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願いが叶うなら  作者: 汐野悠翔
秋物語
52/94

二人の恋の結末は――


次に目を覚ました時――

私は病院のベッドの上にいた。



「葵葉、目を覚ましたか!まったくお前は……」



すぐ隣から聞こえて来た声に顔を向けると、お兄ちゃんがもの凄く怖い顔で私を睨んでいた。



「お兄ちゃん?……どうして私……お祭りは……?」


「お祭りは?じゃない!なかなか帰って来ないから心配になって迎えに行けば、お前また発作起こして倒れてたんだぞ!一体夜遅くまでびしょ濡れになって何やってんだお前は!!」



お兄ちゃんは、もの凄い剣幕で私を叱り始める。

すぐにそっぽを向いた私は、お兄ちゃんのその怒鳴り声をどこか遠くに聞きながら、ぼんやりと病室の窓から遠くに見えるあの山を見つめていた。

八幡神社の建つ、あの山を――




神耶君と2度目の約束を交わした秋祭りも、呆気なく終わってしまった。

私たちの約束は、果たされないままに。



どうして神耶君はあの日、私の前に姿を現してはくれなかったのだろうか?

やはり神耶君に嫌われてしまったのだろうか?

答えの分からない疑問と恐怖が、じわりと私の目に涙を浮かばせた。




***




その後私は、またしばらくの入院生活を送る事に。

加えて絶対安静と外出禁止を言い渡され、ベッドの上で過ごすだけの退屈な日々が続いた。

退屈な時間が続けば続く程に、私の頭は神耶君の事でいっぱいになって行く。

考えれば考える程に不安な気持ちばかりがどんどんと膨らんで行く。

そうして、心が押つぶされてしまいそうな程大きく膨らんでしまった不安。

その不安に耐えきれなくなって、ついにじっとしていられなくなった私はある日の早朝、一人静かな病院を抜け出す事を決意した。


病院を抜け出して、勿論目指す先は八幡神社が建つあの山。

僅かなお金をに握りしめながら、私は始発のバスへと飛び乗った。

今日こそは、絶対に神耶君を見つけ出すのだと意気込んで。

そして、本人の口から直接理由を聞くのだ。

あの日約束を違えたその理由を。


でなければ、いつまで経っても何も分からない。

何も分からないまま、神耶君とお別れするなんて事は絶対に嫌だから。


私は諦めたくないのだ。

せっかく出会えた友達を――

初めて人を好きになったこの気持ちを――

絶対に諦めたくない!




