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願いが叶うなら  作者: 汐野悠翔
夏物語
9/95

葵葉の秘密

「気付いたか」


「・・・・・・神耶君?あれ?どうして私、神耶君におんぶされてるの?」


「お前が、急に意識無くすから」


「あはは。また急に眠気に襲われちゃったみたい。ダメだな~私」


「嘘つけ。あれは・・・・・・発作だよな。発作起こして、倒れたんだろ?初めて社に来た時も、やっぱりあれは寝てたんじゃなくて、倒れてた。違うか?」


「・・・・・・」



葵葉をおぶって、神社までの道を下る道中、目を覚ました葵葉に、俺は静かに訪ねる。

最初は、冗談を言って誤魔化そうとする葵葉だったが、次第に言葉に詰まって黙り込んだ。



「お前、何か隠してるだろ?」


「・・・・・・あぁ~あ。ばれちゃったか~」



暫く間が開いて、観念したとばかりに、ぺろっと舌を出して笑ってみせる葵葉。


「でも、そう言う神耶君も、私に隠してる事あるでしょ?」


「俺?俺は別に、隠してるつもりはない。聞かれないから話さなかっただけだ」


「そっか。じゃあ私も聞かれなかったから話さなかっただけ」


「・・・・・・屁理屈」


「自分だって」



そんなやり取りの後、クスリと葵葉は小さく笑う。

彼女は今、どんな顔をして笑っているのだろうか?

その笑顔を想像しながら、俺は俺の中で、確証に変わりつつあった疑念を口にした。



「お前・・・・・・病気なのか?」


「・・・・・・うん。」


俺の問いに、素直に肯定する葵葉。


「死ぬのか?」


「いつかね。でも、人間なんて皆、必ずいつかは死ぬ生き物だし、怖くはないよ?」



嘘だ。死が怖くない人間なんて、いるはずがない。



「じゃあ、どうして毎日俺の所へ来るんだ?何か叶えて欲しい願いがあるからじゃないのか?」



怖いから。だからこそ、その恐怖を鎮める為に、人は神社に拝みに来るのだ。



「・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」



俺の問いに、葵葉は黙った。

葵葉の答えを待って、俺も黙る。

二人の間に、長い沈黙が続いた。



「願いがなかったと言えば・・・・・・嘘になるかもしれない。でも、それはもう叶ったから。」


やっと開かれた葵葉の口から出た言葉。それは、少し予想と違うもの。

願いが叶った?それは、つまりは・・・・・・



「治るって事か?」


「違うよ。私の願いは病気を治す事じゃない。それはもう諦めてるから。そうじゃなくて・・・・・・友達が欲しいって言う願いは、叶ったから」


返って来た答えに面食らう。

友達?



「それがお前の願い?本当に?」


「ホントだよ。私ね、ずっと欲しかったんだ。今までだっていなかったわけじゃない。けど、せっかく友達になっても、み~んな私を残して先にいなくなっちゃう。手の届かない所へ行っちゃうの」



そう言って空に向かって手を伸ばす葵葉。



「だから、もう友達を作る事を諦めようと思った。もう寂しい思いはしたくないし、大切な人がいなくなってしまう寂しさは、私が誰よりも知っているから。だから私自身が、人にそんな思いをさせしちゃいけない。人と関わっちゃいけないって。」


「・・・・・・信じられないな。あれだけ初対面で友達になってって迫って来たお前が」


「諦めてたはずなのに、それでも心の何処かでは友達が欲しいって、願う自分がいたんだね。神耶君に初めて会った時、この人なら上手く付き合って行けるかもしれない。そう思ったの。だから私、勢いで友達になってって迫っちゃったんだ」


