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忘却の白と黒の記録書  作者: オトノシユ
2章 西の塔奪還編
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第3話 ショール相談所




【第三話 ヒスイの悩み、南の街へ】




最近、ヒスイには二つ悩みがある。



一つ目は、鈴蘭やフローラへの接し方だ。

鈴蘭とフローラの間に固い絆があることは前から知っていた。けれど三人で過ごす時間が増え、認められ始めたからこそ出てきた悩みである。

二人の間に割り込みたいとは思わない。けれど偶に感じる……一緒にいるのに一人で取り残されたような感覚は寂しいものだった。自分はどこにいればいいのか、それが悩みどころ。




悩みの二つ目は、鈴蘭に追いつけないこと。一つ目と似ていると思うかもしれないけれど、少し違う。一つ目はフローラと、フローラと一緒にいるときの鈴蘭への接し方だ。

けれどこちらは鈴蘭一人に対して。

鈴蘭は初めて会ったときから普通でない。言い換えれば異質な存在だった。それは今でも変わらない。だからこそ隣に立ちたかった。





「……で、なんで恋愛相談の相手が俺なの? ヒスイって変わってるよね」



と、ショールが溜息をつきながらホワイトチョコケーキにフォークを突き刺した。



「?? ショールさん、今のは恋愛相談ではありませんよ。僕は鈴蘭のことは好きですが恋慕ではありません」



抹茶モンブランに手を付けず、真面目な表情でヒスイは言う。



ここは最近話題のケーキ屋【ラフレーラ】。可愛らしい見た目と、食べる人を選ぶ激甘なケーキで女性中心に有名だ。

鈴蘭のことをショールに相談したいと思った時、結城が『ショールさんはかなりの甘党』と教えてくれたことを思い出し、ケーキをご馳走するかわりに相談してもらうことにしたのだ。



ショールは初めは渋っていたものの、ケーキの話になると快く了承してくれた。



それに外出許可がでたショールのリハビリにはピッタリだ。



「冗談だよ、ヒスイはそんなんじゃなさそうだし。まぁ、ケーキ貰ってるし真面目に聞くとしますか。……で、ヒスイは鈴蘭の相棒になりたい訳だ」



「ざっくり言うとそうなりますね」



鈴蘭はいつも何かを隠して、苦しんでいるようにヒスイには見えた。



「認められたいのかもしれません。鈴蘭が悩みを言える人になりたい。鈴蘭の強さを尊敬してるから追いつきたい。僕はパートナーとして、鈴蘭の凄さに釣り合うようになりたい」



「ふーん。つまり鈴蘭を尊敬してるからこそ並び立ちたい、と」



「はい」



ショールはあからさまに面倒くさい顔で大きく溜息をついた。



「はぁぁぁ。自己評価低いなぁ」



「えっ?」



「ほとんどの人から見れば、ヒスイは強いし実力もある。それに鈴蘭に認められてる」



「……そんなことありません。ショールさんの方がよほど信頼されてます。……僕は友達とも思われてないのかもしれませんし」



「俺がー? いやいやいや、断然ヒスイの方が信頼されてるでしょ。どこみてそう思ったのやら」



困ったように笑うヒスイを見て、ショールはあることを思い出した。"鈴蘭の友達"というワードは最近耳にしたのだった。



「そういえば、この前帰ったメイオールさん、あの人すごかったね。タイガとの会談の翌日、鈴蘭にべったり」



俺あの人苦手〜。と失礼なことを曰うショールを抑えるものの、ヒスイも何ともフォロー出来ないなと思う。



「ナルシストですけど、女好きではないみたいなんですよ。いい人……かは分かりませんけど、僕にも普通に接してくれましたし、鈴蘭は信頼してるみたいでしたし」



「えぇ? あの人絶対いい人じゃないよ。多分ヒスイの名前も覚えてないね。そーゆー人だよ。

……あ、そのケーキ食べないならくれる?」



「どうぞどうぞ」



「ありがと。んぐんぐ……うん美味しい。

『鈴蘭は我の盟友だー』って言い回るからすっかり城中で噂の的だね。鈴蘭は隣国の有力貴族とのコネがあるって。一部鈴蘭のスパイ疑惑も出てるけど、それを打ち消すほどのジェミニカ貴族の掌返しが面白いよね。急に鈴蘭に待遇良くしちゃってさ」



「メイオール様に取り入ろうって魂胆でしょうか……。でもスパイ疑惑が打ち消されたのは何故でしょう?」



政治に疎いヒスイにはあまり想像出来ない。決して鈴蘭がスパイだと思っているのではないが、不明瞭なまま放置しておくのか疑問に思ったのだ。



「そりゃ、今回ジェミニカとナッチメイルが同盟締結したからだよ。異例のスピード同盟締結。タイガとメイオールさんの仲も良くはないけど悪くないし、同盟国で、鈴蘭はジェミニカ王族三兄妹にも注目されてるって賢い貴族は気づいてる。

