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忘却の白と黒の記録書  作者: オトノシユ
2章 西の塔奪還編
22/93

第1話 世界を廻る




本を家に持って帰ってきた俺は、黒い本の二巻を手に取った。とにかく俺は知らなければいけない。そうしないと何の手をうつこともできないんだから……!




※※※※※※※※※




【第一話 来訪者】



華美で重そうな衣服。鈴蘭の記憶が正しければ“着物”と呼ばれるものだ。

そこに立っている男はそれを美しく着こなしていた。つややかで真っ黒な長髪が映えて、大人の魅力を引き出している。鈴蘭の周りにはいないセクシーな人間であった。


王宮の中庭の花を眺める彼は、いかにも高貴な人オーラを振り撒いていて……


ゆったりとした動きで視線を中庭の外へやった。


「おお、鈴蘭ではないか」


「久しいな。【メイオール】」


彼――メイオールの視線の先にいたのは、鈴蘭だった。鈴蘭は懐かしさと、少しの気まずさを混ぜた曖昧な笑みを返す。


「ふふ、照れているのか? それとも我の美しさにあてられたか? まあ当然だろう。なんせ我は美しいのだからな」


「メイオール……。相変わらずのナルシストでよかったよ」




_________





この地球には、一つの大陸と離れた場所に小さな島がある。

そして大陸には三つの国がある。


大陸の名は【ウルティマ大陸】。


三つの国は、

宝石の国ジェミニカ

自然の国ネイコ

空海の国ナッチメイル


「ふむふむ。それで何が問題なんだ?」


ライトの発言に、結城は憐れんだ視線を送る。


「お前が無知馬鹿無能だから俺がこうして教鞭をとってやってるんだろ? まだ途中なんだが黙って聴いている選択肢はないのか?」


「ごめんごめんごめん! 鞭で叩こうとしないで!」


「ふん、続けるぞ」


自然の国ネイコは、三国の食料の大半を生産していた重要な貿易国だった。けれど現在は内戦中で貿易は不可能な状態。


ジェミニカのスラン騎士隊が王都を不在にしがちなのは、ネイコとの国境を監視するためでもある。


そこまで結城が説明をすると、ライトがまた口を挟む。


「ネイコはどうして内戦なんかしてんだろう?」


「今の王が馬鹿だからだろ」


「身も蓋もない!」


「簡単に言えば、今のネイコはアテになんねぇ。だけど食料自給率はナッチメイルもジェミニカも低い。なら、この二国での協力関係を強めることが大切だろ。ネイコの内戦が飛び火しても、この二国が協力関係を築けていたらなんてことない」


