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願いが叶うなら  作者: 汐野悠翔
秋物語
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優しくしないで


「葵葉っ!」


「え?」



診察を終えて、病院を出た所で突然誰かに後ろから名前を呼ばれた気がして、私は振り返る。



「・・・・・・えぇ?神耶君っ?!」



そこにいた予想外の人物の姿に、私は思わず視線を逸らして、一目散に走り出した。



「っあ!てめ~葵葉っっ!今あきらかに目が合ったのに見ないフリしただろ?何逃げてんだ!!コラ~~~!!!」


「きゃ~~~っ!」



怒鳴りながら私を追い掛けてくる神耶君。

その迫力に、私は声を出して必死に逃げた。



「・・・・・・の野郎~~!待て!待てっつってんだろ葵葉っっ!!おいっ!」


「きゃっっ」



ついに追いつかれてしまった私は、後ろから強く腕を引っ張られて、その勢いで神耶君の方へと振り向かせられてしまう。

急に目の前に現れた神耶君の顔と、腕に感じる神耶君の熱に、またも私の心臓が悲鳴を上げた。



「あ、あれ~~?神耶君?どうしたの?」



その鼓動を何とかごまかしたくて、私は神耶君から視線を逸らすとわざとふざけているふりをした。



「お前、俺に気付いて逃げたくせに」


「えぇ~?何の事~??」


「目が泳いでるぞ。ったく」


「そ、そうじゃなくて~どうして神耶君がここにいるの~?」


「あぁ?」


「もしかして~、私の事心配して来てくれたの~?」


「ばっ!馬鹿言うな!!誰が心配なんかっ・・・・・・」


「えぇ~?じゃあどうして~?」


「・・・・・・」


「どうして~?」



形勢逆転に、私はニヤリと笑みを浮かべて、からかうように聞き返す。



「そ、それは・・・・・・こ、これだ!お前が忘れ物してったから!」


「・・・・・・お弁当箱?」


「そうだ!」


「わざわざこれを届けに?」


「そ・・・・・・そうだ!!」



顔を真っ赤にして不機嫌そうに、そう答える神耶君に、私は思わず吹き出してしまった。

相変わらず、素直じゃないな。神耶君は。

お弁当箱は、苦し紛れについた言い訳で、本当はあんな別れ方をしたから、心配して追い掛けて来てくれたくせに。



「お弁当箱くらい、明日遊びに行った時で良かったのに」


「よ、良くない!そしたら明日は弁当はないって事だろ?全然良くない!!」


「・・・・・・あ~~~そう言う事ね。はいはい。そう言う事にしといてあげる」


「んだよ、その納得してないような言い方は。だから本当に俺は」


「あっ!」


「あ゛ぁ?」


「そう言えば、お弁当を楽しみにしてくれてる所申し訳ないんだけど、私明日から学校に行ける事になったんだった」



私の言葉に神耶君は驚いた様子もなくただ一言



「そうか。」



と漏らしただけだった。



「あれ?驚かないんだね?」


「驚くような事でもないだろ」


「そっか。じゃあ・・・・・・」


「?」


「喜ばないんだね。これで一日中私に振り回されなくてすむ~って」


「う・・・・・・うれしいに決まってんだろ!これでやっと俺にも平和な時間が!!」


「何でどもったの?やっぱり本当は寂しいとか?」


「吃ってねぇし!寂しいわけがねぇ!!お前こそ!言わないのか?不安だから学校までついて来て~って」


「言わないよ」


「え?」


「言わない。もう、言わないよ。逆に神耶君、私の事心配してもう学校まで来てくれなくても良いよ」


「・・・・・・」



私の言葉に、神耶君は少し驚いたような顔で私を見ていた。

でも私は、そんな神耶君の様子に気付かないフリをして、神耶君に向かって笑ってみせた。

これ以上、神耶君の優しさに甘えてしまわないように、私は自分から神耶君を突き放した。



「私は、大丈夫。もう一人でも大丈夫だから」


「・・・・・・そっか。」


「うん」


「分かった。行かない」



あんなに不安だから一緒に来てって、しつこい程にお願いしてたのに、急に来なくてもいい、そんな事を言い出した私に、きっと神耶君の心の中では思うところもいっぱいあるのだろうけれど・・・・・・それでも理由は何も聞かずに、了承してくれた神耶君。



「ありがとう。神耶君」



やっぱり、神耶君は優しい人で・・・・・・

その優しさが、いつも私を欲張りにさせる。



お願い。

これ以上優しくしないで。

私はただ、ずっと今のまま、神耶君と一緒にいたいだけ。

それ以上の事は望みたくない。

望んではいけない。



だからお願い・・・・・・

優しく・・・・・・しないで・・・・・・











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