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願いが叶うなら  作者: 汐野悠翔
秋物語
44/94

神耶の過去 葵葉の未来

「・・・・・・俺が生まれた時代は、今から400年程昔の・・・・・・今からすれば戦国と呼ばれた時代だった。

俺はそんな戦だらけの時代の中生まれて、記憶がはっきりしないかくらいのまだ幼い頃に親に捨てられた」


「え?」



幼い頃に親に捨てられた。唐突にそんな重たい話を聞かされるなんて、全く思っていなかった私の口から、思わず漏れた驚きの声。

けれど神耶君は、私の受けた衝撃などさして気にしている様子もなく、淡々とした口調で話を先へと進めて行く。



「そんなに驚く事でもない。あの時代、子供を捨てるなんて事は当たり前によくあった事だからな。俺は生きる為に、俺みたいな親のいない奴らとつるんでは盗賊紛いの悪事をはたらいて生きて来た。

ひとさまが汗水垂らして育てた作物を盗んで食べるのは当たり前。戦に巻き込まれた集落が、どこかへ避難し空っぽになる隙を狙って、あらゆる集落に食料や金を盗みに入った。

戦場で負傷し動けない武士たちから刀や鎧を剥ぎ取っては売りさばいたりもしたな。他にも、武家や貴族の屋敷から金銀財宝を狙って、直接盗みに入った事もある。

そんな事ばかりして生きていたから、俺は生まれてから死ぬまでの間、人から疎まれる事しかなかったんだ」


「神耶君・・・・・・」


「だからさ・・・・・・だから、ずっと憧れてたんだよな。人から頼られるってどんな感じなんだろう?人に必要とされるってどんな気持ちなんだろう?って」


「・・・・・・」


「実は、今俺が守るこの神社な、俺が人間だった頃どうしても食べるものに困った時はお供えもの目当てによくここに来てたんだ。あの当時は、ここに来れば饅頭やら果物やら、何かしらの食べ物が毎日必ず供えてあったからな。そしてある時ふと思ったんだ。どうして神様は無条件に人から頼られるのだろう?って。俺には神様の存在が、物凄く不思議なものに思えてならなくなった」


「・・・・・・不思議なもの?」


「だってそうだろ?こんなちっぽけで、古ぼけた神社なのに、毎日必ず人がお参りに来るんだ。社に向かって、真剣に手を合わせて。何をしてくれるわけでもない。ただそこに存在しているだけなのに、毎日毎日色んな奴が神様を頼って神社にやって来る。

いつの頃からか、それを羨ましいと思う俺がいた。無条件に人から頼られる神様って存在に俺は憧れていたんだ。

だから、俺の肉体亡んで師匠に魂の選択を迫られた時、俺は神になりたい。そう願った。一度で良い、人から頼られる存在になりたい。そんな願いから、俺は神になる事を望んだ」


「それで・・・・・・神様に?」


「あぁ。でも・・・・・・結局神になった所で俺は何も変わらなかった。望んで手にした現状にも満足出来なくなって、俺は神としての責務を今もサボり続けてる」


「・・・・・・」


「ようは無いものねだりだったんだよな。疎まれるだけの俺が人から頼られたいなんて。頼られたら頼られたでさ、それがウザったくなって・・・・・・投げ出して・・・・・・ホント、情けない話だよな」


「・・・・・・」


「でもそれは、俺だけじゃない。人はみんな無いものねだりなんだ。この仕事をやるようになって思い知らされた。人がどれ程欲深い生き物だったのか。どんなに願いを叶えても人は現状に満足できない。次から次へと新たな欲が出て来るんだ。俺は、そんな繰り返しに疲れたんだ」



神耶君の言葉にドキっとした。

だって私も・・・・・・神耶君が嫌いな欲深い人間の一人だったから・・・・・・


最初はただ、友達が欲しかった。

それが心からの願いだった。

けれど神耶君と出会って、神耶君と過ごす日々があまりにも楽しくて・・・・・・

一分一秒でも長く、この時間が続けばいいのにと、そう望むようになった。

楽しいと思う時間が続けば続く程、私は生きたいと望んだ。

そしてその望みは、神耶君の力によって奇跡的に叶えられている。


神耶君の言う通り、願いが叶い、今も命が繋がっている現状にただただ感謝し、満足しなければいけないのに、命が繋がった今度は、更に元気な体が欲しいと欲が出た。

また神耶君に会いたいと願って、元気な私の姿を見せたいと願って・・・・・・

望みが叶えば叶う程に、自分の気持ちが抑えられなくなって行って、いつの間にか神耶君と友達以上の関係を望む私がいた。


人間の私が神様と釣り合うはずがない。そんな事、ちゃんと分かっていたつもりだ。

この恋心は報われないことも、覚悟はしていた。

けれど・・・・・・神耶君に優しくされればされる程、心のどこかで期待してしまう私がいるのだ。


もし私が、私のこの気持ちを口にしたら?

神耶君との未来を望んだら?

私達にはどんな未来が待ってるのだろうか?