ジェミニカは随一の軍事力を誇っている。

ナッチメイルは随一の科学力を誇っている。

今重要なことはジェミニカとナッチメイルの関係を密にすること。


「なるほど。……だから今【ナッチメイルの公爵】が来てるんだな」


「ああ。ナッチメイルの真の王と呼ばれるメイオール卿。先日の暴動を受けて少し不安定なジェミニカを引き締めるには有効な手立てかもしれないな」




_________




メイオールと鈴蘭の出会いは5年前の武道大会の時だ。

セピアを抜けた鈴蘭は、優勝の願いを叶えてもらうために王都を訪れた。


けれどその年の武道大会は殆どがどこかの貴族の息がかかった騎士。一般人の参加者は鈴蘭を含めてたったの三人だった。


その三人のうちの一人がメイオールだ。


隣国の公爵が国の行く末を決める大会に出ていたと知られれば大問題なのだが、その時のメイオールにとって自国のことなどどうでもよく、ただの暇つぶし。


そして鈴蘭に会ったのだ。


鈴蘭とメイオール、そしてもう一人の一般参加者である【パール】は境遇が似ていたからか、とても仲良くなった。

やがて鈴蘭が白き英雄になり、タイガの秘密機関宵闇に入れられても、二人は鈴蘭を支え続けた。


鈴蘭は宵闇では馴染めなかったが、メイオールのコネクションとパールの情報が鈴蘭の武器になり、そして鈴蘭の心の支えだった。







「……なるほど。鈴蘭も色々と大変だったんだなぁ」


鈴蘭はメイオールに王都に戻ってきてからの話をした。

季節は夏。日向にいてはかなり暑いため、日陰に移動してしばしの休息だ。


今は違うが、鈴蘭が唯一の友人と思っていたのはフローラ、メイオール、パールの三人だ。

久しぶりに会えた友達に、少し楽しそうに頬を色づかせて話す。


「鈴蘭は変わったな。少し寂しいが、良い傾向だ。友達は増えたのか」


「まるで父親みたいな質問だな。……まぁ、今は楽しい。友達……なのかはわからないが、周りは良い人たちばかりだ」


「ほうほう、それはそれは。パールにも聞かせてやりたいところよのぉ。あやつなら泣いて喜ぶぞ」


「ふっ、たしかにパールなら泣くかもな」


積もる話はあるが、時間は少ない。

メイオールはタイガと会談をしなければならないし、鈴蘭は側近として改めてフローラと挨拶に来なければならない。


それに一介の兵士と隣国の公爵が日陰で涼みながら談笑しているところを見られたら、また変に噂が立つ。


二人はさっと会話を切り上げて別れた。


すでに目撃されているとは気づかずに。




_________




メイオールはタイガを前にして微笑む。


「どうだ。元気にしていたかのぅ?」


「今は色々仕事があっててんてこ舞いだが、ぼちぼちな」


「てんてこ舞いて……聞かん言い方よ」


苦笑いしながら油断なくタイガを見つめた。


ここ最近、ネイコの動きが不穏だから協力しようというための話し合いの場なのだが、メイオールにとってはタイガも十分不穏な動きをしていた。


「先日の暴動の話は聞いた。しかし、そなたならば前もって手を打てたのではないのか?」


するとタイガは軽く鼻で笑った。


「皆買い被りすぎなんだよ。私だって目論見が外れることはあるさ」


「そうか。まぁそのことはあまり興味はないのだよ。我が興味があるのは鈴蘭とパールのことだけ」


「……またか。鈴蘭はやたらと人を惹き付けるな」


「だからこそ、そなたは鈴蘭を英雄に選んだのではないか。……タイガ、鈴蘭が剣を使えなくなったから国外追放にしたと聞いていたが、本当はそうではないのだろう?」


メイオールはくつくつと笑っていた。着物の袖口で口を隠している姿は上品な女性に見える。

けれど恐ろしいのは目が笑っていないのだ。


「不確かなものが神と崇められる。

神格化することが真の英雄となる。


謎の失踪とすることで、白き英雄を神格化させて英雄を神にしようとしたのだろう」


事実、白き英雄は今や神話だ。

数年でここまで神話のようになるのは些か不自然であり、作為的でもあった。


「それを知ってどうする。白き英雄の正体をバラすと脅すか? 可哀想な鈴蘭の待遇改善でも望むか?」


「……。鈴蘭の待遇を良くする方法など他にもあるから、いいのだよ。フローラも側にいるしな。……それよりタイガ。そなたは変わってしまったな」


メイオールの目が哀れんだように伏せられた。

昔はもっと大らかで、何事にも犠牲がつきものなんて思っておらず、心を痛めながら選択をする。そんな人だった。


