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願いが叶うなら  作者: 汐野悠翔
春物語
95/98

思い出のヒーロー

「大丈夫、時間はかかってるかもしれないけど、莉乃ちゃんの病気は絶対治るよ。治してみせるって強く思っていれば、絶対退院できるから」

「本当?」



俺は二人の会話を聞きながら、絶対なんてそんな無責任な事を簡単に言ってしまって良いのだろうかと、漠然と思ってしまった。

病気は、治したいという想いだけでなんとかできるものでもない。葵葉さんの言ってる事は口先だけの気休めでしかない。

そんな俺の思いを他所に葵葉さんは話を続けた。



「うん。莉乃ちゃんは、神様って信じる?」

「神様?」

「そう、神様はね、いつもみんなの事を見守ってくれてるんだよ。だから、莉乃ちゃんが病気を治したいって心から願って努力すれば、きっと神様が力を貸してくれるはずだよ」

「嘘!だって莉乃のママ、莉乃の為にお守り買ってきてくれたけど、莉乃の病気まだ治ってないもん。莉乃知ってるよ。神様なんていないって、知ってるよ」

「それはねきっと、莉乃ちゃんが神様の事を信じきれてないから、お守りが力を発揮できずにいるんだよ」

「え? 莉乃が……信じてないから?」

「うん、神様ってね、私達人間の信じる力が神様の力の源なんだって。だから、私達の心に少しでも神様を疑う心があると、神様も力を発揮できないの。だから、莉乃ちゃんが神様の力を信じることが、願いを叶える第一歩なんだよ」

「信じる事が……第一歩?」

「うん。勿論、信じるだけじゃなくて、絶対願いを叶えるぞって自分で努力する事も大事だよ。治療は辛いかもしれない、けど絶対治すんだって、辛い事にも一つ一つ立ち向かって、乗り越えられたその先には、絶対莉乃ちゃんが願った未来が待ってるよ」

「……本当?」

「うん、本当。だって私もね、神様に助けられた一人だから」

「……え?」



突拍子もない話に、莉乃は目を丸くして驚いていた。

俺はと言えば、葵葉さんの語る話に、昨日の葵葉さんとの会話を思い出していた。

「神様と友達だった」と語った、あの会話を――



「私ね、実は小さい頃から、15の歳まで生きられないって病院の先生達から言われてたの」

「えぇ?葵葉ちゃんが?」

「うん。私の心臓は生まれつきの欠陥があってね、私の体の成長に、私の心臓はついていけないだろうって言われてたの。だから私はずっと生きる事を諦めてた」

「でも葵葉ちゃんは今、大人になってるよ? どうして?」

「うん、それはね、神様が私の事を助けてくれたから」

「……本当に?」

「うん。私ね、15の歳にこの町に引っ越して来たんだけど、その時偶然、この町の神様と出会って、お友達になったの」

「えぇ? 神様とお友達に?」

「そう。私が友達になってって、しつこく付きまとったから、仕方なくって感じだったんだけどね。その神様、名前は神耶君って言うんだけど、私は友達ができた事が嬉しくて、自分の体の不調も省みずに毎日のように神耶君がいる神社に遊びに行ったの。そのせいで病状が悪化しちゃって、1度危篤状態にまで陥ってしまった事があった。……その時、薄気味悪い暗い空間を一人でさ迷いた事を今でも覚えてる。そのうち川が見えてきてね、その川の向こうには亡くなった私のおばあちゃんや病院で知り合ったお友達がいたの。私は皆の元に行きたくて川を渡ろうとした。でもその時、私は川から伸びる無数の手に足を捕まれて、川の中に引きずりこまれそうになってしまったの。今思い出しても本当に怖かった。きっとあれが三途の川って呼ばれてる川だったんだろうな」


 

葵葉さんが語る妙にリアルな話に、莉乃はブルリと体を震わせたた後、恐怖心からか葵葉さんの腕にぎゅっとしがみついた。

そんな莉乃の手を、上から大人の大きな手で覆い被し、握りしめてやりながら葵葉さんは話を続けた。



「でもね、その時神耶君が私を助けにきてくれた。三途の川に引きずりこまれそうになってる私の手を掴んで、私に生きたいかって問い掛けてくるの。本気で生きたいと願うなら助けてやるって。私は死を覚悟していたはずだったのに、実際に死の恐怖を目の前に突き付けられた時、思わず叫んでた。生きたい! もっともっと生きていたいって。そしたらね、周りが急にぱぁっと輝き出して、眩しさにギュッと目を瞑ったと思ったら、次に目を開いた時、私は病院のベットの上にいた。あの時、生きたいと願った私を、神耶君が助けてくれたの」

「……神様が……助けて……?」

「うん。それから私は、自分の病気と正面から向き合ってみる事にした。少しでも長く生きられ可能性があるならどんな治療も受けて、ここまで命を繋いできた。私が今、こうして生きていられてるのは、私に生きる希望を与えてくれた神様がいて、絶対に病気に負けないって信じて戦ってきたからなんだよ。だから莉乃ちゃんも、絶対病気は治るって、信じて頑張ったら、絶対絶対元気に退院できるよ」

「……本当?」

「うん、大丈夫。莉乃ちゃんは絶対また元気になれる! 病気と一生懸命戦ってる莉乃ちゃんの事を、神様も見守っててくれてるから。だから、絶対治るって自分を信じて」

「……うん、信じる。葵葉ちゃんのお話、私信じる。私、頑張るよ!」



涙を脱ぐって前を向く莉乃に、葵葉さんはギュッとその小さな体を抱き締めた。



「うん、頑張ろうね。私も頑張るから、だから一緒に退院できるように頑張ろうね」



莉乃は照れくさそうに微笑みながら葵葉さんの腕の中、コクンと大きく頷いていた。



「ねぇ、葵葉ちゃん。その葵葉ちゃんとお友達だった神様って、どんな神様だったの?」



葵葉さんの腕の中、ふと莉乃がそんな質問をする。



「え? そうだなぁ、神耶君はね、凄くへそまがりの神様だったな」

「へそまがり?」

「うん。本当は人間の事が大好きなのに、大嫌いって言っちゃうくらいへそまがりだったなぁ。でもね、本当は凄く凄く優しくて、困ってる人の事を放っておけないの。だから私の事をうざがりながらも、結局友達になってくれた。そんなツンデレな神様だったよ」

「神様なのに、なんか可愛いね」

「うん、可愛くて、カッコ良かった。神耶君は今でも私のヒーロー」

「葵葉ちゃんのヒーロー、莉乃も会ってみたい! 莉乃もお友達になれるかな?」



何気無い莉乃の発言に、葵葉さんの表情が一瞬悲しみに染まる。



「どうかな。私ももう、10年以上会えてないから」

「え?どうして?」

「それは……私の前から姿を消してしまったから……」

「……」



どこか苦しそうに語る葵葉さんに、莉乃も小さいながらに何かを感じとったのか、それ以上深く聞く事はしなかった。



「あ、そうだ、神耶君には会えないけど、私の思い出の中の神耶君の姿なら見せてあげられるよ」

「え? 本当?」

「うん、昔描いた神耶君のスケッチ絵があるんだぁ」

「見たい見たい! 神耶君のスケッチ絵、莉乃も見てみたい!」

「じゃあ、私の病室に行こうか。祐樹君も一緒に来る?」

「え? あ……はい。じゃあ、俺もついて行って良いですか?」

「勿論。 じゃあ行こっか、莉乃ちゃん、裕樹君」

「うん!」



葵葉さんと莉乃、二人仲良く手を繋いで歩き出す。その後ろを、俺もついて歩いた。


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