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願いが叶うなら  作者: 汐野悠翔
秋物語
34/94

叶わぬ想い

その日、お兄ちゃんと共に学校を早退して、保健の先生の運転する車に揺られながらこの町に唯一存在する総合病院へと向かった。

病院では、私の掛かり付けの沢田先生に散々怒られた後で精密検査を受けさせられた。

検査の結果異常は見つからなかったが、大事をとって明日から数日間、自宅での安静を言い渡されてしまう。

次に学校に行けるのは、お医者さんから登校の許可が下りた時。

つまりは、今の時点ではいつになるのか全く分からないと言う事で、その事実に私はがっかりする。

やっと念願の学校に通えるようになったと思ったのに。

けれど、その反面で、どこかホッとしている自分もいた。

今日の事があっただけに・・・・・・

私はそんな矛盾した気持ちに嫌悪感を覚えつつ、その日病院を後にした。




病院を出ると、空は既に真っ赤に染められ、一番星が輝き初めていた。

白かった月も徐々に主張を強めていく。

9月も半ばに入り、日が落ちる時間がすっかり早くなり秋の深まりを感じた。

この後、いつものように神耶君のいる八幡神社まで遊びに行くつもりでいたけれど、残念ながら今日はもう無理そうだ。

私が一日だけでも神社に行かない事で、神耶君は・・・・・・心配するかな?

寂しがっているかな?

私自身、神耶君に会いたい気持ちもあったけれど、まぁ明日は学校を休むようお医者さんから言い付けられているのだから、時間は有り余る程にいっぱいあるし、今日の分も明日いっぱい神耶君と遊べば良いか。

そんな考えに至って、今日は大人しくお兄ちゃんと家へ帰る事にする。




「葵葉さん」


病院を出て、最初の曲がり角を曲がった所で、不意に誰かに名前を呼ばれた気がして私は振り向いた。

振り向いた先に、見覚えのある姿があった。

まるで私を待っていたかのように、こちらに向かって優しい微笑みを浮かべているその人は―――



「師匠さん!」


「葵葉?どうした?」



突然声を出したものだから、私の横を歩いていたお兄ちゃんが驚いた様子で私を見た。



「お兄ちゃん、ゴメン。ちょっと先行ってて。師匠さんが来てくれてるの」


「師匠さんて、お前がよく話してる神様の・・・・・・あの“師匠さん”か?」



相変わらず師匠さんの姿は見えていないらしく、お兄ちゃんは辺りをキョロキョロ見回している。



「分かった。じゃあ、先に行ってるな。話が終わったらすぐに追いかけてくるんだぞ。ゆっくり歩いてるからな。いいな。そのまま山へ遊びに行くなんて事は絶対にするなよ?!」


「分かってるって。」



心配そうな顔で、何度も私に釘を刺すお兄ちゃんの言葉を軽くあしらいながら、私は師匠さんの元へと駆け寄って行った。



「師匠さん!どうしたんですか?こんな所で」


「貴方の事が心配で、様子を見に来たのですよ」


「心配って事はもしかして・・・・・・私の声聞こえちゃってました?助けてって声が」


「はい。」



返って来た返答に私は苦笑いを浮かべながらポリポリと頭を掻く。

どうやら、神様である師匠さんには、今日の出来事は全てバレてしまっているようだ。

師匠さんにバレているのだとすれば、きっと神耶君にも・・・・・・



「あれ?そう言えば神耶君は?一緒じゃないんですか?」


「残念ながら、神耶は先に社に戻っていると。貴方の事はとても心配してましたが、それ以上に貴方に気をつかったのでしょう。」


「そうなんですか。別に気なんて使わなくても良いのに」



私は、クスリと小さく笑いを零しながらそう呟く。

そんな私に、師匠さんがそれまで浮かべていた優しい微笑みを鎮めて、真剣な表情で私の名前を呼んだ。




「葵葉さん」


「はい?」


「突然ですが・・・・・・貴方に一つお尋ねしても宜しいですか?」


「?はい。私で答えられる事であれば。」


「ありがとうございます。では、単刀直入にお聞きしますね?神耶の事、貴方はどう思ってますか?神耶は貴方にとってどんな存在ですか?」



本当に突然の質問に一瞬面食らう。

でも師匠さんの顔があまりに真剣で、私も躊躇いながらも真剣に答える事にした。



「・・・・・・どんな存在かと聞かれたら、私は迷わずヒーローだと答ます」


「ヒーロー・・・・・・ですか」


「はい。神耶君は、私を死の淵から助けてくれました。神耶君がいるから今、私はこうしてここで生きていられる。神耶君は、私にとってヒーローで、私は、神耶君の事が大好きです」


