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忘却の白と黒の記録書  作者: オトノシユ
1章 王都騒動編
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第19話 歩み寄りたい人たち

「でも、どうして兵士は脱獄したのかしら」


不穏な空気が漂う報告会に、フローラが口を挟んだ。


暴動時の敵の侵入。

兵士が脱獄し殺害されたこと。

そこを見れば内通者の存在を想像することはできるが、そもそも何故殺害されたのか。


「もしも口止めでということなら、牢獄ででもできたはず。何故脱獄させて、殺害して、わざわざ噴水広場へ移動させたのかしら」


「答えは簡単。あいつらは"この状況"を作りたかったんだ。つまり目立つ噴水広場に兵士を移動させることで、国民に内通者がいるとわからせて、王都を猜疑心の混乱に陥れようと思っている。実際今俺たちもお互いを疑いだした。噴水広場という公共の場が現場になることでインパクトが国民に与えられる」


「国民にとって、王宮に内通者がいるかもしれないという不安は政府――王族への不信感に繋がる。それに味方同士で疑い合い、諍いが起きかねない。よく考えられた作戦だ」


結城の答えに、タイガが初めて声を出した。結城以外の全員の気が張り詰め、背筋を正す。


鈴蘭は特に、王都に戻ってきてから初めての対面だったせいでなんとも言えない圧迫感を感じていた。カイトに対しては比較的ラフにいられる。けれど柔和な性格なのは知っているが、タイガには気安く出来ない。


「王都は猜疑心に満ちるだろう。結城はこれからどうするのか最善と考える?」


タイガの御前でも、結城は毅然とした態度で言った。


「放置」


ライトが口を開けて驚いたが、信頼関係がそうさせるのだろうか疑った様子はなかった。

結城はそれを見て満足したのか、尊大に笑う。


「言ってしまえばここにいるメンバーは、正門にいたというアリバイがあるライト以外、全員容疑者になり得る。絞り込みが難しい状況を作ることがリコリスたちの狙いなら、それに踊らされていてはあいつらの思うツボだ。しばらくは騒がしいが、こっちが静観しとけば人の噂もすぐ消える」


するとタイガはふっと赤い瞳を光らせる。


「面白いな。……結城。お前がこのライトという男を連れてきたのはどうしてだ」


「こいつは頭は悪くないがバカだ。今のところ、俺の味方であり、あんたの味方だ」


バカなんてひどい! とライトは抗議したかったが、雰囲気がそれをさせない。一応味方だと思われていることは良しとしよう。


「……。今回の暴動についてはよくわかった。今後は無意味に猜疑心を煽ることを禁ずる。街の住人が多少騒ぐだろうが、一つずつ潰していくように」


「「了解」」


それと……と、タイガは付け加えながら結城とライトの方を向く。やはりライトは慣れなくて緊張してしまう。


「結城、ライト。お前たちには私の特別役に任命する」


特別役。実力主義国家だからこそできる役割だ。

実力や信頼を認められた人が任命者が何かしらの指示を出した場合に限り、高位の権力を一時的に与えられる。普段この役を持っていても特に何もない。


「今後私はお前たちに命令を出すだろう。その時どれだけ活躍してくれるか、楽しみにしている」


「(待って!? 結城はともかく、俺何もしてませんよーー!)」


ライトは結城の仕事の手伝いをしていたが、あくまで手伝い。なぜ自分もこんな凄まじい立場をもらえたのかわからなかった。


ライトの慌てぶりに気づいた結城が、呆れたように軽く頭を小突いた。


「落ち着け。お前自身が自分の有用性を理解してなくても、タイガには理解されたんだからいいんだ」


「有用性って、俺は剣も頭脳も平々凡々だけど」


「言ったろ。お前はアリバイがあって疑われてないって。そして俺がこの報告まとめるために必要な情報人から聞き出して集めたのはお前だったろ? 人の警戒心を解いて話をさせるってのは誰にでもできることじゃない」


