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忘却の白と黒の記録書  作者: オトノシユ
1章 王都騒動編
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第12話 側近奮闘記

【第六話 カーナ・カーネリアンの信条】



フローラの側近になってから数日が経った。三人とも穏やかな人柄のため、その中でトラブルが起こることはなかった。

けれど、問題は……


「また騎士に嫌がらせされたの!?」


フローラの怒りの声が執務室に響いた。鈴蘭もヒスイも特に気にしていない様子ではあるが、フローラだけがぷりぷり怒っている。


「嫌がらせと言っても、集団で囲まれて『表に出ろ』って言われただけですよ。丁重にお断りしましたし」


「ヒスイそれは、言われただけ、なんてもんじゃないのよ! 騎士がそんなチンピラみたいなことを……」


鈴蘭の方も似たようなことをされた。最初こそ驚いていたが、こうも連日されたら嫌でも慣れる。それにそういうことをする騎士は本当にごく一部だ。

加えて、なんだかんだで毎回ショールが助けに入ってくれるのだから。


自分より、鈴蘭はヒスイの方が心配だった。


「ヒスイは本当に大丈夫なのか?」


「え? 大丈夫だよ」


眉をハの字にして微笑む。

大丈夫だと口では言っているが、鈴蘭にはなんとなくわかっていた。


「(ヒスイ、お前は……騎士を怖がっているだろう)」


初めてカルセドニーと対面した時、フローラ奪還作戦の時、騎士にちょっかいをかけられている時。

きっと一番側にいる鈴蘭しか気づかない違いだろうが、ヒスイが怯えているようにみえたのだ。


けれどそれを聞いてみようと思う勇気はない。



_________



「鈴蘭、今日までの書類持ってる?」


「持ってる。昨日までに纏めておいた」


「それが、訂正があるらしいんだ。3枚目から7枚目までがーー」


「ああ……申し訳ないが、今から会議があるんだ」


「あ、そうか。役割分担で今回は鈴蘭が出席するって決めてたね。その書類は僕がやっておくよ」


「ありがとう」


鈴蘭とヒスイの様子を見に来たショールは、バタバタと忙しなく働く二人に唖然とした。


「え、え、ちょっと待って」


寝不足で目つきがよろしくない二人がショールの方を向いた。ヒスイはともかく、鈴蘭は忙しいから後にしてくれと言わんばかりのオーラがでていた。


「会議は置いておいて……その半端ない書類の山、誰から任されたの?」


「ええと、カーナさんです。カルセさんからの指示って聞きまして」


ヒスイの遠慮がちな言葉にショールは戸惑ったような顔をする。


「え、カルセは今スラン騎士隊に同行して王都を離れてるんだけど」


とそこまで言って、合点がいったようにふっと笑ってみせた。


「……ああ、なるほどね。カーナの捨て身の作戦か。」


「? どういうことだ」


「また今度言うよ。……その仕事も二人が終わらせてくれたことだし、俺ももうひと仕事しますか。安心して気楽に待っててよ」


ひらひらと手を振って颯爽と去る。彼はなんだかんだで面倒見が良い。噂によると、最近は会えていないがライトと結城の世話もしているくらいだ。


「カーナさんの捨て身の作戦……?」


「あぁっ、鈴蘭! 会議の時間!」


「あっ」




__________




数日後。


「まったく。素直じゃないよね、カーナも」


ショールはライトブルーの瞳を細めてにやりと笑う。


カーナは王都に戻ったカルセドナに、つい今しがた謹慎処分を言い渡された。今回のことは軍部大臣であるカイトも騎士団長カルセも、カーナの行いの理由を理解していたために処罰は軽い方だ。


カーナはツンとした様子で答える。


「さて。何のことでしょう」


「今までの騎士の嫌がらせは、上手く証拠を消していたから言及しにくかったんだ。でも今回書類という物的証拠があるから仕事怠慢で押し付けたって証明できた。これを期に騎士たちに事情聴取できるようになったし、今までの嫌がらせ被害についても処罰できるだろうね」


実を言うと、ショールは二人への嫌がらせをどうにかするようにフローラに命じられていた。そこであれこれ情報を手に入れていたのだが、今回カーナが動いたことでその情報もより効果的に使えるようになった。


にこにことショールは続ける。


「わざとやったでしょ? 二人を助けるために。なんで? カーナは二人のこと嫌ってたんじゃないの? カルセが就くはずだったフローラの側近という立場を取られて、騎士を侮辱されたように感じたんじゃないの? 気になるなぁ、今何を考えてる?」


カーナは早口な質問にぎょっとして顔を顰めた。

ショールはカーナよりも立場が上で、付き合いも多くはないが少なくもない。知識欲の変人だと知ってはいたが、ハッキリ言って引く。


「騎士道を貫くカルセドナ・アリスターという人間を、私は心底尊敬しています。カルセさんはこんなこと絶対に許さないだろうし、私も姑息真似は許せません。誇り高き騎士なのですから……!」