「・・・・・・そう・・・ですか。その“大好き”は、友達としてですか?それとも・・・・・・恋心?」


「友達としても大好きです。けど、恋心としてもきっと」



不器用な優しさで、いつも私を助けてくれたヒーローは、気付かないうちに私の中でどんどん大きな存在になっていて・・・・・・

一年ぶりに再会した時、やっと気付いた。

あぁ。私は―――


「神耶君の事が好きです」



私は師匠さんの顔を真っすぐに見てそう答えた。

私の答えに、師匠さんの顔に一瞬浮かんだ悲しみの表情。

その表情を・・・・・・私は見逃さなかった。

師匠さんの表情に、私の中で神耶君への気持ちが大きくなればなる程に不安に思っていたある事が、核心へと変わった。

変わってしまった。

あぁやっぱり、この恋は叶わないのだと。



「やはり、貴方は自覚していたんですね」


「・・・・・・はい」


「・・・・・・」


「・・・・・・・・・・」



私達は、お互いに無言になった。

長い沈黙が続く。

先にその沈黙を破ったのは、師匠さんの方で━━━



「突然、変な事を聞いてすみませんでした。でも・・・・・・葵葉さんの気持ちを聞いてしまった以上私は貴方にお願いしなければなりません。」


「・・・・・・」


「これから先、もう二度と神耶とは会わないで頂きたい。」


「・・・・・・え?」


「・・・・・・どうして・・・ですか?」



予想外の言葉だった。

もう会ってもいけないなんて・・・・・・どうして?



「貴方と神耶の為です。貴方達の為なのです。神と人間が愛し合う事は、残念ながら許されない禁忌」


「私はっ、神耶君と付き合いたいとか両想いになりたいとか、そんな事は思ってません。ただ・・・・・・神耶君と一緒にいられれば・・・・・・神耶君の側にいられればそれだけで・・・・・・。その為に私は、辛い治療に堪えてこの町に戻って来たのに、神耶君に会えなくなるなんて・・・・・・」



そんな日常を想像して、私は急に胸が苦しくなった。

呼吸が早くなる。



「っ!?葵葉さん!!苦しいのですか?もしかしてまた発作が?」


「・・・・・・大・・・丈夫・・・です・・・・・・。私は・・・大丈夫・・・・・・」


「ですがっ!!」


「お願いします。神耶君に会うななんて・・・・・・そんな悲しい事・・・・・・言わないで下さい・・・・・・」


「・・・・・・」


「今のままで私は、十分幸せなんです。この幸せを守る為なら私は、神耶君に気付かれないようこの気持ちを隠し通します。絶対に隠し通してみせますから!だから・・・お願いします。会うななんて言わないで・・・・・・」


「・・・・・・」


「お願い・・・・・・します・・・・・・」



胸が苦しくて、呼吸も上手く出来ない。

それでも私は必死に師匠さんの着物の袖をギュッと掴んで、息も絶え絶え一生懸命にお願いした。



「分かりました。分かりましたから。神耶に会うなとは言いません。人の気持ちをどうこうする事など、神である私にもできる事ではない。だから、落ち着いて。もう喋らないで」


「本当・・・・・・ですか?」


「ええ。葵葉さん。あんないじっぱりで、怒りっぽくて、素直じゃなくて可愛くない。愚鈍な神耶を、好きになって下さってありがとうございます。心から感謝します。でも、一つだけ約束して下さい。その気持ちはどうか貴方の胸の中だけに留めておくと。神耶には決して気付かれないように。お願いします」



「・・・・・・はい・・・」


「もし、神耶が貴方の気持ちに気付いて―――」




――自分の気持ちにまで気付いてしまったら、その時は・・・・・・その先に待っているのは・・・・・・

きっと辛い別れだけ。貴方達の苦しむ姿など、私は見たくない――





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