何度打ち消してみても、私と神耶君の明るい未来を、心のどこかで期待してしまう私がいるのだ。

自分がこんなにも欲深い人間だったなんて、知らなかった。





―――『この仕事をやるようになって思い知らされた。人がどれ程欲深い生き物だったのか。どんなに願いを叶えても人は現状に満足できない。次から次へと新たな欲が出て来るんだ。俺は、そんな繰り返しに疲れたんだ』―――




神耶君の言う通りだ。

人間は欲深い。

もし私のこの欲深い感情が神耶君に知られてしまったら?

きっと、嫌われてしまう。


嫌だ!

嫌われたくない!!

私はずっと・・・・・・

神耶君とずっと一緒にいたいよ。


神耶君と一緒にいられる時間が私にとっては何よりの幸せな時間で・・・・・・

その願いが叶ってる今、十分に幸せなはずなのに・・・・・・

どうして私は、今の現状に満足出来ないの?

どうしたら満足出来るのかな?

どうしたら・・・・・・この気持ちを抑えられるんだろう?


こんな私・・・・・・

神耶君には知られたくない・・・・・・

絶対に、知られたくない・・・・・・





「・・・・・・ば・・・・・・葵葉?どうしたんだ?急に黙りこんで」


「っ!なっ、何でもないよ!!」



神耶君の声にはっと我に返って、私は私の中の醜い欲望をニッコリ笑ってごまかした。



「??変な奴」


「へへへ。あっそうだ!あともう一つ。もう一つ聞きたい事があったんだった」


「聞きたい事?」


「うん。これ。これって、神耶君が描いてくれたんだよね?師匠さんが言ってたんだ。神耶君は人間だった時、よく絵を描いてたって。神耶君も絵を描く事が好きだったの?神耶君も、もしかしてそれを将来の夢に考えてたりしたのかな?」



何とか話題を逸らそうと、私はとっさに手にもっていたスケッチブックを神耶君に開いて見せた。

開いたページは、私の姿が描かれた、昨日までは真っ白だったはずのページ。

神耶君が描いた私のスケッチ画。



「俺もって事は、お前はそれが夢なのか?」


「・・・・・・え?あっ?!・・・・・・やばっ!!?」



神耶君から返って来た言葉に、私は急いで口を抑えた。

とっさに振った話題だったから、思わず余計なことまで口走ってしまったと。

あまりの恥ずかしさに、私はその場に突っ伏した。



「おいおい。何をそんなに項垂れてる?俺、そんなに変なこと聞いたか?」


「・・・・・・まずいって言うか~・・・・・・恥ずかしいから・・・・・・」


「恥ずかしい?今の会話の中で、何が恥ずかしいって言うんだ?」


「・・・・・・だって・・・・・・自分の夢の話なんて、今まで誰にも言った事なかったんだもん。神耶君にバレて、今物凄く恥ずかしいの!!」


「はぁ?何で?別に恥ずかしがるような夢じゃないだろ?」


神耶君の言葉に、私は慌てて顔を上げる。


「ホントに?恥ずかしい事じゃない??」


「だから何で?」


「だって・・・・・・別段絵が上手くもないのに、絵が夢だなんて・・・・・・。それに・・・・・・あと何年生きられるかも分からないような子だよ?将来の夢を語るなんて・・・・・・」


「お前、怒るぞ!勝手に自分の将来を諦めるな!」



笑うどころか、本気で怒っている様子の神耶君。

今まで絶対にバカにされると思って誰にも言えずにいた事を、神耶君は今、真剣に聞いてくれている。

恥ずかしい気持ちも忘れてしまう程に嬉しくなって、私はもっともっと私の話を聞いて欲しいと神耶君にずっと隠して来た夢の話を語って聞かせた。



「あのね、私ね、ずとずっと小さい頃から、絵をお仕事にしてる人に憧れてたの。いつか私も、絵を仕事に出来たら良いな~って思ってた。ただ漠然と思ってただけだから、まだ何になりたい!って言う明確なものは分からないんだけど・・・・・・でも例えば、デザイナーだったり、イラストレーター、絵本作家、漫画家、アニメーター。そう言う、絵に携わる仕事に就けたらきっと楽しいだろうな~ってずっと夢見てるんだ。」



神耶君は、私の語る夢の話を、穏やかに微笑みながら、楽しそうに聞いてくれた。



「そっか。いっちょ前に立派な夢、持ってたんだな」


「へへへ。神耶君は?神耶君は、人間として生きてた時、どんな夢を抱いてたの?あれだけ絵が上手って事は、やっぱり」


「残念ながら、違うな。確かに絵を描くのが好きかと聞かれれば、好き・・・・・・だったのかもしれない。、けど俺が描いていた物は、全てが罪になるようなものばかりだった」



それまで穏やかに微笑んでいた神耶君の顔が、急に曇る。

とても穏やかじゃない空気に、私の顔も思わず強張った。



「・・・・・・え?」


「さっき・・・・・・貴族や武家屋敷からも盗みを働いてたって言っただろ?盗み出した掛け軸や、屏風絵なんかを、全くその通りに模写して、本物と偽って売り捌いてたんだよ」