「どうして、そう思ったんだ?」


「それは・・・・・・神耶君が神様だから」


「最初から、気付いてたんだな」


「うん。だって、時代劇でしか見た事ないような、へんてこな格好してたしね。お社で悪びれもなく寛げる人なんてそうそういないよ?お社の主である神様くらいしか」


「コスプレとか言って、人の格好バカにしたくせに」


「バカになんてしてないよ!神様だって気付いてないフリしないと、姿見せてくれなくなっちゃうんじゃないかと思って」



俺達が初めて出会った日の事を思い出しているのか、再びクスクスと笑い出す葵葉。

葵葉につられて、俺の口元も微かに緩む。


「そっか。俺はてっきり、お前はバカなんだと思ってた」


「気付いてないふりをしてただけ。馬鹿で脳天気なふりするの、私得意だから。

そうしていれば、周りは安心した顔してくれるの。私が、自分の体の事、気付いてないふりをしていれば」


「どうだかな」


「え~?本気で私の事、バカだって疑ってるの?酷いな~」



そう言って、葵葉は俺の背中をポカポカ殴った。


「で?神様だと、お前にどう都合が良かったんだ?」


それを無視して話を続けようとすると



「・・・・・・怒らない?」



葵葉は俺の首にギュッと腕を回してきて、申し訳なさそうに小声でそう呟いた。



「怒られるような理由なのか?」



俺がそう聞き返すと、コクンと小さく頷く。



「神様なら、私より先にいなくなっちゃう事なんてないし・・・・・・何より神様からしたら、たかが人間一人、ちっぽけな私の死なんて、寂くもなんとも思わないでいてくれるんじゃないかって思って」



葵葉が語った理由に、溜め息が出た。



「・・・・・・お前、残酷だな。本気でそう思うのか?」


「・・・・・・ゴメンなさい」



確かに、何百年と生きてきた俺からしたら、人間一人一人との出会いなんて、ほんの一瞬の出来事でしかない。

それでも、その短い時間に培った一人一人との思い出は、ずっと忘れる事なんて出来ないし、何度経験しても、人の死に慣れる事なんて出来ない。

一体神を何だと思っているのか?神である俺達の苦労など何も知らないくせに。



つくづく思う。神なんて、なるもんじゃないと。

そしてやっぱり・・・・・・



「人間は自分勝手で・・・・・・嫌いだ」


ポツリと漏らした俺の愚痴。


「ゴメンね。自分がどれだけ浅はかだったか、反省してる。結局は自分の事しか考えられない最低な人間だった。本当に・・・・・・ゴメンね」


「・・・・・・」


「ゴメンね?」



葵葉は俺の顔を覗き込みながら、何度も謝った。

たまらず俺は、ぷいとそっぽを向く。

そんな俺の態度にまたクスリと笑み零して・・・・・・



「けど良かった。怒ってくれるって事は、私の一方通行じゃなくて、神耶君も私の事を友達だって認めてくれてるって事だもんね?」


「・・・・・・・・」


は?今、なんつった?


「ね?」


「・・・・・・んなわけねぇだろ!調子にのるな!!」


「あれ~?顔赤いよ?」


「だから、んなわけねぇだろ!嘘つくな!!」


「本当だもん!神耶君の顔、赤いもん」


「赤くない!うるさい黙れ!!」


「黙らな~い」


「黙れ!」


「嫌~」



葵葉の笑いが、ニヤニヤと嫌らしいものへと変わって行く。

嫌だと駄々をこねながら、俺の背中に負ぶさる奴は、足をバタバタさせ始める。



「あぁ~もう、うるさい!そんなに元気だったら、もう一人で歩けるだろ!降りろ!」


「嫌だ!」


「降りろ!」


「降りないよ~だ」



先程までの、真面目な話から一転。いつもの憎たらしい奴に戻った。

そんなコイツのいつもと変わらない様子に、何故か俺はホッとする。


いつの間にか、俺はコイツとの、こんなやり取りが、当たり前になっていて、特別になっていた。

その事実に気付かされて・・・・・・我ながら自分の単純情さに笑ってしまう。



でも・・・・・・

もしもこの先、葵葉とのこんなやり取りが出来なくなったら?

この憎たらしいコイツが俺の前からいなくなったら?


その時俺は、悔しいけどきっと、“寂しい”と思ってしまうだろう。



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