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願いが叶うなら  作者: 汐野悠翔
冬物語
56/98

長かった一日の終わり

そうして、その後もわけも分からず神崎君に絡まれながら、長かった一日が終わりを迎えようとしていた。

これでやっと神崎君から逃れられる。

内心ほっとしながらいそいそと帰り支度を始めていると、賑やかな教室に、女子のクラス委員である榊原さんからこんなお願いの声が上がった。



 

「今日の放課後も、再来週の文化祭に向けて準備を進めて行きたいと思います。放課後時間の取れる人は残って手伝って下さい」



榊原さんの呼びかけを受けて、クラスの数人の女の子達が神崎君の元へとやって来る。



「ねぇねぇ朔夜君、今榊原も言ってたけどさ、ウチの学校、2週間後に文化祭を控えてて、今準備に忙しいんだ。朔夜君、転校してきたばっかりだけどクラスメイトとの親睦を深める為にもさ、文化祭の準備、手伝ってかない?」




その中で、クラスで一番美人だと噂される安藤さんが先頭に立って、神崎君を文化祭の準備に誘った。




「あぁ良いぜ。ところでこのクラスは、出し物何やるんだ?」

「本当?良かった~。えっとね、私達のクラスは、足湯兼喫茶店をやるんだ。うちの文化祭、12月なんて珍しい時期にやるでしょ。せっかくだから季節感のある出し物をしようって話になって」

「へぇ~、面白そうだな」

「でしょでしょ!実はこの案、発案者は私なんだぁ。それでねそれでね、今は私がクラスの文化祭リーダーとして色々準備を進めてるの。でね、温泉と言えば、旅館。旅館と言えば法被を着てるイメージってない?実はクラスみんなでお揃いの法被を着ようって話になってて、私達は法被を作る係なんだけど……朔夜君には私達の係を手伝ってもらえないかな?こっち人手が少なくて」



どこか媚びるように、どこか嬉しそうに神崎君を誘う安藤さんの話を、私の前の席の――神崎君からは斜め前の席にあたる井上君が突然割って入った。



「よせよせ、男に裁縫させるなんてかわいそすぎんだろ。それより男手は力仕事に回してくれよ。なぁ神崎、俺達と一緒に買い出しに行こうぜ!」

「ちょっと!買い出しならもう十分人手足りてるでしょ!」

「はぁ?全然足りねぇっつの。俺らは発泡スチロールの箱を50箱近くも商店街からかき集めて来なきゃいけねぇんだぞ。とてもじゃねぇけど一度で終わる量じゃねぇから。どんだけ俺らに商店街と学校を往復させる気だっつの」



気がつけば安藤さんと井上君は、神崎君を取り合って喧嘩を始めていた。



これのどこがはみ出し者だと言うのだろうか?