「・・・・・・・・・・・・え?」


「こんな話して幻滅したか?だから俺の過去話なんて、たいして面白くないもない話だって言っただろ」


「そんなこと・・・・・・ないよ・・・・・・。そんな事・・・・・・」


「嘘つけ。顔が強張ってる」



正直、神耶君の絵が上手い理由を聞いて、動揺している。

悪い事をしていたからだなんて・・・・・・思いもしなかったし、どう受け止めて良いのか分からなかった。

でも、さっき神耶君は、私の将来の話を笑わずに聞いてくれた。真剣に受け止めてくれた。

だから私も、神耶君の過去を否定しないで、真剣に受け止めてあげたかった。

躊躇いを必死に隠しながら、私は神耶君にかける言葉を探した。



「でも・・・・・・だとしても・・・・・・このスケッチブックに描いてくれた私の似顔絵は、模写でも何でもない神耶君の絵だよ。こんなに上手く描けるようになるなんて、きっと沢山の積み重ねがあるからこそだって事くらい、私にも分かる。絵が好きじゃなければ、なかなかここまで上手にはなれないと思う。神耶君の描く絵はとっても繊細で・・・・・・優しくて・・・・・・お金儲けの為だけ描いていたいた人の絵だなんて思えないよ。

私・・・・・・この絵大好きだよ」


「・・・・・・」


「ねぇ、この絵貰ってもいい?私、大事にするから」


「・・・・・・別に。欲しけりゃやるよ。ってか、そのスケッチブックはもともとお前のだし・・・・・・」


「やった!じゃあこの絵は、今日から私の宝物だよ!ゴッホやピカソ、どんなに有名な画家が描いた高価な絵画よりも、私の中では値打ちがあって、お金じゃ変えない、大切な大切な私の宝物。ありがとう神耶君!私、この絵大切にするね!!」



神耶君が私にくれた、大切な大切な宝物を大事に胸に抱えながら、私は神耶君に向かって御礼を言う。


「っ!」


すると、目があった瞬間、神耶君は私からバッと顔を逸らして、なかなかこちらを見ようとはしてくれない。

神耶君の素っ気ない態度を不思議に思って、神耶君の顔を覗き込んでみると・・・・・・

彼のはほんのりと、赤く染まっているような、そんな気がした。

もしかして、照れてるのかな?

神耶君の反応に、私は思わず笑ってしまって、神耶君は余計に顔を赤くして怒鳴り出した。



「なっ、何笑ってんだよ!」


「だって、照れてる神耶君が可愛くて」


「はぁ?何言ってんだお前?別に・・・・・・照れてねぇし!!」



その素直じゃない意地っ張りな反応が更に可愛く思えて、私は声を上げて笑った。



「わっ笑うな~~~!!」






あ~やっぱり・・・・・・

神耶君と過ごすこの何気ない時間が、私は大好きだ。




「ね。神耶君。」


「な、何だよ・・・・・・」


「覚えてる?夏祭りの時のデートの約束」


「あぁ?・・・・・・まぁ、そりゃ覚えてるけど・・・・・・それが?急になんだよ!」


「なら話は早いね。あのね、再来週、八幡神社で秋のお祭りがあるんでしょ?夏祭りのデートの約束は守れなかったからさ、今度は秋祭りでデートしようよ」


「は?」





ずっとこの時間が続いていけば良いのにと・・・・・・

そう願わずにはいられない。





「神耶君と一緒だと楽しいから。神耶君との楽しい時間をもっともっと共有したいの。ね、ダメ?」


「・・・・・・」


「はい!指切りげんまん嘘ついたら針千本飲~ます!指きった!」


「あっ、てめっ!!またその変な呪文を」


「約束だよ!今度こそ、お祭りデートしようね!」


「だから、いっつもいっつも、一方的且つ強引に約束取り付けようとすんな!変な呪文をかけるな!しね~ぞ俺は!祭りデートなんて、絶っっっ対にしね~からな!!」



顔を真っ赤にして怒鳴る神耶君の姿が可愛くて、私は更に声を大きくして笑った。



「だから・・・・・・笑うな~~!!」









ホントに

こんな時間がずっと・・・・・・


続けば良いのに・・・・・・





この先も

ずっと・・・・・・



ずっと・・・・・・・・・・・・

















と言う事で、神耶の過去話回でした。

戦国時代から江戸時代初期にかけては、神耶のような孤児が本当に多くいたのだとか。そんな親に捨てられた孤児の救済にいち早く着手したのが、徳川5代将軍、徳川綱吉なのだとか。

生類憐みの令でバカ将軍のイメージが強い綱吉ですが、決してバカ将軍ではなく、動物や子供などたとえどんなに小さな命でも、慈しむ心を育てれば、争いのない平和な世の中が作られると、そう信じたからこその命令だったのだとか。あれ?気づけばまた歴史の話に?(苦笑)

神耶も、もう少し遅い時代に生まれていたら、少しは救われていたのかな?とか思いながら書いてました。さてさて、人に愛された経験のない神耶が、葵葉の想いにどう答えるのか?

頑張って続き書いていきます。良かったらまた覗きにきてやってくださいませ( ^^)

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