家の近くのバス亭でバスを降りた私は、一目散に八幡神社を目指して、緩やかな坂の山道のを駆け上がって行く。

心の中では何度何度も、神耶君の名前を呼びながら。



『神耶君お願い、私の声が聞こえてるなら、また私に姿を見せて……お願い神耶君……お願い――』





病院を抜け出した頃には薄暗かった空も、私が八幡神社に辿り着く頃にはすっかり太陽が光輝いていた。

お祭りの時とは違い、太陽が照らす世界は明るい。その明るさと暖かさが、私を勇気付けてくれる。

それからもう一つ、お祭りの時とは違って今境内には人が誰もいない。

誰もいないからこそ、周りを気にすることなく今度は堂々と色々な場所を探し回ることができる。

神耶君を探し出せなかったあの日との、様々な条件の違いをプラスに受け止め、私は再び神耶君を捜して山の中を彷徨い始めた。



「神耶君どこ?どこににいるの?」



勢いよく社の戸を開け放ち、あの日探せなかった社の中を。

以前神耶君と隠れんぼをして、神耶君が隠れていた社の縁の下を。

神耶君が風邪をひいて水をくみにいった神社裏にある小川にも。

その小川の更に上流、神耶君が私の為にと魚を捕ってくれた思い出の場所にも。

そして、神耶君がこの山一番のお気に入りだと言っていた桜の大木がある山頂にも。

私が思い付く限りの、神耶君との思い出が詰まったあらゆる場所を、私は訪ねて歩いた。



けれど、それらどの場所にも神耶君の姿は見つけられない。

神耶君が私の前に姿を現れしてくれる事は無かった。




「どうして……?どうして姿を見せてくれないの、ねぇ、神耶君?!」



少し葉の色を変え始めた桜の大木を見上げながら、私は焦りと絶望から湧き上がる苛立ちを叫び散らした。

私の叫びは誰からの返事も得られないまま虚しく空へと消えて行く。

それでもどうにかして返事が欲しくて、やるせない気持ちを桜の木の幹へと叩き付けながら私は再び叫んだ。



「お願い神耶君、お願いだから神耶君の姿を私に見せて……もう一度神耶君に会わせて……。お願いだから私の前からいなくならないで。ずっと私の側にいてよ」



それ以上は、もう何も望まない。

私はただ、神耶君と一緒にいたいだけなの。

だからお願い………どうか私を嫌いにならないで………お願い……



心からの必死のお願いにも、全く何の反応もない現状に、桜の幹を力一杯叩き付けていた拳は次第に勢いを失い、私は力なくその場にしゃがみ込んだ。

真っ赤に染まった手で、ボロボロと溢れ出してくる涙を何度も拭いながら、気がつけば私は、嗚咽を零しながら情けなくその場に泣き崩れていた。






その時――



「………葵葉さん」



後ろから、聞き覚えのある優しい声で名前を呼ばれて、私は慌てて立ち上がり後ろを振り向いた。

そこに立っていたのは――



「…………師匠……さん?……やっと……やっと見つけた」



やっと現れたその人物の姿に、私の涙は嬉しいものへと変わる。

ゆっくりと私の元へと歩みを進めてくるその人の顔は、何故か神耶君がよく身につけていた狐の面で隠されていた。



「師匠…さん?」



いつものニコニコ笑顔が見えないせいか、師匠さんの様子がいつもとどこか違うように感じられて、師匠さんとの距離が縮まる度に、私の心は何故かザワザワとザワつく。

けれどその違和感は気のせいだったのか、師匠さんは私のすぐ前まで来ると私の頬にそっと手伸ばし、流れる涙を優しく拭ってくれた。



「……師匠さん……良かった……会えて……」


「……」


「もう二度と……会えないのかと思いました。私の前に、姿を見せてはくれないのかと……」


「……そのつもりでした。貴方の前には姿を見せまいと、そう思っていました」


「……え?」




師匠さんから返されてた言葉に私は固まる。

やっぱり、二人は意図的に私の前から姿を消していたと言う事を思い知らされて。




「どうしてですか?!どうして急にそんな……。私が神耶君にキスしてしまったから?私の気持ちが神耶君に知られてしまったから?だから二人は私から距離を取るために、わざと姿を消していたんですか?師匠さんから忠告されていたくせに、あんな事をしてしまったばっかりに……私は神耶君を困らせて……嫌われてしまったんですか?」




思いつく限りの理由を、矢継ぎ早に質問する。

最後の方は、涙で声がうわずって、自分でも何を言っているのか分からなくなっていた。




「それは違います。神耶は貴方を嫌いになったから姿を見せさないわけではありません。見せたくても見せられないから……だから秋祭りの約束も果たすことができなかった」


「……え?」


「先程言った、貴方の前には姿を見せまいと思っていたと言うのは、私の話です。私はもう二度と、貴方の前には姿を現すまい、現す事は出来まいと、思っていたから……」


「……どうして……?」




俯きながら、苦しそうな声で申し訳なさそうに話す師匠さん。

師匠さんが一体何を言おうとしているのか?

全く分からなかった私の口から思わず溢れた疑問。

その疑問に、師匠さんは暫くの間黙り込んだ後、何かを決心したかのようにゆっくりと口を開き始めた。




「……それは、私が……貴方から神耶を奪ってしまったから。だから貴方に合わせる顔がないと……そう思っていたからです」



……

…………

………………え? 



