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忘却の白と黒の記録書  作者: オトノシユ
1章 王都騒動編
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第10話 表の英雄譚

「鈴蘭って……白き英雄に似てるよね」


「……。突然何だ? 私の髪はほとんど黒だぞ。それとも紅色の目のことか?」


敬語はなしでいいと言われたので、さっそくなくしてみた。ショールは気にしているのかいないのか、にんまり笑ったままだった。


するとショールはずいっと鈴蘭に近づき、一房だけの白色の髪を掬う。


「俺もよく知らないけどさ、何となく噂の白き英雄スランに似てるなーって。……鈴蘭、ストレスやら何やらで髪が白くなる人もいるって知ってた? そして、元の色に戻る人もいるらしいよ」


「私のこれが、その名残だとでも言いたいか」


「別に。でも鈴蘭って王都に来たの4年ぶりらしいね? 白き英雄が行方不明になったのも4年前。偶然とは思えないなぁ」


ショールの言葉に鈴蘭の表情が固くなる。


「……どうして私が4年ぶりに来たことを知っている?」


「あれ、当たってた? 鎌かけてみただけだったんだけどね」


……嫌なやつだ。

鈴蘭は半歩後ろに下がったが、それ以上にショールは詰め寄る。身体が近づいて隙間がほとんど無い状態で、ショールは鈴蘭の耳元で囁く。


「フローラはお人好しでお転婆だけど馬鹿じゃない。それに彼女は人に線引きする節がある。そんな彼女があの時、鈴蘭に対して全幅の信頼を寄せている表情をしていた。あれ、絶対初対面じゃないでしょ。新人が数日で側近に就任って本当にありえないから」


「それはヒスイもだろう」


「あーヒスイね、ヒスイは可哀想な人だよね。あの時、フローラは君のことしか見ていなかった。にも関わらず何故"二人"を側近にしたか。……それは君から注目を逸らすためだ。

君だけを特別扱いにして、周りから詮索されるのを防ぐため。二人を側近にしたことで、新人が姫を救出したことが大きく評価されて昇格したって図が出来上がる。自然でしょ?

カルセが"二人"の教育係になったのも自然にするため」


ね、カイトからもフローラからも利用されて……可哀想でしょ。君が彼を巻き込んだんだ。


ショールはそこまで言うと、ぱっと距離を取った。彼は貼り付けた仮面のように表情を変えない。ただ、鈴蘭がどう出るかを楽しみにしているようでああった。


鈴蘭にもショールの意図は分かる。何を知りたいのか、何を聞きたいのか。……ただ何か腹が立った。

怒りで判断力を鈍らせるというのがショールのスタイルだと山賊討伐のとき知ったが、これは中々効くようだ。精一杯冷静さを保ちながら言葉を選ぶ。


「……もしもの話だ。もし、白き英雄に会えたらどうするんだ?」


「さぁね。俺は見つけることを目的としてるんじゃなくて、知的好奇心を満たすことが目的だから。……あーでも、折角会えたらサインでも貰おうか。ジェミニカを救った英雄だし」


後半はわざととぼけての台詞だったが、鈴蘭は目を見開いて悲しそうに瞳を揺らした。それは一瞬のことで、ショールも気づかなかっただろう。


「……へぇ。そんなに白き英雄はすごい人なのか。私は白き英雄をよく知らないんだ。良ければ話してくれるか? 皆のよく知る英雄譚」


「ふむ、押しても引いても反応なしと。……まぁ英雄譚の語りくらい別にいいけど。ただ俺は当時外出できない状態だったから、今からのはあくまで一般的な英雄譚ってことで」


「それでいい」


ショールは鈴蘭の出方を伺いながら答えた。お互いが言葉を明らかにしない腹の探り合い。


少し休憩とばかりに鈴蘭の手を引いて近くの椅子に座らせ、自分も隣に腰掛ける。

空が明るんできた。夜明けが近いようだ。


「約30年前までのジェミニカは王が絶対的な権力を持つ王国だった。けれどとある大事件で国民が反発し、王は処刑された。国民に不信感を抱かれた王族は徐々に力を失い、貴族の時代が幕を開けるーー」










時は経ち、数年前のジェミニカ。

その頃、貴族は強い力を持つ様になったせいで私腹を肥やすことしか考えなくなっていた。民衆の人権は無く、街に秩序はない。その日の食べ物があるかどうかの貧しい暮らしをしている一般人も多かったのに、見てみぬふり……


特に権力を持っていた貴族が【シュヴァン家】。シュヴァン家の次男が近衛騎士団の団長になったことで、国の軍事力までもシュヴァン家が持つことになったと言っても過言ではなかった。この次男の名前を【モルガ=シュヴァン】と言うよ。


シュヴァン家は軍事力を盾に重い税をかけたり、不平等な社会をつくる政策を行ってくるようになる。


元から悪かった街の治安はより一層悪化し、王都は荒廃しだした。貧民街に人が溢れかえり、暴徒は増え、火事や事件が絶えない。盗みは日常茶飯事となり、ジェミニカの人口は激減したよ。

