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願いが叶うなら  作者: 汐野悠翔
冬物語
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懐かしい夢

外に出ると、8時を過ぎていると言うのに、まだショッピングモール内はクリスマスを楽しむ人で賑わっていた。

神崎君におぶわれた私の姿は、やはりとても目立っているらしく、すれ違う度に人は私達を笑って行った。


神崎君はさほど気にしていない様子だったけれど、私はとても恥ずかしくて、ついには向けられる奇異の視線から少しでも逃れようと、神崎君の背中におでこをつけて顔を隠した。


体中に感じる神崎君の体温と、歩く事で生じる程よい揺れが何だかとても心地よくて、いつしか私の意識は微睡みへと誘われて行った。


微睡みの中、私はどこか懐かしい夢を見た。

誰かにおんぶされながら、楽しげに話してる女の子の夢――




『あっ、そうだ。ね、……君』


『何だよ突然。耳元で大きな声出すな』


『ごめんごめん。あのね、おじいちゃんから聞いたんだけど、今度八幡神社で夏祭りがあるんでしょ?』


『祭? そう言えば、もうそんな季節か』


『あれ? 夏祭りって、八幡神社の祭神……つまりは……君の為のお祭りじゃないの? なんでそんな他人事みたいなの?』


『馬鹿言うな。祭ってのはな、人間どもがバカ騒ぎしたいが為に、奉納だなんだと理由をこじつけて、勝手に騒いでいるだけ。俺からしたら迷惑以外の何物でもない』


『またそんな事言って、本当に素直じゃないよね……君は。お祭りでたくさんの人が神社に集まって来てくれるの、本当は嬉しいくせに。だって本当は……君、人間の事大好きだもんね』


『はぁ? 何馬鹿な事言ってんだ!?』


『顔、赤くなってるよ?』


『なってねぇ!!』


『なってるもん。……君は嘘ついてもすぐ顔に出るんだから、嘘つくだけ無駄だよ。ホント、からかいがいあってて面白いな~』


『人間の分際が俺で遊ぶな!!』


『楽しみだな~夏祭り』


『だから、楽しみじゃねぇ! 迷惑なだけだ! って、人話を聞け!!』


『一緒にかき氷食べようね! たこ焼きも、りんご飴も!あ~金魚すくいもやりたいな~。それからぁ――』


『待て待て待て! 今なんつった? 一緒にってなんだよ??!』


『え? だから、お祭りの日に一緒に出店を見て回ろうよって言う、デートのお誘いだよ』


『はぁ?! デート??! 何馬鹿な事言ってんだ?! 回りたきゃ勝手に一人で回れば良いだろ。一々俺を巻き込むな! っつか、なんだよデートって。ふざけるのも大概にしろよな』


『え~~? しようよお祭りデート。ねぇ……君、しようよ、しようよ~!!』




夏祭りにデートをしようとせがむ女の子。

彼女は嫌だと頑なに断る男の子の背中からピョンとおりると、正面に回り込んで、無理やり彼の小指を自身の小指へと絡めた。



『あ、お前! 何勝手に?!』


『指切りげんまん嘘ついたら針千本飲~ます、指切った!』


『あああああ~~~~~!!!!』



絶望にも似た叫び声がこだまするなか、急に強い風が吹いて、少し離れた位置から二人を見守っていた私は目を閉じた。


次に目を開いた時、辺り一面赤く染まった綺麗な夕焼け空が広がっていた。




『ねぇ、飛んでるの? 飛んでるのこれ??』


『何興奮してんだよ』


『何でそんなに冷静なの?! だって飛んでるんだよ? 私、空に浮いてるんだよ?』


『駅まで運んでやる。だから今日はもう大人しく帰れ。いいな』


『……はぁ~い。でも……君、駅まで私を連れて飛んで、人に見られて大騒ぎになったりとかしないかな? 大丈夫?』


『お前、俺を誰だと思っていやがる。んなへますっかよ。お前の姿を人から見えなくしてやるから、だから心配すんな』


『そんな事も出来るんだ! ……君凄~い!!」


『はぁ……。お前は呑気で良いな。言っとくけどな、目茶苦茶疲れるんだからなこれ! すんっっげ~疲れるんだからな!!』


『……君は、いつもこんな景色を見つめているんだね』


『? 何か言ったか?』


『ううん。何でもない』


『何だよ一人でニヤニヤして。気持ち悪い奴』


『へへへ』



夕日に染められているからか、少女は頬を赤く染めながらどこか嬉しそうに微笑んでいる。


あの子は……私?


ぼんやりと白く霧がかかったようにはっきりしない視界の中、私は夢の中の少女が自分自身であると、何故か不思議とそう思った。


じゃあ、私と一緒にいる男の子は、誰?


赤髪の後ろ姿は、何処となく神崎君にも似ていてような――


ふとそんな事を思った時、男の子の名を呼ぶ声が幾重にも重なって私の頭の中に流れ込んで来た。



『……君』


『……や君〜。遊びましょう〜』


『ね〜……ぐ……や君〜降りて来てよ〜。そんなに遠くにいたら声が聞こえないよ〜』


『か……や君いないの? 隠れてないで出てきてよ』


『……ぐや君本当にどこにいっちゃったの? お願いだから出て来てよ』


『かぐ……君……どうして……どうして出てきてくれないの?私の事、嫌いになっちゃったの?ねぇ、かぐや君! かぐや君――――』




「っ!」


「お、起きたか葵葉。そろそろ駅に着くぞ」


「…………神崎……君……ここは?」


「電車の中だよ。あの後お前、気持ち良さそうに寝てたからさ、少し寝かせといてやろうと思って起こさなかった。どうした、泣きそうな顔をして?」



電車の中、隣に座っていた神崎君が、心配そうに私の顔を覗き込む。

その顔が、夢の中の少年の面影と重なって――




「か……ぐや……君……?」



気が付くと私は、夢の中で私が何度も口にしていた男の子の名前を呟いていた。



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