思いもよらなかった話に、私の頭の中は一瞬にして真っ白になる。




「……え……え?……奪った?師匠さんが?神耶君を?……それは…………一体どう言う…………」




何とか頭の中を整理して、やっと返した言葉に、師匠さんはとても苦しそうに、絞り出すような声でこんな事を語った。




「先程も言いましたよね。神耶は貴方の前に姿を見せないんじゃない、見せられないのだと。それは、神耶が……神耶と言う存在が……この世から消滅してしまったから。あの子をそんな事態に追い込んでしまったのは全て私のせいなんです」




師匠さんが語った話。

その中の単語の意味がよく理解できなくて、思わずぽかんと呆けながらも、何故か強烈に響いて何度も繰り返し頭の中に流れ込んでくる単語。




「………………消滅?……消滅……って…………何??」




そぼ疑問について、震える声で聞き返した私に師匠さんはまるで開き直ったかのように垂れていた頭を持ち上げて、真っ直ぐに私を見て言った。




「言葉の通りです。神耶と言う存在は、この世から消えてなくなりました。どんなに探しても、もう神耶を見つける事は出来ません。だって神耶は、もうこの世のどこにもいないのだから……」


「……嘘……」


「嘘ではありません。これは事実です」


「そんなの……嘘だよ。……どうして?どうして神耶君が消滅なんて………」


「あの子が、神として決して許されない禁忌を犯してしまったから。だからあの子は、天界より一番重く厳しい罰を課せられたのです。それが……魂の消滅……」


「禁忌?罰?師匠さんは、一体何を言っているんですか?あの優しい神耶君が、一体どんな悪いことをして罰せられたって言うんですか?!たちの悪い冗談はやめてください!」


「……残念ながら……冗談ではありません。神耶は神界から罰を受けて、その存在を消滅させられた。これが紛れもない事実です」


「…………そんな……そんな………神耶君が……消滅?一体どうして……何があってそんな事になったんですか?教えてください師匠さん。こんな訳分からない事を聞かされて、はいそうですかなんて、とても納得できないし信じられません。私が会いにこなかった数週間の間に、一体神耶君は何をして消滅したって言うんですか?!」


「それは……」


「教えてください、師匠さん。お願いします……お願いします」




私の必死の訴えに、一瞬私から顔を逸らした師匠さん。

何かを語ろうと再び視線を私に向けるも、けれどやはり何かを躊躇っている様子で、なかなか口を開いてはくれない。

その様子に、私ははっとする。




「……もしかして……私の……私のせい?」




神耶君が罰を受けた理由。それは私に原因があるから、だから師匠さんは理由を話そうにも話しずらくて、躊躇っているのではないだろうか?

私は突然、そんな考えに思い至った。



だって師匠さんは前に言っていた。



――『これから先、もう二度と神耶とは会わないで頂きたい。神と人間が惹かれ会う事は……残念ながら許されない禁忌』だと。



師匠さんに忠告されていたのに、私が神耶君への想いを隠し通す事が出来なかったから?

眠っている神耶君にキスなんてして、自分の想いを神耶君に知らせるような事をしてしまったから?

だから神耶君は罰を受けて――




「それは違います!貴方のせいではありません!全ては私のせい」




私の中に沸き起こった疑念を師匠さんは大きな声で否定する。

かと思うと、今度は切ない声で小さくこう漏らした。




「………いや、これは誰のせいでもないのかもしれません。好きと言う気持ちは誰にも止める事が出来ないやっかいなものなのだから」と。




師匠さんが漏らした言葉の意味が分からなくて、私は小さく首を傾げる。

そんな私に師匠さんはぽつりぽつりと語り始めた。




「葵葉さんは覚えていますか?以前、神と人が互いに惹かれ合う事は、許されない禁忌だとお話したことを。でも実は、あの話の中で私は一つだけ嘘をつきました」


「嘘?」


「はい。人が神を好きになる事も、神が人を好きになることも、それ自体は別に、何も悪いことではないんですよ。好きと言う感情を、ただ心に想っているだけならば何も問題はない。けれど、人を好きになった事で生まれる望みが厄介なのです」


「…………望み?」


「はい。葵葉さんは、人を好きになった時、好きな人の為に何かしてあげたいと、そんな望みを持ったことはありませんか?好きな人の為に何か力になりたい、役に立ちたいと思ったことはありませんか?」


