表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却の白と黒の記録書  作者: オトノシユ
1章 王都騒動編
2/93

第1話 創られた路




賑やかな王都。あちらこちらでキラキラと装飾が輝いている。ショーウインドウからは見事な彫り物や可愛らしい小物が見えて、幸せそうなカップルが指を指しながら笑っている。



別の店からは、くるみ割り人形を抱えて出てくる男。

ベンチには、一人切なげに佇むおじさん。

道の真ん中には寒そうにカタカタ体を震わせているライター売りの女の子。

特に必要でもないのだが、俺がその女の子からライターを5つほど買ってあげると、その子は喜んでどこかへ駆けていった。



そして、ライターを適当にポケットに入れながら薄く雪の積もる石畳を歩く俺は、あてもなく大通りに来ているだけの男だ。寂しいお一人様。

俺の名前はライト。母がソーダライトという石からつけてくれた名前だ。新米ではあるが、城に仕える兵士という以外は至って平凡な18歳だと思う。



現在、1106年12月25日聖礼祭当日の23時前。

街は一ヶ月程前から聖礼祭に向けて活気づいていた。だから当日ともなればこれだけ遅い時刻でも、こう活気があっておかしくない。



12月25日は、この国ーー《ジェミニカ》の神へ感謝をする日だ。その名も《聖礼祭》。昔からの伝統的な行事で、ジェミニカ国民はこの日を大切にしている。

しかし、この日が国民から大切にされているのは、伝統的な日だからという理由だけではない。この12月25日は《白の革命》が終わった日でもあるのだ。今日で6年目になる。



1100年12月25日。白の革命。

その頃のジェミニカでは、王族の力が弱く、貴族が力を振るい国民を虐げ贅沢をしていた。貴族の横暴に国民は怒りを募らせていたが、貴族の所有する騎士団からの弾圧で何をすることもできなかった。



そんな時に現れたのが《白き英雄》。

白き英雄のおかげで革命は成功し、今の豊かな暮らしの原点となった。今では一般人も活躍できる実力主義の国として他国にも注目されている。



まだ6年しか経っていないが、白き英雄の存在は神話のようになっている。というのも、あの人は革命から1年後に失踪したからだ。正体が不明であればあるほど噂は増えるし、神話性も増す。




何がともあれ、今日はジェミニカの一大イベントというわけだ。数日前聖礼祭を襲おうとしていた奴らも無事に未遂で【鈴蘭】が解決してくれたから、今日平和な聖礼祭を迎えられている。



「……はぁ。鈴蘭と聖礼祭の屋台見て回りたかった」



とぼとぼ進む足は遅い。

鈴蘭とは、俺と同じく今年城仕えの兵になった女剣士だ。けれど俺と違うのは、異例の昇進により姫の側近になった、飛び抜けた実力をもつ剣士だということ。しかも今年の4月から今月までいくつもの騒動の収束に一役買っている有名人。

凛々しい姿と流れるような黒髪、敵と対峙した時に冷ややかに光る紅色の瞳……めっちゃ格好いい!

そんでもって、いつもはあんまり表情が変わらないけど時折見せる優しい笑顔は温かみがあって、すげー可愛いんだ!



正直に言うと、俺は鈴蘭のことが気になっている。この感情は一方的な憧れであり、敬愛であり、もしかすると恋愛……なのかもしれない。こういう感情は初めてで、よくわからない。



「そもそも、ただの友達でしかないしな」



俺が鈴蘭のことを気にしてるって、本人に伝わっているか怪しいところ。……いや、多分絶対伝わってない!

それでも少しくらいは意識してもらえるように日々努力してはいるのだけど、いかんせんライバルが多い。今日だって【ホタルさん】に誘われて何処かへ行ってしまったし。



ホタルさんっていうのは、鈴蘭と何故か仲が良い薬師だ。同性の俺から見ても、圧倒的美青年。物腰が柔らかくて誰にでも優しいし、さらさらの蜂蜜色の髪に、何て言うのかな……美しい湖の青色……の瞳という、童話の王子も裸足で逃げ出すのではないかと思うほど綺麗な人。しかも思わず平伏したくなる神々しいオーラを纏ってる。



