昔から知り合っていたかのような相性の良さ。

スラン騎士隊でさえその強さに目を瞠るほど。



そして第一部隊は山賊を制圧することが出来たのだった。



………

……



そして落ち着いた頃、鈴蘭はシモンのところへ向かった。シモンの周りには誰もいない。

シモンはキョトンとした様子で、鈴蘭が自分のところへ来る理由がわかっていないような反応だ。



「どうしたんですか?」



「ショールからお前に注意するように言われていた。今日まで監視していたが、今回の情報誤信はシモンがやった可能性が高いと思ったんだ。どうだ」



「はい、おれがしました」



あっさり認める。それに鈴蘭は表情を硬くして、シモンと目を合わせる。心の奥まで見透かせるように。けれど細められた目には、鈴蘭は映らない。



「どうして認めた。何が目的なんだ」



「別に。今回の作戦は失敗することが目的ですし。……あはは、でも今頃そのショールさんたちは生きてるでしょうかね?」



シモンの何を考えているかわからない笑みを浮かべた。鈴蘭はすっと顔を青ざめさせる。ショールはこの前の暴動で死にかけたのだ。鈴蘭はそれが少なからず恐ろしかった。



「ショールたちに何をした……!」



しかし鈴蘭の質問には答えない。

代わりに目を開き、冷たく鈴蘭を見た。



「……覚えてますか。貴女は俺の父を殺した」



「……え」



何となく感じていた。

見ようとしていなかっただけだ。

今が、幸せだから。



「忘れたとは言わせない……! 白き英雄であり宵闇メンバーであった貴女が皆殺しにした、貴族派商人組織のリーダーを!!」






『絶対に許さないっ!…………復讐してやるっ……お前をっ、殺してやるっ!』

『人殺し! お前のせいで父さんは……死んだんだ!!』

『許さない! 化け物っ!!』

『忘れるな!! 絶対に忘れるな!』






「あの時の……」



シモンがあの時父親に縋って泣いていた少年と重なる。殺してやると言いながら向けていた憎しみを目が目の前にある。



息が、止まった。



自分の罪。



忘れたことなんてない。



「探しましたよ。宵闇は秘密組織ですし、貴女の特徴は暗闇の中で見えた紅色の瞳だけ。コネクションを得るためにカーネリアン家に養子入りしました。情報収集のためにリコリスに入りました。

そしてやっと見つけたんです」



すべてが復讐のため。

鈴蘭に対する破滅への導きのため。



「それなのに貴女は幸せそうに生きて……。失うことに怯えるくせに人に囲まれて……!」



身体が動かなかった。

鈴蘭の全てが罪の重さに潰されかけていた。



「だから決めたんだ。おれはまだ貴女を殺さない。貴女の大切な人が貴女のせいで傷つく様を見ていればいい! 失う苦しみに心が死んだ時に、貴女を殺してやる」



「……お前の狙いは私だけのはずだっ。他の人は関係ない」



今、ショールや結城が危ない。



フローラ、ヒスイ、ライト。パールやメイオール。ホタルにルイ。

アレアやノバラも、もう鈴蘭にとって他人じゃない。



「ほら、貴女はそうやって苦しむ。……それがおれにとっての幸せだから」



シモンは言葉通り、心底楽しそうに笑っていた。









――シモンを止めなくては。今、殺してしまえば大切な人は助かる。


違う。シモンを傷つけたのは自分だ。罰は受けなければいけない。


――他人が巻き込まれても?


私が命にかえて守る。


――守れなかったらどうする? そもそも私が生きていること自体が罪だろう?


