芸術の秋
―次の日―
私は家族の目を盗んで家を抜け出し、社のある山へと遊びに出掛ける。
「神耶君っ、遊びましょ~!」
「葵葉さん。おはようございます」
社に着くと、師匠さんがいつもの優しい笑顔で迎えてくれた。
だから私も昨日のやり取りなど何もなかったかのように笑顔を返した。
「おはようございます。師匠さん。神耶君」
「葵葉?!お前、こんな時間にここに来て何してんだよ?学校は?」
「へへへ。昨日ちょっと無茶しちゃったみたいで、ドクターストップかかっちゃった。しばらく安静にしてなさいって」
「無茶しちゃってって・・・・・・昨日っ・・・・・・」
神耶君は何かを言いかけて、途中で言葉を止める。
何を言いかけたのか?首を傾げる私からバツが悪そう視線を外して何でもないと続けた。
「で?学校も行けない奴がこんな所に来て良いのか?」
「へへへ」
「それは単なるサボりだと、世の中では言うんじゃないのか?」
「へへへへ」
「って・・・・・・笑い事じゃね~だろ!!」
怒りながらも、神耶君は私を無理矢理帰らせる事はなかった。
かと言って、遊んでくれるわけでもなく・・・・・・横になっていつもの昼寝を始めてしまう神耶君。
「葵葉さん。ゆっくりしてって下さいね。私は洗濯やら掃除やら朝は忙しいのでちょっと失礼しますが」
「あ、なら私も何かお手伝いしますよ」
「いえ、とんでもない。お客様にそんな事はさせられませんよ。お気になさらずにゆっくりしていて下さい」
師匠さんも師匠さんで、忙しそう。
仕方なく私は大人しく、持ってきていたスケッチブックに横になって眠る神耶君をスケッチする事にした。
「・・・・・・おい、んな目の前にいられたら気になって眠れないんだけど」
「だって神耶君が遊んでくれないから」
「俺はまだ眠いんだ」
「だから私、騒いで邪魔したりはしてないよ?ちゃんと大人しくしてるもん」
「だから、目の前にいられる事自体が邪魔なんだ!絵描くならあっちで描け」
「ヤダ!あっちじゃ神耶君の背中しか見えないもん。背中をスケッチしてもつまらないもん」
「んな事知るか。目の前で描かれたんじゃ俺が気になって眠れな」
「なら遊ぼうよ!」
「嫌だ!俺は寝る!」
「じゃあ私の事は気にしないで寝てて!」
「・・・・・・だから~」
「だから?」
「あ~~~~もう知るか!勝手にしろ!!」
そう言って、神耶君はふてくされたように頭に側に置いてあったキツネのお面を被った。
「あぁっ!被ったら顔見えないよ。スケッチ出来ないよ~」
「知るか」
拗ねたようにそれだけ言うと、もうそれ以上は口を利いてくれる事はなくなった。
だから私は仕方なく、一人黙々と神耶君の寝ている姿をスケッチすることにした。
その間、お面で顔を隠したものの神耶君はやっぱりなかなか寝付けない様子で、終始寝返りをうっていた。
そんな神耶君の様子に私は思わずクスリと笑いを零してしまう。
相変わらず頑固なんだから。
「ま、それは私も同じか。」