そう考えれば、スパイの可能性は低いし、そうであったとしても鈴蘭は少なくとも敵にはならない。それよりか味方につけた方が利益になるでしょ。

……ネイコの戦火がいつこっちに来るかわからないし」



「同盟なんて大きなこと、タイガ様は一人で決めれる権限があったんですね」



「いいや、本来なら議会で通すべき案件だ。……けど、タイガ、カイト、フローラの3人が賛成したら強行できる場合もある。そこらへんはややこしいから説明しないけど。つまり、今回の同盟はジェミニカ最高権力者3人の同意あってのの決定なんだよ」



「なるほど……さすがですね」



とヒスイが尊敬の念を込めてショールを見て、目を疑った。



「ケーキ、もう食べたんですか」



「うん、ごちそうさま。やっぱり頭使ったら甘い物欲しくなるよね」



「ここのケーキ、激甘って聞きましたよ。そんな飲み物のように……」



ヒスイは普通に凄いと思った。自分には出来ない。普通の人にも出来ないだろう。アレはケーキではない。砂糖だ。



「えー、甘い物嫌い?」



「特に嫌いではないです。普通に食べますよ。でも、ここの紅茶………すごく甘くないですか? これにケーキまで食べたら胸焼けしそうです」



「ふっふっふー、ここの紅茶には砂糖と蜂蜜とメープルシロップとイチゴジャムが入ってるらしいよ? すごく俺好み」



「うわ、甘っ」



「うん、たしかに味は悪くないんだけどね? 確かにケーキと合わせるには行き過ぎた代物だね」



ヒスイは高カロリー紅茶を眺めた。もはやこれを紅茶と呼んでもいいのか。茶じゃなくてジュースだ…なんて心で思いながらも、飲む物がこれしかないために飲むしかない。



「……話戻って、鈴蘭と姫の間に入っていいのか悩んでる、だっけ。それは俺が言うべきじゃないと思うから、直接きいてみれば?」



既に二人は、フローラの側近は鈴蘭とヒスイでしか成り立たないって思ってる。



そう、伝わればいい。けれど伝えるのは自分ではない。少し三人の関係が微笑ましくも羨ましくも思いつつ、そう心で呟いた。



「鈴蘭との相棒になろう作戦は、君がどれだけ鈴蘭に向き合えるかが鍵なんじゃない? 俺も人のこと言えないけど。立ち入る勇気ってのも、たまには必要って思うんだ」



「立ち入る、勇気」



きっと立ち入らせてくれない、と。

鈴蘭とフローラの側にも行けない、と。

認めないと言われることを怖がって。

愛されないことに怯えた。



「……ショールさんありがとうございます。なんか、掴めました」



「ん? そうか。よかったよかったー」



「僕はごちゃごちゃ考えるのが苦手みたいです。ショールさんの言うように、勇気を持って行動する方が性に合ってる気がします」



ヒスイの碧の瞳がキランと光る。まっすぐな様子が眩しかった。



「おう、割りと体育会系な思考回路……。ほんとに見た目と合わないねぇ」



そんなことを言いつつも、ショールは自分が満足していることに気づいていた。考えずに勇気を持って突き進む。きっとそれは……



「(俺には出来ないから、ね)」



「ライトがショールさんを慕って付きまとう理由が少しわかりました」



「それはわからなくていいよ」





_________






メイオールの訪問から数日して、鈴蘭たちはフローラと共に城を空けることになった。

それはタイガの命令でだ。



来年の王宮大会のためにスポンサーが必要。そこでパールに是非となったわけだが、パールは気難しやで面倒事に突っ込まない主義。



そこで、タイガから鈴蘭に説得してこいとの命令が下った。鈴蘭はパールの友人だから了承してくれるだろうという魂胆だ。了承すると確信しているのか、ついでに王都で行う予定の王宮審査についての話し合いをフローラに任せるとのことだった。



何をそんなに焦っているのかと思ったが、タイガの命令なら仕方がない。三人は南の街まで行くことになった。



城を出る用意をしているとき。





「鈴ねぇーー!」



ルイが走って勢いをつけたまま鈴蘭の胸に飛び込んだ。一瞬驚いた鈴蘭だが、体幹がしっかりしているのか柔らかくそれを受け止める。



「驚いた。元気だな」



「へへっ、褒められたのー。実はね、私たちもう王都をでることになったの」



「そうか……。寂しくなるな」



鈴蘭はルイやホタルと度々お茶をしたり話をしたりして仲良くなっていた。居心地がよかったのだ。



けれど確かに、ショールは外に出られるようになったし、カイトはもう仕事に復帰している。そろそろ王都を出ると想像はしていたが、なんだか寂しい。



「でもね、ジャスパに戻る前に、薬師が薬草を採って帰ろうってことで、南の街に行くことになったのー!」



「南の街って……」



「うんっ。王子たちに許可は取ってるの! 鈴ねぇ、またしばらくよろしくなのっ」



楽しそうに笑うルイにつられて、鈴蘭も頬を緩めるのだった。




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