カーナの言葉は多くはなかった。けれどそこに込めれた信条は、誇り高き騎士を重んじる真っ直ぐなもの。

ショールはその姿に一層笑みを深めて、そう、と言葉を返してその場を去った。


「真っ直ぐな人がこうも多いと面倒だねぇ。……なぁにが誇り高き騎士だ」


ショールの悲しそみに満ちた表情を見る人はいなかった。



__________



それからまた数日。嫌がらせは全くなくなり、やっと鈴蘭たちに平穏が訪れた。


鈴蘭が、初めてできた空き時間に稽古場で剣を振っていると、天井からショールがぽとっと落ちてきた。


「おはよー。頑張ってるね」


「ぽとって……擬音おかしくないか? いつも変なところから登場しないでほしいのだけど」


「えーー。いつも気配でバレてるんでしょ? 普通登場しても一緒だよ」


一緒じゃない。と言い合っているとキリがないので、そこで止める。

代わりに、何の用だと尋ねると、特に何でもないよと返され、鈴蘭はますます困ってしまった。


「……そういえば、嫌がらせがなくなったんだ。ありがとう」


「俺は何もしてないけどね。でも鈴蘭に感謝されるの気分良いし、貰っておくよ。あとで見返りと交換でよろしく」


「やっぱりその感謝返せ」


はぁ、と溜め息をついてから、気になっていたことを聞いてみる。


「嫌がらせがなくなったのって、カーナさんが関係していたりするか?」


鈴蘭は大体カーナのやったことを理解していた。


「ご名答。鈴蘭が想像してるのであってるとと思うよ」


「……カーナさんは真っ直ぐなんだな。騎士の家系か?」


「大正解〜。どうしてわかった? え、真っ直ぐだから騎士家系だと思ったわけじゃないよね」


鈴蘭は視線を天井に向け、次に出入り口に向ける。視線の先はどちらもそこに画かれた紋章にあった。


「王宮の各所に、このいくつも連なった紋章の絵がある。そしてどの絵も比較的新しい……これはおそらく革命後に画かれたもの。もろもろ合わせて推理すれば、革命前後一貫して王族に付いていた貴族や騎士の家の紋章とわかる」


そして紋章の指差す。


「カルセさんがいつも持っている飾りはあれ。カーナさんが持っていた飾りはあれ」


「君の観察力には舌を巻くよ。ねぇ知ってる? カーナの家系……カーネリアン家の複雑な事情」


微妙に気になる言い回しをする。

聞きたい? 気になる? と言わんばかりだ。

かなり癪に障るが、空気を読んでみた。


「複雑な事情とは?」


「革命前……貴族の力が強かった頃、カーナの兄が裏切って貴族側についた。けれどその後、彼は亡くなったんだ」


亡くなった


鈴蘭は視線を斜め下に落し、悼むように口を閉ざす。


これ以上の深追いは不躾だと思ったが……、ショールが無意味にこんな話をするわけがない。何か思惑あってのことではないかと思うくらいには、鈴蘭もショールに慣れていた。


「それは事件性でもあったのか……?」


「いいや、死因は……不明なんだよ」


ショールは淡々としていた。事実を述べているだけ、という態度だ。


「代々王族に仕える騎士の家系の長男でありながら、私欲のために貴族に寝返った彼は、家の中でも社会的にも孤立していただろうよ。

……彼は亡くなる前、"ある作戦"に参加していた。鈴蘭も知ってるんじゃない?革命前に貴族が熱心にやっていた作戦」


息が止まった気がした。鈴蘭にはそれくらいに衝撃的な話題で、おそらく今のジェミニカではほとんどの人が意図してその話題を避けようとするだろう。


「《カラア民族掃討作戦》」


「そう! 貴族が民衆の怒りの捌け口に、カラア民族を虐殺しようとした最悪の作戦。

けど、国民は困惑しただけだったよ。当たり前だ。詳しいことは知らされず、どこにあるかわからない、何をしたのか知らない民族の村を貴族が攻撃しているんだから」


まぁ、自分たち以外にも苦しんでいる人がいるんだって思わせたところは、効果があったのかもしれないけど。


そう言うショールの声には、珍しく貴族に対する怒りが滲んでいた。しかしそれはすぐに変わる。


「……けれどその村に送られた騎士で生き残った人はいなかった。カラア民族が結成した組織セピアのメンバーに、騎士団は全滅したんだ」


どこかやるせなく、悔しさが含まれている。先に仕掛けてきたのは貴族だが、どちらを悪ともいえない……そんな心境で。


カラア民族。それはジェミニカに暮らす民族で、人口は国民の数パーセントしかいない。

けれどとても優秀で、カラア民族の血を引く者は何かしらの卓越した能力を持っていた。


「では、カーナさんの兄はセピアに……?」


「それが不明なんだよ。その作戦に参加したはずの彼は、その村ではなく、王都付近で見つかったんだ」


「村と王都は早馬でも数日はかかる。おかしくないか?」


ショールは神妙に頷いて鈴蘭に背を向けた。鈴蘭は彼が色んな意味で難しい問題に困惑したのだと思ったが……。


「ともかく、カーナについては不明な点も多い。もう一つ気になることは、カーナの弟についてだ。革命の後、急にどこの子か知らない少年を養子に迎え入れた。それ以前の経歴がわからない。……だから、カーナの環境は特殊だ。警戒しておいてね」


最後、鈴蘭を振り返ったショールはにやりと笑っていた。いつものように、貼り付けた笑顔で。




※※※※※※※※※




頭ごちゃごちゃしてきた。

もう……、この頃の先輩と鈴蘭の会話って腹の探り合い過ぎて回りくどいんだけど。


「とりあえず時系列にまとめよう!」


鈴蘭の記憶喪失

貴族支配時代でカラア民族掃討作戦(カーナさんの兄の死)

武道大会で白き英雄登場

白の革命

カーナさんに弟ができる(この時鈴蘭は宵闇で活躍……でいいのか?)

鈴蘭ジェミニカ追放


「と、こんな感じか」


今朝鈴蘭に聖礼祭のプレゼントで貰ったノートと、結城に貰った万年筆でまとめてみた。中々使い心地がいい。

ちなみに、ヒスイからはナイフホルダー。先輩からは栞をいただいた。


「カラア民族か……」


俺もこの話題は好きじゃない。でも、避けては通れない歴史でもある。


「にしても、何か見落としてる気がするんだよなー?」


違和感というか。なんだろう?

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