「……あります」


「そうですよね。好きな人や大切に想う人ができた時、その人の力になりたいと望む事はとても自然なこと。けれども……私達神は本来、人を平等に愛さなければならない存在。そんな私達にとって、誰か一人だけに特別な感情を向ける事は、とても危険なことなのです。ついつい、特別に思う人間の願いばかりに耳を傾けてしまう。特別に思う人間ばかりを贔屓してしまう。贔屓したことで、他を犠牲にするような危険な願いの叶え方をする可能性もでてくる。その危険な可能性が、私達神にとっての許されざる禁忌」


「……」


「私はずっとそれを恐れていました。神耶は貴方の願いを優先するあまり、いつか無茶をするのではないかと。だから私は、あの子と葵葉さんを遠ざけようと二人を牽制した。けれども、牽制した結果私の意思とは反対に、二人の想いを逆に強めてしまう結果となった。そして私が更に余計な事をしてしまったばかりにあの子の感情を暴走させて……あの子に罪を犯させてしまった」


「…………」


「だからあの子が罰を受け、消滅の道を辿った事は、貴方のせいなんかでは決してありません。誰かに責があるのだとしたら、それはきっと私のせい。……でも今にしておもえば、これがあの子にとっての必然。運命だったのかもしれませんね」


「消滅してしまうことがですか?」


「はい……」


「……消滅した魂は、一体どうなってしまうんですか?」


「言葉の通りです。魂が消滅したら、その魂はもう二度と生を授かる事は叶わない。それどころか、あの子の魂が存在していた事実すらこの世から消えてなくなります」


「そんな……存在が消えることが神耶君にとっての運命だなんて……そんなの悲しすぎますよ。そんな運命、私は絶対認めない。認めたくない!」




私がそう叫んだ時、突然師匠さんは顔につけていた狐の面を取ったかと思うと、驚いたように目を見開いて、私の姿を金色の綺麗な瞳に映した。



「……貴方は、神耶と同じ事を言うのですね」



そしてニッコリと苦しそうな、切なそうな笑顔を浮かべて、そう呟いた。



「……え?」


「神耶も、葵葉さんが生まれながらにして背負ってきた事柄が、抗えない運命だと私が認めるよう諭した時、そんな運命だなんて決めつけるなと、強く主張していたので」


「神耶君が?」


「はい。そしてこうも言っていました。努力次第で、運命なんていくらでも変えられるのだと。そしてあの子は、誰よりも貴方の未来を望んでいました。貴方に生きて欲しいと。だから何としてでも貴方の未来を守ろうとして」


「待ってください。……それじゃあやっぱり、神耶君が暴走した理由は……私?私が生きたいと望んだから?だから私の身代わりになって、神耶君が消滅しなければならなくなっ……た……?」




そう悟った瞬間、私の瞳から大粒の涙が溢れ落ちた。




「そんな……こんな事になるくらいなら、私は……生きる事なんて望まなければ良かった。未来に希望なんて抱かなければ良かった……。私のせいで神耶君が……私のせい。みんな…みんな私の……」




そして私は、ヒステリックに泣き叫んだ。




「落ち着いて下さい。葵葉さん!」


「私なんて、あの時死んでいれば良かったんだ。運命に抗ったりなんかしなければ。未来を望んだりなんかしなければこんな事には。神耶くんじゃない。本当に消滅しなければいけなかったのは私の方。私があの時死んでいたらこんな事には――」



“パシン”



泣きわめく私の耳にに、乾いた音が聞こえた。

私の頬を、師匠さんに叩かれたのだと気づくのに、数秒の時間がかかった。

ジンジンと、痛みを訴える頬を手で押さえながら、私はぼーっとする頭で師匠さんへを見る。

師匠さんのまとう空気はピリピリと痛く、また凍り付いたように冷たく感じられた。

表情には、ニコニコといつもの優しい笑顔は存在せず、怒っているような、悲しんでしるような、それとも泣いてでもいるかのような、何とも言えない難しい表情で私を見下ろしている。