一方で貴族は財産を蓄え、豪勢な食事を楽しみに、毎晩夜会を開き、美しい宝石に囲まれる裕福な暮らしぶり。ひどいよね。

……人々は怒り狂った。なぜこんなにも違うのか。どうして普通の暮らしもできないのか!って。


しかし何度立ち向かっても軍事力を持つ貴族に反逆者として捕らえられ、牢獄へ送られるのが関の山だった。



けれどそんなある日、シュヴァン家の極秘情報がどこからか流出するという事件が起こったんだ。しかも、それを皮切りに他の情報もどこからか流出していった。

その流出した情報はシュヴァン家を揺るがす程のものも含まれていて、一番力を持つ貴族とはいえ、弱体化させるには十分なものだった。

他の貴族も流れた情報の影響でシュヴァン家に対立するようになり、シュヴァン家は没落寸前まで追いやられることになっちゃったわけ。……これが5年前のジェミニカの状態。


そんな時、《ジェミニカ武道大会》が開催された。これはシュヴァン家にとって最後のチャンスだった。










「ジェミニカ武道大会って、王主催の7年に一度開催される伝統的な大会だったか。優勝者は一つ何でも願いを叶えてもらえるとかいう」


「そうそう。そこで優勝すれば貴族として返り咲くことができる。そう思ったシュヴァン家はモルガを出場させたんだ。彼個人は実力もあって騎士団内では人望も厚かったからね」










シュヴァン家にとっても大きなチャンスだったけれど、王族にとってもまたとないチャンスだった。有力貴族が衰退したところでの大会という素晴らしいタイミングだったのだから。

けれどモルガが優勝すれば、伝統は伝統だからどんな願いも叶えざるを得ない。……そこで王族は味方の騎士を出場させた。王族の味方が優勝すれば、王族の優位になる願いを言わせる予定だった。










「でもモルガは近衛騎士団長を務めるほどの実力者だったからね。たぶんカルセより強かっただろうよ。……だから国民皆期待してなかったんだ。モルガには誰も敵わない。また貴族の世が始まるんだって。でも同時に誰かモルガを倒してくれって願っていた」


「優勝者次第で国の在り方が変わる大会だったんだな」


「そ。他の貴族も、強い騎士を大会に出場させてねぇ。その年のジェミニカ武道大会は次の権力者を決める代理戦争みないなものになったんだ」










そんな殺伐とした中、どこの貴族から送られて来たわけでもない、一般参加者が三人いた。

その中の一人が、後に《白き英雄》と呼ばれる選手、大会ネーム【スラン】。


まだ発展途上の子供で、性別も出身も不明。真っ白な髪、真っ白な肌、真っ白な服に見を包んだ姿は天使のようだったとも言われている。



……スランは決勝戦でモルガを打ち破った。



このことでシュヴァン家の再興は不可能のものとなった。

しかも、モルガに勝利して国民から絶大な人気を得ていたスランが王族に味方をしだした。こうなると貴族社会が一気に不安定になるよね、それを見た国民はスランを担ぎ上げて残りの貴族も徹底的に潰して王政を復活させようとしたんだ。


これが革命の始まり。


一般民衆が反貴族組織をつくって、スランと一緒に貴族を潰したり……色々あったけど、最終的に貴族は力を失った。

権力は国王に戻って、その国王が息子のタイガ第一王子に権利を譲渡。そしてタイガが政治を行うことを表明した、と。

タイガが実力主義国家の建設を宣言し、貴族政治に終止符が打たれたのが12月25日のことだよ。

国民は革命で活躍したスランを崇め讃えたとさ。


で、今に至る。もし白き英雄がいなければ今のジェミニカはなかっただろうね。










「白き英雄は1年後に失踪。不明瞭なところが多すぎて、『神の使いで、革命が終わったから天に帰った』とか『今もひそかにジェミニカを守っている』とか言われている……こんなところかな」


ショールが話し終える頃には、鈴蘭の心も落ち着いてきていた。だからだろうか、


「私から言っておいてあれだが、ちゃんと教えてくれるあたりショールは律儀だな」


「開口一番それ?」


軽い言葉を発した鈴蘭に、少しばかり驚いたようだ。けれど鈴蘭は気にした様子もなく続ける。


「……ショールは白き英雄をどう思う?」


「どうとも思わないけど? さっきも言ったけど、俺は白き英雄のことはどうでもいいんだよ。鈴蘭が何者なのかが知りたいだけ」


「ふっ、そうだろうな。今の客観的な説明ぶりから、きっとショールは白き英雄に固執していないんだろうなと感じたから」


鈴蘭は安心したように目を細めて笑った。

まるで白き英雄に執着されることを恐れているような口ぶりだった。ショールはある種確信的なものを感じつつ、もうひと押ししてみる。


「鈴蘭は、白き英雄をどう思う?」


「ふ、私もどうとも思わないな。ただ偶然が重なった子供だ」


そして鈴蘭はショールに背を向ける。


「ショール、これからよろしく。少しは頼りにしている」


ちらっと送った視線は穏やかだった。ショールはそれ以上追求ことををやめて、歩いていく鈴蘭を見送った。


「可哀想な人だね、鈴蘭は」


その呟きは誰に聞かれることもなく、差し込む朝日が掻き消していった。




※※※※※※※※※




「ゔゔぅ。やばい。ギュンギュンする!」


俺は自他共に認める白き英雄マニアだ。白き英雄のことなら調べれるだけ調べたし、白の革命も趣味で勉強した。


俺が騎士を目指してるのだって白き英雄の影響だ。


それくらい、俺、は、白き英雄を、好きなのだ!


「んんん……! 好きな分野が本に出るってマジで嬉しい。何も言えない」




それに……


「鈴蘭が、白き英雄かもしれない」


この回まで黙って読んでいたわけだが、鈴蘭の謎が多すぎてモゾモゾしてた。

フローラ姫の救出の時もヒスイが鈴蘭を気にしていたけど、気にならない方がおかしい気がする。ここまでお膳立てされたら鈴蘭の正体なんて想像できてしまうではないか。


「もしも本当に鈴蘭が白き英雄だとしても」


俺はどうしてか意外に思わないんだ。何故だろう。


白き英雄のことはもちろん尊敬してて、人生の手本にしたいとさえ思っている。

けれど鈴蘭のことも尊敬している。好きだという感情の前に、人としてあれくらい強くなりたいと思う。


ずっとそれは変わらないから、だろうか。

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