ね?俺の勝ち目が見えない。



「……つらい」



ふうっと白い息を短く吐いてポケットに手を突っ込む。ごろごろとライターが指に当たって地味に痛い。

なんか……切ない。



「……。うわっ!!」



少しぼんやりしていると斜め後ろから誰かに背中を押され、そのまま勢い余って裏路地にすっ転んでしまった。人が多いからぶつかるのはよくあることだけど……



「いってて……。今の、押すって言うより叩かれた感じがしたんだけど!?……というか、一応兵士として鍛えてるのに転ぶとかカッコ悪……。自分が情けなさ過ぎてそろそろ泣くぞ?」



ぶつぶつ独り言を言いながら起き上がると、真っ暗な路地の先に一つの看板を見つけた。暗くてよく見えないけど、よくよく目を凝らすと細かい装飾がされた看板だ。



「えっと。《世界の図書館》?なんだここ」



知る人ぞ知る、といった雰囲気に興味をそそられる。



「少し見てみようかな」



もとよりあてもなくふらふら歩いていただけだ。少しの寄り道もまた一興。

そう思って裏路地へ入り、図書館の扉を開けた。



「すみませーん」



木造の扉がギギギと音をたてて開く。念のために中には入らず、入り口から声をかけてみたが何の反応もない。図書館というくらいだから自由に立ち入っても良いのだろうか。



数歩中に入ってみると、薄暗い室内は空気がこもっていて紙の匂いが襲ってきた。それでも決してカビっぽいとかではなく、埃もないし綺麗と言えた。

上品なデザインのランプ、貴族が使いそうな椅子、光沢のあるテーブル。ここは城の一室か?と思うほどの内装で、街の裏路地の奥にある店だとは思えない。



少し先へ行くと、小さな案内があった。



『ようこそ世界の図書館へ。ここは誰もが立ち入れて、誰も立ち入ることのできない聖域でございます。なので室内で騒ぎ立てぬようお願い申し上げます。また、飲食もご遠慮下さい。』



「……聖域?」



『なお、この図書館は誰でも好きに本を持ち込み棚へ入れて置くことが出来ますし、誰でも本を持ち出すことが出来ます。』



「へぇ、勝手に本を入れたり取っていったりしていいのかぁ。だから受付人は居ないんだな」



言い回しが変な案内板を通り越し、端の本棚から見て回る。新しい本から古い本まで。有名な本から素人らしき手書きの本まで、様々だ。



「こんな図書館があるなんて知らなかったな。【結城】とか喜びそうだな」



結城という男も、俺達と同様今年入った新米兵だ。同僚ということもあって、一番一緒にいる友達。

黒い髪に黒い瞳の知的な見た目の通り、すごく頭がきれる。騎士からプロファイリングの依頼が来るくらい。

ただ、ツンツンツンデレくらいで、俺にだけ当たりが強い。さっきも……



『鈴蘭を聖礼祭の散歩に誘えなかったっ』

『見てたから知ってる。めそめそすんな。うざい』

『……。ま、そうだな。いつまでも落ち込んでられない。そうだ、パトロールがてら聖礼祭の街を見に行かないか?』

『わざわざ人混みに行くお前の気が知れねぇな。一人で行ってこい』



と言って大通りに来てくれなかった。おかげでぼっち聖礼祭だよ!まぁ、根が優しいのは知ってるからいいんだけど。



面白い本はないかな、と題名を読みながら本棚を見ていると、奥のテーブルに本が積まれているのを見つけた。

……誰かの読みかけだろうか。



「【忘却の白】。なんだろ、ちょっと気になる題名だけど」



置きっぱなしにされているのは4冊。表紙も全て真っ黒で《怖いもの見たさ》という感情をくすぐられる。書店でも王宮図書館でも見たことない。



周りに人の気配はない。もしかすると、誰かが読みっぱなしで直さずに帰ったのかも。



……読んでみようかな。



椅子に腰掛けて【忘却の白 1】の表紙を捲った。作者は【セカイ】というらしい。面白いペンネームだ。

何となく未知の感覚に胸を踊らせ、ページを捲る。




年号描きましたが、あんまりに気にせず読んでください。

伝えたかったのは、この世界ではクリスマスはないんですけど、クリスマスっぽい日に一人街を歩いてる子ってことです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