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願いが叶うなら  作者: 汐野悠翔
秋物語
42/98

意外な才能

次の日--


「葵葉ちゃ~ん。そろそろ起きなさい。学校に行かないからっていつまで寝てるつもり?」


朝の9時を過ぎようかと言う時間。

私の部屋に、お母さんが掃除機を持って入ってくる。

本当はとっくに起きていて、着替まで終わっていたのだけれど、私はタオルケットを頭まで被って来ていた服を隠し、態と寝起きのフリをして返事をした。



「ん~もう少し~」



私の返事にお母さんから呆れたような溜息が聞こえたかと思うと、その後にしたのはドアの閉まる音。

スタスタと、お母さんの足音が私の部屋の前から遠ざかって行ったかと思うと、暫く後に隣のお兄ちゃんの部屋から掃除機をかける音が聞こえてきた。


しめたとばかりに飛び起きて、私は足音を殺して階段を駆け下りて行く。

私はこのタイミングを待っていたのだ。

掃除機委の音で、私のたてる音がかき消されるこの隙を見計らって、家を抜け出す為に。



なるべく足音をたてないように一階へと下りた私は、まずは洗面所で顔を洗い、歯を磨き、寝ぐせを整える。神耶君に会っても恥ずかしくないように身支度を後は、靴を取りに玄関へと向かった。

よし。今日も順調!

このまま行けば、昨日みたいに家を抜け出して、神耶君の元へ遊びに行ける!

玄関で、靴を履きながら私がそう確信した、その時・・・・・・



「葵葉ちゃん!あなた、またどっか遊びに行くつもり?」



何の気配もなく、後ろから突然聞こえて来た怒鳴り声に、私の肩がビクンと飛び跳ねる。



「おっお母さんっっっ!!!?」



え?どうして?だってまだ掃除機の音が2階でしてるのに?

どうしてお母さんがここにいて、仁王立ちしているのか?

驚きのあまり、放心状態で立ち尽くす私に、お母さんが呆れ顔で口を開いた。



「そう何回も、同じ手が通用すると思った?葵葉ちゃんの考えてることなんてお見通しなのよ。」


「・・・・・・そんな~」



今日もいつもみたいに家を抜け出して、神耶君の元に遊びに行けると思ったのに・・・・・・

お母さんに見つかってしまっては、きっと外出を許してはもらえない。きっと監視の目もより一層厳しくなるだろう。

昨日せっかく神耶君が約束してくれたのに、私の方がその約束を破ってしまうのかと思ったら、悲しくなって、私はしょんぼりと項垂れた。



「はぁ。まったくあなたって子は・・・・・・」



今までにない盛大な溜息を吐くお母さん。

けれど、その大きな大きな溜息の後に、何故かお母さんは私に向かって紙袋を差し出してくる。



「・・・・・・?」



その紙袋の意味が分からなかった私は、首を傾げた。



「お昼ご飯。ちゃんと食べないとダメよ。それから、あまり体に負担がかかるような事はしない事!あと、今日は午後から診察の予約が入ってるんだから、忘れずにちゃんと行く事!良い?分かった?」


