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忘却の白と黒の記録書  作者: オトノシユ
1章 王都騒動編
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第13話 状況的伏線

【第七話 観光!】



「というわけで、王都クレアノト観光へようこそ!」


「テンションたけぇ……」


パチンっとウインクするショールに、結城は疲れたように息をついた。その後ろには、鈴蘭、ヒスイ、ライトもいる。


「本日は俺の思いつきによる王都案内をするね。総合兵隊には休暇届け出してるし、フローラからはお茶会の間二人の息抜きをさせてくれって逆に頼まれたから、安心していいよ」


「わぁ、準備万端ですね」


ヒスイはふわふわと笑う。鈴蘭も、主人が気を遣ってくれたのならありがたく受け取ろうと、穏やかだ。

けれどライトと結城はサァーっと顔を青くした。


「入隊してまだ一月しか経ってないのに……俺ら休暇使っちゃったんですか!」


「明日は二日分の仕事が舞い込みそう……」


ショールは笑いながら、二人の頭をぽんぽんと叩いた。新入りなのにこうも仕事仕事な毎日だと可哀想だと思いながら。


「二人の休暇は使ってないよ。今日の仕事は昨日俺が代わりに終わらせたんだ。で、隊長さんに代わりに一日休暇出してやってねーって。もちろん仕事は自分でしないといけないけど、今回だけ、特別」


昨日自分の分も含め、三人分の仕事を終わらせたというのだ。優秀さが垣間見える。


「せ、先輩っ! ありがとうございます!」


ライトは仔犬のように真ん丸な瞳を輝かせる。

結城はふんっとそっぽを向きながらも、ボソッとありがとうと言っていた。


それを見た鈴蘭とヒスイは唖然とする。


「鈴蘭、あれって本当にショールさんかな……?」


「偽物に違いない。あんな先輩らしい振る舞い……偽物だ」


「ちょっとそこの二人、聴こえてるよ。まったく、二人のことも影から色々サポートしてるっての」


後半は誰にも聞こえないほど小さく呟く。例によって五感の優れたヒスイには聴こえていたが、ヒスイは穏やかに笑みを深めるのだった。


「皆、良い人たちだね」


「……そうだな」


ヒスイの言葉に、鈴蘭も優しく答えた。



_________




まずショールが案内したのは城から少し歩いた場所にある大きな競技場だった。


ライトは王都で育ってきたが、残りの三人は外部から来た人たちだし、審査に合格してからはゆっくり城下を回る暇もなかった。


「これが《ジェミニカ武道大会》で使用される競技場だよ」


「王都に来てからあまり城から出ていなかったから……しっかり見たのは初めてだ」


むすっとしている結城が、珍しく純粋に建物に見惚れていた。建物自体は古いもので決して最新技術が使われているのではないが、昔造られたにしてはあまりにも立派な建造物。

遥か昔に思いを馳せて、結城はその場から動かない。


結城が固まっている間に、ヒスイはショールに話しかけた。


「ジェミニカ武道大会って、7年に一度開催される大会ですよね。優勝したら一つ願いを叶えてもらえるとか」


「そう。富も名誉も権力も、王が叶えられるものは何でも叶えてくれる。それがジェミニカの伝統だから、王も多少無茶な願いも叶えざるを得ないんだよね」


するとライトが話に加わって尋ねる。


「それだと、悪意ある人が優勝したら大変なことになりそうですよね」


「次の武道大会は来年。それまでには法律も作られて対策されると思うよ。流石に前回みたいになったら大変だし。……そろそろ次に行こうか」




_________




次に五人が来たのは、真っ黒に焦げて少し崩れている建物だった。比較的街の中心にあって、異様な雰囲気がある。


「この建物は、有名な恋物語の舞台になった建物だよ」


「あ、俺聞いたことあります。ここは元劇場で、そこの踊り子の恋物語が書籍化して大人気ヒット。恋愛のパワースポットになったとか」


鈴蘭はその言葉を聞いて周りを見回した。

カップルがほとんどだ。


「なるほど。それで私たちはこんなに浮いていたのか」


「まー、そうだろうな。傍から見りゃ、恋愛のパワースポットに来てる男五人だぜ」


「男五人って、私もカウントされてるか?」


「当たり前」


結城が知的な黒い瞳を意地悪く細めて笑う。いつもクールだが、こういう人をからかう時はいきいきしている。


「俺はそうは見えねぇけどな? ライトはそうじゃないらしいし」


「うわっ、飛び火した! ってか、それは初対面の時だけであって……今はっ……」


ライトは周りのカップルを視界に入れると、急に顔を真っ赤にし、口をぱくぱくしだした。初めての一目惚れで戸惑っていた心が揺れ動く。

鈴蘭はというと、ぽやんとしたまま特に気にしてもいないようだった。


「うぅっ。先輩、もう行きましょう!」


「はいはい」



__________




鈴蘭は冷酷に見えて少し天然だ。

結城はクールに見えて意地悪。

ヒスイはずっとふわふわで温かく微笑んでいる。

ショールは飄々としているようで面倒見が良い。

ライトは終始皆にからかわれる明るい存在だった。


そんな五人で王都を見て回り、日が暮れてきた頃、ショールの行きつけの喫茶店で一息ついていた。


「ヒスイと鈴蘭とライトが紅茶、結城がコーヒー、俺がいつもの……と」


街の大通りから少し外れた静かな場所。大盛況とまでいかないが、場所にしては客は多い。蓄音機から流れる音楽や薄暗い明かり加減が、落ち着いた雰囲気を作っていた。


「いい場所だなぁ」


「でしょう? ヒスイも気が向いたらおいで」


注文を終えたショールが満足そうに返事しながら戻ってきた。注文くらい自分がやりますとライトは名乗り出ていたが、ショールが全てやってくれたののだ。こういうところ律儀だと鈴蘭は思った。