昼休みの神崎君との会話を思い出しながら、私は小さく溜め息を吐いた。

そんな私の溜息に、安藤さんと井上君の喧嘩の原因である神崎君は、二人の喧嘩などお構いなしに、楽しそうに声を掛けて来て――


「なぁ、葵葉は何の係なんだ?」

「……え?」

「文化祭の準備。お前は何の係なんだよ?俺、お前と同じ係になるわ」

「………………え?」



神崎君から出された思いもよらない提案に、私の思考は一瞬にして停止した。

何と答えたら良いのか分からなくて。

だって私はまだ何の係にもついていなかったから。

放課後病院に行くことの多い私は、まだ一度も文化祭の準備に参加できてはいなかったから。

そもそもクラスのはみ出し者である私には、神崎君のように誘ってくれる人もいなかった。

参加して良いのかさえ悩ましいと思っていた。



「だめだよ神崎君。この子はいつも放課後忙しいから、私達の手伝いなんてしてる時間ないんだって」



言葉に詰まっていた私に代わって、安藤さんが答えてくれる。



「どうせ今日も、用事があるとか言って帰るつもりだったんでしょ。いいわよ、さっさと帰りなさいよ」



どこか突き放した言葉と、安藤さんの冷たい視線が私に突き刺さった。



「あぁ、そっか。そう言えばお前、今日はびょうい」

「っ!」

「うぐ。あいふんあおあほは(何すんだよ葵葉)」




神崎君が口にしかけただろう言葉を察して、私は慌てて彼の口を塞ぐ。

相変わらず何故彼が私の事情を知っているのかはわからないが――



「病院に通ってる事は、みんなには言わないで!」

「はんへ(何で)?」

「病気の事は知られたくないから」




周りに聞こえないヒソヒソ声で、私は必死に神崎君にお願いした。

その間、安藤さんの眉間にとても深い皺が刻まれていた事にも気付かずに。




「ちょっと白羽、あんた何を朔夜君と二人でコソコソ内緒話してんのよ。あんた用事があるんでしょう。だったらさっさと行きなさいよ」

「ご、ごめんなさい。いつも手伝えなくて……。用事のない日は必ず手伝いますから、その時は雑用でも何でも言って下さい」

「ふん、あんたの手なんか別にあてにしてないっての」



私の謝罪に対し返って来たのは嫌みの言葉。

安藤さんの嫌味にどう切り返すせば良いのか分からなかった私は、ただ「へへへ」と笑う事しか出来なくて、これ以上彼女を怒らせない為にも私は早くこの場を退散する事にした。



「神崎君、さっき言った事お願いね。絶対言わないでね」



と、神崎君に再度念押ししながら教室を後にした。

彼はどこか納得していない顔をしてたけど……言わずにいてくれたかな?

大丈夫だったかな?



 

「――はぁ〜」



病院までの道のりをバスに揺られ、私は神崎君に対する不安と不満に押し潰されそうになりながら、一人大きな溜め息を吐いた。



「はぁ……」


「はぁ………… 


「はぁ~~…………」



一度ではおさまらず、何度も、何度も――



本当に、今日は疲れたな。

謎の転校生、神崎昨夜君に振り回されて、一日がとても長く感じられる日だった。

彼の怪物ぶりを思い返しながら、気がつけば私は溜息をつきながら膝の上の鞄に突っ伏していた。

この先こんな日がずっと続くのだろうか?

想像しただけでどっと疲れる。



本当に……一体彼はなんのつもりなのだろうか?

何故私なんかに付きまとうのだろうか?

初対面のはずなのに、やたら馴れ馴れしいし。

そしてなにより一番謎なのは、クラスメイトの誰にも言ってないはずの、私の秘密を知っていた事。

どうして彼は、知っていたのだろう?

もしかして――本当は以前にどこかで会った事があったのかも?

でも、あんな見た目も中身も強烈な人、一度会ったら忘れないと思うんだけど……。



結局いくら考えた所で、「わからない」以上の答えは出なかった。

この堂々巡りの謎を考える事に疲れた私は、再び深い深い溜め息を吐いた。


疲れた心を癒すかのように顔を上げ、窓からの景色に目を向けると、窓の外には夕日に染まる綺麗な景色が広がっていた。

山に沈みかかった夕日をぼんやりと眺めながら、その後私は病院までの道のりを30分近くバスに揺られ続けた。


かなり久しぶりの投稿になってしまいました…

スランプのあまり全く書けずに放置しておりましたが、ダメ元で応募したネット小説大賞の1次に残っておりまして、まさかの出来事に感動!すると供にやる気やら何やらを再び沸き起こしていただきました。

1次通過の記念として、ここに記録として書き記しておこうと思います(笑)


さてさて、冬物語は高校生らしく文化祭話なんかを書いて行く予定です。

足湯兼喫茶店は実体験を元にしてたりします。

といっても、薄っぺらな高校生活しか送っていなかったうえに、か~な~り昔の記憶なので、文章にするのにとても苦労してます(^^;)

今にして思えば、もっとちゃんと青春しとけば良かった…。

自分が出来なかった分も、葵葉達にキラキラの?青春を託すぞ!


久しぶりの更新で後書きが長くなってしまいましたね。

ってなわけで次回も宜しくお願いします。

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