「・・・・・・え?う、うん。分かった」



半ば意味が分からず、適当に返事をした私に、お母さんはさっきまでの怒り顔から一転、ニッコリと優しい笑みを浮かべながら、私の顔の前に小指を突き立てて言った。



「よろしい!じゃあ約束の証に、はい。小指出して~。ゆ~びき~りげんまん嘘ついたらハ~リセンボン飲~ます。指きった!」


「・・・・・・」



いつもなら、私の体を心配して、私の外出を嫌がるはずのお母さん。

けれど、今日は明らかにいつもと違う対応。まさか笑顔で送り出されるとは。



「行ってらっしゃい」


「う、うん。行って来ます。お母さん」



いつもと違うお母さんの態度に首を傾げながら、私は今日も森へと向かった。





***





「か~ぐや君!遊びましょ~!!」



社に着くなり私は大声を張り上げて神耶君を呼ぶ。

けれど、私の誘いにいつもの事ながら社からの返事はない。



「ふぅ。今日もまだ寝てるのかな?ちゃんと声はかけたからね。不法侵入じゃないからね」



そして、これもいつもの事ながら、返事を待たずに私は勝手に社の中へと上がり込む。



「神耶君~、まだ寝てるの~?もう9時半過ぎてるよ?そろそろ起きようよ。ね~神耶君~~!」


「・・・・・・」


社の中、仰向けになり、眠る神耶君の側まで行くと、私はゆさゆさと激しく体を揺すった。

いくら揺すってみても、つついてみても、神耶君からは何の反応は何もない。



「もうっ!」



こうなったら、次の手を。

今度は、神耶君の寝顔を隠していたきつねのお面を外すと、ぺちぺちと少し強めに頬を叩いてみる。

けれども、やはりこれも反応はない。

まるで死んでいるかのように、ピクリとも動かない神耶の様子に、少し不安になって私は神耶君の鼻の前に手をかざした。

微かに感じる寝息に、ほっと胸を撫でおろす。



「もう、心配しちゃっじゃん。神耶君のバカ」



私の心配を他所に、気持ち良さそうに眠り続ける神耶君。

全く起きる気配のない様子に、私は頬を膨らませながら軽く彼の鼻をつまむと、これは流石に苦しかったのか、神耶君の顔には眉間が寄った。

そして、きっと無意識の行動なのだろう。鼻をつまむ私の手は神耶君の手によって払いのけられた。



「ふふふ」



その反応が可愛くて、思わず笑みがこぼれる。

眠っている神耶君をこうしえ観察しているのも面白いかもしれない。

そう思えて、暫くの間、私は寝ている神耶君を見つめていた。



ふと、神耶君の頭の上にある、スケッチブックの存在に気付く。

それは昨日、私が忘れて行ったもの。

昨日置き忘れていった荷物は、社の隅にまとめて置いてあるのに、どうしてスケッチブックと筆箱だけ、こんな所に無造作に置いてあるんだろう?

不思議に思ってスケッチブックを手に取ると、パラパラとページをめくって行った。

すると、私が昨日神耶君をスケッチしていたページ。そこにある違和感を感じて、不意にめくる手を止める。



私が感じた違和感。

それは、昨日神耶君をスケッチしたページの下部分に殴り書いたように昨日まではなかった「下手くそ!」の文字が書かれていたから。

きっと、神耶君が書いたであろおう。容赦ない言葉に、私は思わず苦笑してしまった。



「"下手くそ"って、酷いな~神耶君。頑張って描いたのに」



でも、モデルにした本人からダメ出しされてしまったのだから仕方ない。また最初からスケッチをし直さなくては。

溜息をつきながら、眠っている神耶君を新たにスケッチしようと、次のページをめくた・・・・・・私の手が再び止まる。



「・・・・・・何、これ?」



昨日までは、真っ白だったはずのページ。

そこに描かれた見覚えのない絵。

私の口から驚きの声が漏れ出る。




「おや葵葉さん。いらっしゃっていたのですね。どうしたんですか?そんなお化けでも見たようなた顔をして」



そんな私に、急に背中から声がかった。

その声にはっと我に返る。



「っ!師匠さん!?あの、えっと・・・・・・この絵って・・・・・・誰が?」


「そう言えば、昨日神耶がコソコソ何やら描いてましたね」


「・・・・・・神耶君が?」




まさか。

師匠さんの言葉が、まるで信じられなくて、私は再びその絵に視線を下す。

本当にこの絵を神耶君が?

神耶君が描いたと言う絵を、改めてじっくりと見つめながら、私の心には嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ち、相反する2つの感情が溢れ出していた。

だって、そこに描かれていたのは、私だったから・・・・・・



「どうしたんですか葵葉さん?だらしなく顔が緩んでますよ?」



余程酷い顔をしていたのか、師匠さん不思議そうな顔で私の隣にくると、ヒョコリと私の手にあるスケッチブックを覗き込んで言った。




「すみません。だらしない顔ですみません。でも、ニヤニヤが止らなくて。神耶君には私が、こんなふうに見えてるんですね。凄く・・・・・・凄く楽しそうに笑ってる」


「本当だ。とても優しい顔で笑っていますね。昨日、何か一生懸命描いてると思ったら、それを描いていたんですね。葵葉さん、気に入りました?」


「はい!凄く!!まさか、こんなに綺麗に描いて貰えるなんて。・・・・・・それにしても上手い。私が描いたものと比べると・・・・・・レベルが違い過ぎる。神耶君が絵を描く事実にもびっくりしたけど、こんなに上手なんて、意外過ぎて本当にびっくりしました。こんなに上手いなら、色々教えて貰えば良かったな~」


「意外?そうですか?こう見えて神耶は昔、人間だった頃はよく絵を描いてたんですよ」


「へ~そうなんですか。人間だった時に」


って・・・・・・・あれ?

あまりにも自然に口から出た単語に、思わず聞き流してしまいそうになったのだけれど、改めて自分で声に出して言った事で、やっと師匠さんの言葉の中に含まれていた違和感に気付いた。




「えぇ?!神耶君が“人間だった頃”??!え?えぇ??それって、どう言う事ですか?」


「あれ?言ってませんでしたっけ?神耶は昔、人間だったんですよ」


「神耶君が人間“だった”?だからそれって、どう言う意味なんですか??!」


「どう言う意味と言われましても・・・・・・言葉通りの意味ですよ。もともと神耶は、人間の子供だったんです」


「・・・・・・神耶君が・・・・・・人間?だったら、どうして神耶君は今、神様なんですか?」


「それは、神耶の肉体が亡んだ時に、神耶自身が神になる事を望んだからですよ」



「???」



師匠さんの言っている事に私の頭はついて行けず、たくさんの?マークを浮かべていた私に、師匠さんは優しい笑顔を浮かべながらこんな話を聞かせてくれた。



葵葉のお決まりの指切りは、お母さんの影響だったのかなって話になりました(^^;

そして、神耶の過去第一弾。次話はちょっと突飛?な話になるかもです。

受け入れていただけるか不安ではありますが・・・・・・お付き合い下さると嬉しいです。

ではでは、また次回の更新で_(._.)_


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