「お願いですから、そんな事、言わないで下さい。神耶が自分を犠牲にしてまでも守りったかったものを、いらないなんて、そんな事……絶対に言わないで下さい……」


「………」


「私は二度と貴方の前に現れる事はしないと決めていた。なのに今、こうして貴方の前に姿を現したのは、貴方が自ら命を粗末にする姿を見る事に堪えられなかったから」


「………」


「貴方の生がこんな事で途切れてしまったら、神耶がした事は何だったんですか?貴方の為に魂をかけたあの子の存在意義は?全てが無意味なものになってしまう。そんな事……私は絶対に許しません。もし、神耶の存在を求めるあまり、貴方が貴方の命を粗末にすると言うのなら、私はどんな手を使ってでも貴方を止めなければなりません。たとえ、貴方に嫌われる事になったとしても――」



師匠さんは強い口調でそう言いながら、ゆっくりと白く大きな手を私の元へ近づけてくる。




「…………?何をするつもりですか?」


「今から貴方の記憶の中から、神耶に関する全ての記憶を消去します」


「いやっ!」




神耶君の記憶さえも消されてしまう?

咄嗟に私は、師匠さんの手から逃れるべく、一歩後ろへ下がろうとした。

けれども、まるで金縛りにでもかかっているかように、体を動かす事が何故かできない。

声すら出す事が叶わなかった。



「心配しないで下さい。消滅した魂に関する記憶は、暫く後には必ず誰の中からも消えてるはずです。それが自然の摂理であり、定めであるのだから。貴方の場合は、それが少し早まるだけの事。何も悲しむ事はありません。さあ、目を閉じて、力を抜いて」



嫌だっ。

そんなの絶対に嫌だっ!

神耶君との思い出も、神耶君への気持ちも、全て忘れてしまうなんて……

なかった事にされてしまうなんて……

絶対に嫌だ!!



声を出せない分、悔しさが涙となってポロポロと溢れ出す。


どうして?

どうしてこんな事になってしまったのだろう?


私はただ、神耶君と一緒にいる時間が楽しくて、その時間が少しでも長く続けば良いのにと、そう願っていただけだったのに――


どうして私の神耶君けの想いは、止まる事のない欲望へと変わってしまったの?

いつから私は、神耶君を苦しめていたの?

どこから私達の歯車は崩れてしまったの?



答えの見つからない自問自答ばかりが次々に溢れ出す。

いくら後悔した所で後の祭りだ。

だってもう、神耶君には会えないのだから。

後悔が、私の中で諦めに変わり始めた頃、頭の中に師匠さんの声が流れ込んで来た。



「次に目覚めた時、貴方は私と神耶に関する全ての記憶が消えています。神耶を消滅へと追いやった罪は全て私が背負います。だからどうか苦しまないで。貴方は全てを忘れて幸せになって下さい。それがあの子の願い」




その声に、まるで催眠の効果があるかのように私の意識は段々と遠退いて行く。




「神耶の願いを……今度は貴方が叶えてあげて下さい。お願いしますね、葵葉さん」






――――――――――






記憶を奪われ、意識を手放した葵葉の体がグラリと揺らぐ。

地面に倒れこむ葵葉の体をそっと支えて“師匠”と呼ばれたその男は、複雑な顔で葵葉の顔を見つめていた。



「ごめんなさい、葵葉さん……。貴方にこんな辛い思いをさせてしまって……本当にごめんなさい……」




そうつぶやきながら、手にしていた狐の面を自身の顔へと被せる。

堪えきれなかった涙を覆い隠すように。


けれど、泣き声までは隠せなかったようで、葵と神耶、二人に対する懺悔と悲しみの念が嗚咽となって溢れ出した。





突然の神耶の退場。神耶が消滅した理由について、まだ説明しきれていない事柄がたくさんあって、???と思われるかなとも思いましたが・・・神耶が葵葉の前から姿を消して、消滅したと知らされるまでの空白の時間の全容は、後々番外編的な位置づけで語れたらなと思っています。

もやもやが残る中での急展開ですが、この先もお付き合い頂けたら幸いです。

秋物語は次回で完結できる・・・かな~?


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