食後のデート?
1時間後――
「神耶君ま~だ~?こっちはもう火の準備は万端だよ~?あとは神耶君が魚を捕まえてくれるのを待つだけなんだけど」
「うるせ~!黙って待ってろ!!」
「だ~って~、もう1時間も待ってるのに全然収穫ないからさ~、私も師匠さんも待ちくたびれちゃって」
「だから!黙ってろ!お前が話かけるから気が散ってダメなんだ!!・・・・・・ってほらほらほら!来た来た来た!!見てろよ。次こそは!!そ~っと、そ~っと・・・・・・」
「あれ?え?神耶君??!」
突然、水の中に神耶君が消えた。
突然の出来事に驚いて、私は慌てて川へと駆け寄った。
すると、また突然にザバンっ!と大きな音をたてて、目の前にずぶ濡れになった神耶君が現れて・・・・・・
「っ?!き、きゃゃゃ~~~~~~~~~っっっ!」
私は驚きのあまり思わず大声を上げてしまう。
「んだよ急に!耳元で大声出すんじゃね~!」
「だっ、だって・・・・・・神耶君が急に消えて急に目の前に現れるから!」
師匠さんが薪拾いに連れ出してくれたおかげで、せっかく大人しくなっていた鼓動が、また色々な意味で早鐘を打ち始める。
今日はよくよく神耶君にペースを崩される日だ。
いつもは私が彼を振り回して困らせてるはずなのに、今日は立場が完全に逆転してる。
「・・・・・・はぁ~」
隠すと決めたばかりだと言うのに、疲労感と、本当に神耶君に自分の気持ちを隠し通せるのかと言う不安感から、私の口から思わず大きなため息が漏れた。
それからさらに数十分と時間が過ぎて――
太陽が頭上真上を通り越し、西に30°傾いた頃、私はやっと昼食にありつけた。
「いただきま~す!」と手を合わせ、神耶君がびしょびしょになりながら獲ってくれた新鮮な魚を頬張る。
頬張りながら、私は神耶君に対する率直な感想を口にした。
「神耶君て実はうんちだったんだね」
「うんっ??おまっ、食ってる時になんつー汚い話を・・・・・・」
「神耶神耶。違いますよ。“うんち”とはきっと、“運動オンチ”の事を言っているのではないですかね?」
うんちと戸惑う神耶君にすかさず間違いを正す師匠さん。
「は?運動オンチ?誰が?」
「それは勿論、貴方の事ですよ神耶。」
「なっ、俺が?誰が運動オンチだと?!バカにするな!!」
他愛もない会話にクスクス笑いを零しながら、私は一人、焼き上がった魚を頬張った。
・・・・・・ん?私一人?
「あれ?そう言えば、神耶君と師匠さんの分は?私一人で食べちゃって良いの?」
「いらない。俺達神は、基本飯は食わない」
「え?でも、いつもお昼に私のお弁当に入ってる卵を焼き食べてなかったっけ?」
「あ、あれは・・・・・・特別だ!あの卵焼きが美味過ぎるのがいけないんだ。と、とにかく、俺等神は基本、食事を取ったりしない。食べる事は命を奪う事だからな。俺達は無駄な殺生はしないんだ!」
「・・・・・・ゴメンなさい」
“無駄な殺生”
神耶君の言葉に、思わず私は食べる手を止めて謝った。
「何謝ってるんだよ。お前達人間は、それをしなければ生きて行けない。なら食うしかないだろ。いいからさっさと食え!けど、お前の命に変えられたそいつにはちゃんと感謝して、じっくり味わって食えよ」
「うん!」
神耶君の言葉に、私は大きな声で頷く。
私の為だけに、神耶君はあんなに必死になって魚を獲ってくれた。
だからなのか、今まで食べたどんな料理よりも今日の昼食は美味しかった。
神耶君、ありがとう。
***
昼飯後――
「あ~~美味しかった!ご馳走様でした!!ね、せっかく外に出てきたんだからこのままどっか、この山以外の所に遊びに出掛けてみない?ね、神耶君!」
「は?どっかってどこへだよ」
「珍しい所がいいなぁ~。う~んとね・・・・・・あっ!そうだ!!私ね、ちょっと行ってみたい所があるんだ!今からそこに行かない?ね、行こうよ神耶君!!」
「行ってみたい所?」
「へへへへ~」
お腹もいっぱいになって、すっかり気分を良くした私は、神耶君にそんな提案をした。
またこいつは面倒くさい事を言い出して。とでも言いたげな顔で、渋る神耶君を、半ば強引に引っ張って、私は神耶君を連れて少し遠出をする事にした。
さっきまで、神耶君のペースに振り回されてばかりだったから、ちょっとした仕返しの意味を込めて。
本当は師匠さんにも一緒に付いて来て欲しかったのだけれど・・・・・・
「では私は、ここで留守番をしていますね。行ってらっしゃい二人共。楽しんで来て下さいね。」
と、予想外にも笑顔で断られてしまったから、結果私達二人だけ。
何だかまるで、デートみたい?
不意に頭に過った単語に、ポッと頬が熱くなる。
あぁ、仕返しのつもりが、もしかして自ら墓穴を掘ってしまったか?
不安を感じながらも、でもそれ以上に勝るワクワクに、私の胸は躍っていた。