ライトは息が止まるような感覚を感じた。周りにすごい人が多くて、追いつきたいけど圧倒的力を前に追いつけなかった。


自分には何もない。


そう思っていたけれど、結城にとっては……そして鈴蘭とヒスイとっても、そんなことはなかった。

合格発表の時に三人がライトに心打たれ合格を放棄しようと思ったのは、ライトを信じたからだ。ライトの行動と人柄に揺さぶられたからだ。


「ライトは俺じゃないし、俺もライトじゃない。鈴蘭もヒスイもだ。自分にできることをしてればいいんだよ」


「……そうだな。ありがとう」


「ふん、別に。……おい、ニヤけんな」


結城の冷たい黒色の目が吊り上がるが、ライトにとってはちっとも怖くなかった。



___________




ヒスイは結城とライトの仲良さを見て、心に燻ったものを感じていた。

これは前々からあったものだが、見てみぬふりをしていただけだ。


報告会が終わったあと、フローラの後ろで鈴蘭と並んで執務室に戻ろうとしていた。

ちらりと鈴蘭を横目に見るが、一見変わった様子はない。


「(鈴蘭はタイガ王子と会ったことがあるのかな)」


報告会での二人は視線も声も交さなかった。けれど最後の最後で少しだけ話をしていたのだ。それは旧知の仲だと言われれば納得するような空気だった。


そもそも、鈴蘭とフローラの関係だってわかっていない。けれど二人に自分にはわからない強い絆があることは間違いなかった。


「(僕は……ここにいていいのかな)」


フローラは鈴蘭を違和感なく側近にするために自分も側近にしたのではないか。

本当は自分は二人の邪魔なんじゃないか。


ヒスイは結城とライトが羨ましかった。自分も、鈴蘭と相棒のようになりたいと思っていたから。


何もかもが不明な存在なのに、何一つ話してくれない。それとなく訊いてもはぐらかされるだけ。鈴蘭は自分を信頼していないのだろうか。

フローラを尊敬して側近として働いているが、フローラは自分を認めてくれているのだろうか。


「(二人に「信頼してほしい」って思うなんて、僕は我儘で面倒臭い人なのかも)」


自分がいつも、二人からはみ出ている気がしていた。



__________




街の人々は、やはり内通者の可能性に気づき始めた。

なぜか新聞には門を開けたのは殺された兵士だと載っていたため、敵の侵入はその兵士の手引と定着されていた。

けれど兵士の脱獄と殺害は一人ではできないとわかったのだ。


「今日も街の人は不安そうだったのー」


「そうか。何か手をうてたらいいのだけれど」


鈴蘭はゴリゴリ薬草をすり擦り潰すルイの隣で話を聞いていた。ルイはリボンをゆらゆら揺らして前に後ろに石の車輪で挽いている。

時折真剣に薬草を判別して加えているのを見ていると、本当に優秀な助手なのだとわかる。


「にしても鈴ねぇが約束通り来てくれて嬉しいのー。買い物中の薬師は悔しがるだろうなー」


「ホタルさんとは何度か会ったんだが、あれから一週間もルイとは会わなかったから……。明日客人が来るから用意で手間取っていたんだ」


「あー、薬師から聞いたの。隣国の公爵さんなの。こんな時期に来るなんて、なんか不思議なの」


「私もよく知らないんだけどね」


ゴーリゴーリという音がなんだか心地よい。年下との会話だからか、鈴蘭の心は穏やかになっていた。

そこで少し疑問に思っていたことを質問してみた。


「ルイはホタルさんのことを薬師って呼んでいるけど、ホタルさんは医者じゃなくて薬師なの?」


「薬師は元々毒と薬の研究をしていたの。それで薬師になったんだけど、医学の知識も必要だったみたいで途中から医学の勉強も初めて医者になったの」


「なるほど。すごいな」


医者が薬師というパターンは多くはないが少なくない。けれど内科医と薬師というのはあれど、ホタルのように内科にも外科にも詳しく薬学の知識もあるというのは本当にすごい。


「鈴ねぇ、来てくれてありがとなの。本当は仕事忙しいんでしょ? カイト王子もショールさんももう良くなってきてるから、安心して仕事に戻っていいよなの」


「ん、ありがとう」


鈴蘭はふわりと優しく微笑んでルイの頭を撫でた。ルイは擽ったそうに、嬉しそうに目を細めるのだった。



_________




執務室に戻っている途中、ショールの部屋から言い争う声が聴こえて思わず足を止めた。


「……るさいなぁ。俺はあんたが一番苦手だって知ってて絡んでくるの? 質悪すぎでしょ」


「少しでも歩み寄れないかな……?」


「今は無理。帰って」


扉が開いてホタルが外へ押し出された。うっかり立ち聞きしていた鈴蘭と目が合う。

ホタルは困ったように苦笑した。手には籠いっぱいの果物がある。


「あ、すみません。立ち聞きするつもりはなかったんですが……」


「いえ。騒いでしまいすみません。どうもショールから嫌われていまして。……あ、よかったらこの果物フローラ姫たちと食べてください。果物も食べてもらった方が喜ぶでしょうから。それでは」


ホタルは少し悲しそうにその場を後にした。鈴蘭は果物を受け取るしかなく、見送ったあとで籠に視線を落とした。

林檎、苺、サクランボ。鮮やかな赤色が揃っている。しかも籠のロゴがライトが前に働いていた、王都一評判の良い果物屋だった。


店も果物も、全てショールが好んでいるものが揃っていたのは、偶然ではないだろう。


「貰いづらい……」


………

……


結局、果物を切って皿に盛り付け、ショールの見舞いとして持っていってあげた。ショールは気づいているのか気づいていないのか、普通に喜んで食べていた。


もう歩くことも可能で、傷口も塞がってきている。けれどあまり刺激したくもないので、ホタルの話は避けながら会話をした。


果物を全て食べ終えると、ショールが真剣な表情で鈴蘭の方を見る。


「ねぇ鈴蘭。今回の暴動で俺やカイトや他の兵士も大きな傷を負った。城も破壊された。今国民は猜疑心で不安な気持ちでいる。……タイガに何かメリットはあったと思う?」


ショールの疑問はずっとそれだった。

先手を打てたのに、ショールに何もするなと言った。

利用させてもらうと言っていたが、現在この有様。


「メリット、というか。得たものといえば姫様の人気だろうか。確かに政府――王族への不信感は高まったが、姫様の支持率は高いままなんだ。暴動の時の演説で」


「ああ、暴動直後はフローラ、カイト、タイガの人気が上がったね。翌日の兵士殺害以後プラマイゼロになったけど……フローラは人気のままなんだね」


「私が思いつく得たものはこれくらいしかないな。力になれずすまない」


「いやいや、参考になったよー」


ショールは笑顔を貼り付けながら、考える。

得たもの、フローラの人気、タイガにとってのメリット……


「(やっぱり、タイガの考えることはわからないな)」

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