鈴蘭を宵闇に入れたときも、裏で苦しんでいたことをメイオールは知っている。だからあえて口を出さず静観していたのに。


「私には時間がない。もう、後には引けない」


「……そなたの病、やはり進行しているのか」


「先日、腕の良い医者に余命1年と言われたよ」


タイガは何の感情もこもらずに言った。変えられないことだから、覚悟していたことだから。


「というわけだ。せめてジェミニカとナッチメイルの繋がりを固めておきたいのだ。そちらは最近海賊が活発に暴れていると聞くが」


「ナッチメイルは海と空を司る国。漁業が盛んであると同時に、どうしても海賊がでてくるからなぁ」


ジェミニカは宝石の国。と同時に地下資源が多い。

ネイコは自然の国で、農業と酪農が。

ナッチメイルは海と空の国で、漁業が盛んだった。


以前はこの三国がバランスをとって平和を保っていたが、ジェミニカの腐敗、ネイコの内乱とその均衡はもう崩れ去った。


「まだ海賊行為ならば手を打てる。だが、知っての通りナッチメイルはスラムの問題が重いのだよ。それに海賊がまた島から変なものを持ってきて……」


一つの大陸と、小さな島があるこの地球。

けれど大陸の三国は島に行く航海技術を持っていなかった。しかし、ナッチメイルの海賊は何故か高度な航海技術を有しており、島と貿易をしていたのだ。


「海賊が、島で得た不明の武器をスラム街の人々に配るときた。変な武器を使うからこちらも対応が難しい」


「わかった。スラムが武力行使してきたときには、ジェミニカから支援を行おう」


「ありがたい。ナッチメイルも問題が起きた際はジェミニカへ支援しよう」


メイオールはジェミニカとの協定に安心していた。ネイコのことも、もちろん不安材料だが、目下の課題は海賊のもたらす謎の物体たちだったからだ。

海賊が陸に来るとき検閲して押収するが、どれもこれも使いみち不明のものばかり。


先日も"つうしんき"という鉄の塊を押収した。


「あの島……《アイサルエ島》には、何があるのだろうな」




_________





その晩、鈴蘭は悪夢を見て跳び起きた。

睡眠大好きの鈴蘭が眠りから醒めるのは珍しい。

夏だからか、恐怖からか、ぐっしょりと汗で濡れた背中が気持ち悪い。呼吸も浅く繰り返して、心臓がバクバクと音を立てていた。


一度起きると中々眠れない。気分転換に中庭へと足を運んだ。








花は好きだ。

鈴蘭にとっては中庭が落ち着く場所だった。


しばらくそこに立っていると、人の気配がして振り返る。

そこには結城が黒髪をボサボサにして立っていた。目がとろんとしていて、この時間まで仕事に追われていたのだと想像できた。


「結城、大丈夫か?」


「……ん? 鈴蘭か。なんだこんな時間に」


「悪夢を見てな。涼んでいたところだ」


「いいな。悪夢でいいから俺も夢見てぇよ」


「……寝てないんだな」


結城の大きな欠伸に苦笑する。ショールは大分回復したが、まだ念の為部屋から出られない。その仕事を結城がこなしていたのだ。

結城とライトを特別役にしたからか、タイガに遠慮がなくなった。


「悪夢ったって、気にするなよ。それより寝れる時に寝とけ」


「そうだな」


結城の気遣いはありがたく受け取るが、今部屋に戻っても眠れないだろうと鈴蘭は確信していた。


メイオールと再会したからか。


宵闇にいた頃の夢を見たのだ。


「手が、赤い気がしたんだ」


鈴蘭の一人言は、静かな夜の中庭によく通った。

結城は真剣な表情で空を仰ぎ見る。


「詳しいこと言わなくていいけど、愚痴なら聞いてやる。星をみるついでだがな」


素直じゃない結城に、くすりと笑みが漏れる。本当に、今の自分は幸せだと思いながら。





「(私が剣を使えなくなった、あの出来事についての夢)」


鈴蘭は回想する。




『絶対に許さないっ!…………復讐してやるっ……お前をっ、殺してやるっ!!』


憎しみに染まった瞳が心臓を射る。


『人殺し! お前のせいで父さんは……死んだんだ!!』


ずっとずっと囚われていた。


『許さない! 化け物っ!!』


一人の少年の声が、耳から離れないのだ。


『忘れるな!! 絶対に忘れるな!』


忘れることなんて、出来ない。





過去という名の悪夢を。




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