「にしてもライト以外王都のこと知らなかったから、案内しがいがあったよ」


「そういえばそうですね。三人はどこから来たんだ?」


「俺は王都から離れた田舎だ。そのせいか人混みは慣れないな」


結城が少し疲れた表情で言った。やはり田舎と都会では空気が違うせいか、半日街を歩いただけでバテている。

頭脳明晰で新人にもかかわらず総合兵隊で重宝されている結城だが、体力はあまりないのだ。


「結城にも弱点があったんだな」


「弱点だらけのお前に言われたかねぇよ」


ライトと結城の軽い言い合いは、この一ヶ月で二人が良い関係を築けていることをよく表していた。鈴蘭たちほどではないが、ライトたちもそこそこ苦労した日々だったのだ。

そのお話はまた機会があれば。


「そういえばヒスイはどこから来たんだ? 稽古で練習試合していて、ヒスイの剣技は特徴的だと思っていたんだ」


注文していた飲み物がテーブルに届く。

鈴蘭は紅茶にミルクを入れながら尋ねた。鈴蘭はミルクティーが好きで、基本まろやかなものを好む。

ちなみにヒスイは特に好き嫌いはないが、素朴な味を選ぶ傾向がある。というわけでストレートティーだ。


「僕はジェミニカ最北端の極寒地域に住んでいたよ。寒すぎて野生動物を狩らないとやられるし、生きていけないから、剣術は自然と身についた感じ」


「野生動物が師匠か。道理で見た目によらず豪快で実践的な剣術だ。素晴らしいと常々思っていた。参考にさせて頂く」


「いや、鈴蘭には及ばないよ。僕も鈴蘭の隣に立てるくらい強くなってみせる」


「嬉しいことだ……。負けていられないな」


ヒスイは本気で謙遜するが、鈴蘭は滅多に人の剣を認めない。それは自他へストイックであるが故だ。

お互い認め合い、相手から学ぼうとする姿勢に周りの三人はややゾッとした。


「こいつら……どこまで強くなるつもりだよ」


「ひぃぃ、俺二人に稽古付き合ってもらったことあるけど、五秒もてば上々くらいなんだけど!」


「騎士にもわからせたい実力なのにねぇー」


鈴蘭は白き英雄だ。しかもタイガの秘密機関である宵闇で単独で活躍していたことからもわかるように、鈴蘭の強さは人の域を超えている。

ヒスイは鈴蘭にとって初めて、近いところまで来てくれる人だった。


「鈴蘭も田舎から出てきたとか?」


ライトはレモンを入れた紅茶を横に退けて、少し身を乗り出す。あからさまに興味津々という態度に、結城は呆れたように溜息をついたが、ライトは気にしない。


「私は……、各地を旅していた」


ジェミニカを追放されて他国でひっそり剣の修行していた、なんて言えない。

けれどライトは目を輝かせる。


「旅してたのかぁ、すごいな!」


「……はは、そうか」


いつもなら普通に嘘をつけるのだが、全く疑わずに純粋な目を向けてくるので罪悪感がすごい。鈴蘭はそっと視線を逸す。

と、面白そうにそれを眺めているショールと目が合ったのでむっと睨んでおいた。


けれどライトの質問攻めは終わらず、どんな稽古をすれば強くなれるのか、何をしているかを鈴蘭とヒスイに訊き続けた。


「ライトって意外と積極的だね」


「あーなると止めれません。放置です。二人には生贄になってもらいます」


結城がコーヒーに口をつけてちらっとショールをみて……手が止まる。


「ショールさん、その飲み物なんですか……」


「シュガーミルクのこと? 美味しいよ〜。ミルクに蜂蜜と角砂糖と練乳をまぜたやつなんだけど、マスターが俺用に作ってくれたメニューなんだ」


「ほぼ砂糖だな。ショールさんしか注文しなさそうですよ」


結城は甘いものより苦いものが好きだ。特にコーヒーをこよなく愛し、ありとあらゆるコーヒーを飲んできた。


「ここのコーヒーは美味い。今までに飲んだ中で二番目くらいに美味い。……コーヒーがある世界で良かった。もしも無かったら、一度世界を終わらせてコーヒーの世をつくる」


「そこまで!? 狂気さえ感じるコーヒー愛だね」


ショールは苦いものよりも甘いものが好きで、生粋の甘党と言える。お互い相容れないようだ。






こうして、唐突に始まった王都ツアーは終わった。鈴蘭とヒスイ、ライトと結城のパートナー同士の仲も深まり、ショールを含めた五人で一緒にいることも、自然なことになった。

それがショールの思惑だったのか、それともただ単に仲良くしたかったからなのか、それはわからないけれど。



※※※※※※※※※



この時すごく楽しかったのを覚えてる。これがきっかけで五人での距離も縮まった感じは確かにあるな。


未だに結城のコーヒー狂いは理解できないけど。だって、一日十杯は飲もうとするんだぜ? 肌がコーヒー色になりそう。

だからといって先輩の甘党も理解できないけど。


この本にしてはほのぼのパートだったから、少し心の安息になった気がする。


……あれ? そういえば、どうしてこの本に不必要そうな日常パートが入ったんだろ?

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