……私の命は姫様に捧げた。全ては姫様のものだ。


――そのフローラが狙われているのに? 自分が生きるため、大切な人を守るためには、ここでシモンを……









「…ぅるさい!!」



鈴蘭は残酷なもう一つ自分の声に怒鳴った。



「そうやって綺麗事を求めていればいい。貴女の本質は破壊だ。いつか全てを救うことなんて出来ないと気づきますよ」



シモンがそう言うと、何者かの気配が現れた。



鈴蘭は剣を抜いてそちらに向ける。おそらくシモンの味方……リコリスのメンバーだと見当をつけていた。



そして鈴蘭の前に現れたのは――






「……リカ」






昔一緒にセピアにいた人。

ずっと味方でいてくれた人。

人質にされた彼をどんなことをしてでも助けたいと思った。



そんなリカが、鈴蘭に剣を向けていた。

鈴蘭もリカに剣を向けている。



「リ、カ……。どうして……」



「悪ぃな。これが俺の選択だ」



鈴蘭はもう何も考えれなくなっていた。

どうして。もう一度小さく呟いた声に、リカは苦しげに目を逸らした。



「シモン、ロベリアからお前を回収するように言われたんだ。行くぞ」



「ありがとう。……またね、お嬢さん。

良い悪夢を」



動けない鈴蘭に微笑んだ。

動いたとして、何も出来ない。

全て、自分への罰だから。







「っ、とにかくショールたちのところへ行かなくては!」



それから鈴蘭は急いで戻り、アレアにシモンやショールの事情を話し、二番隊へ向かおうとした。

けれどアレアはそれを止める。



「鈴蘭、今は任務中だ」



「しかしっ、今ショールたちに何か起こっているかもしれないんです!」



「だとしても、一人の勝手な行動が全体へ影響を与える。それに鈴蘭は俺の補佐だ。一番隊のすべきことをしなさい」



「でもっ」



鈴蘭の頭はもういっぱいいっぱいだった。



復讐心と殺意を向けられ。

かつての大切な人が敵になり。

大切な人が自分のせいで傷つけられようとしている。



「鈴蘭。落ち着け。……ショール様は弱い方ではない。信じてほしい」



「……。……はい」






_________






リカは悲しそうに溜め息をついた。刃を妹のように可愛がっていた鈴蘭に向けたのだから。



「はぁ」



「リカさん、暗いですね」



「シモンは楽しそうだな」



シモンは笑い返すだけにとどめた。リカの声に、苛立ちが篭っていることに気づいたからだ。

鈴蘭のどこがいいのかシモンにはわからないが、それを言えばリカを怒らせるのは目に見えていた。



「(少しの期間鈴蘭といたけど、苦痛でしかなかったな。どうして鈴蘭は好かれるんだ?)」



今回の作戦はロベリアが発案のものだった。

まず塔を占領。それをジャスパに引き渡す。そしてシモンを作戦組織に組み込ませ、混乱を招く。



この作戦では、塔が奪還されることも想定済み。シモンがカーネリアン家から追い出されることも作戦のうちだった。



そこまでわかっていて作戦をする目的は、

一つ目、鈴蘭を不安定にすること。

二つ目、実力主義社会の穴を世間に晒すこと。

三つ目は……






「そうだ、リカさんはロベリアさんが言って三つ目の目的の意味知ってますか?」



「あ? 知らねぇよ。意味深でわけわかんなかった」



「ですよね。『ボクもよく知らないけど、物語の進行のためって指示を受けたんだよネ』って、言ってましたけど……」



「どこかの指示なのか、物語って何なのか、全くわかんねぇよな。本人もよくわかってないみたいだったし」



そうですね、と返事する。

それにシモンにはもう一つわからないことがあった。




どうして自分は途中から兵士になれたのか。




シモンはカイトの友達なんかではない。カイトと会ったことすらない。なぜあんな話になったのか、シモン自身にもわからなかったのだ。



「それに、ロベリアさんがリーダーだと思っていましたけど、彼女の上にも誰かいるみたいですから」



シモンは、自分はとんでもない組織に入ってしまったのではと思ったが、すぐにその不安を消す。

どんなことをしても、鈴蘭への復讐が果たせたらそれでいいのだから。




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