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願いが叶うなら  作者: 汐野悠翔
秋物語
33/95

信じるままに

「・・・・・・」



私の唐突な質問に、先輩の言葉が止まる。

もし今、私が落ち込んでいるのだとしたら、それはクラスの人達と仲良くなれない事よりも・・・・・・

喧嘩してしまった事よりも・・・・・・

神耶君と言う、大切な友達の存在を否定されてしまった。それが何よりも私は悲しくて、悔しい。


そんな私の落ち込んだ気持ちを、手を差し延べてくれた先輩に上手く伝えられる自信がなくて、私は唐突にそんな質問をしてしまった。


その質問に、返ってきた答えは・・・・・・



「さぁな」



肯定でも否定でもない曖昧な答え。

あぁ、やっぱり。

この人もまた、私の言う事なんて信じてくれないのか。

そう思った時



「お前は?」



予想外に、問いを問いで返された。



「私は・・・・・・」



先輩の問い掛けに、私は俯いていた瞳を持ち上げると、真っ直ぐに先輩を見据えながら、力強く答えた。



「いると信じてます。」


「じゃあ、いるんじゃないか?」


「・・・・・・へ?」



先輩から返ってきた言葉に思わず変な声が漏れる。

馬鹿にされるかと身構えていたのに、拍子抜けだ。

そんな私を気にも止めず、先輩はこう言葉を続けた。



「お前が信じてるって言うなら、信じてやれば良い。別に、他の奴らが信じていようと信じていまいと、周りなんて気にする必要はないだろ?俺は、そう思うけど。」



その言葉にはっとした。

私は、何をムキになっていたのだろうか?

たとえ皆に見えていなくても、神耶君は確かに存在していて、私にはその姿がはっきりと見える。

それが紛れもない事実で、それが全てだ。

その事実だけで十分なはずなのに・・・・・・


先輩の言葉で、何か大事な事を思い出せた気がして



「はい!先輩、ありがとうございました!!」



私は満面の笑顔を浮かべて先輩にありがとうを伝えた。



「?変な奴」


「へへへ。良く言われます」


「何照れてるんだ?今のは別に褒め言葉でもなんでも…」


「良いんです!嬉しかったから、良いんです。」


「・・・・・・やっぱり、変な奴。」


「それより先輩!他は?他にどっか怪我した所とかないですか?!

命の恩人である先輩の手当ては私に任せて下さい!!私が責任をもってって・・・・・・あ~~~~先輩!?背中!血が…制服に血が滲んでますよ。こんな所も怪我してたなんて・・・・・・」


肩にチラッと見えた赤いシミを不思議に思って、先輩の背中を覗き込むと、肩から少し下がった所に更に大きな、4cm大程の真っ赤なシミが出来ていて、私は驚きのあまり先輩の制服のボタンに手を掛けた。



「うわっ?!馬鹿よせっ!何勝手に脱がせようとしてるんだよっ!?」


「すぐ手当てしますから、脱いで下さい!!血が広がらないうちに早く!!」


「何なんだあんたは。落ち込んだかと思えば急に・・・・・・って待て!だから脱がせようとするな!!」



逃げようとする先輩の腕をガシっと掴んで、ジワジワと先輩との距離を縮めて行く。

そして、先輩の制服のボタンを一つ、また一つと外して行った、その時!



“バンッ”と、保健室のドアが勢いよく開け放たれて・・・・・・



「「っ?!」」



私と先輩は2人して慌てて音の方へと視線を向けた。





「葵葉~~!!」



「お兄ちゃん?!」



そこに立っていたのは、真っ青な顔で肩を大きく上下させて俯きながら立つお兄ちゃんの姿。



「葵葉!無事か?大丈夫なのか?!階段から落ちたって、どこも怪我してな・・・・・・ってお前っ!葵葉に今、何しようとしてた?正直に言ってみろ!可愛い葵葉に何しようとした?!」



息を整え、顔を上げたお兄ちゃんが、私と先輩の姿を瞳に映した瞬間、お兄ちゃんは顔を真っ赤に染めながら物凄い形相で私達のもとへ駆け寄って来た。

そして乱暴に先輩の制服の襟を掴んで激しく揺さぶり始める。



「ちょっ、お兄ちゃん?!怪我人に何やってるの!!」


「人の可愛い妹を真昼間の学校でこんなに堂々と襲いやがって~!」


「待て待て待て!あんたの目は節穴か?どう見ても襲われかけてたのは俺だろ!!」


「許さない!絶対に許さないぞ~~~~~!!」


「・・・・・・あ~~もう!何なんだ?あんたら兄妹は!揃いも揃ってうざいったらないな」


「う、うざいだと?!俺はただ、可愛い葵葉がお前みたいな変な虫に襲われやしないか心配してだな・・・・・・」


「あんた、シスコン?」


「なっ!?シスコンをバカにするな!!シスコンで何が悪い!」




お兄ちゃんの先輩を掴む手に更に力が加えられる。



「だから、うざいんだって。うざいし暑苦しい」


「お前、初対面の人間にうざいだの暑苦しいだの、失礼だろう!」


「それはお互い様だろ。初対面の人間の衿を掴んで今にも殴り掛かりそうな奴が何言ってんだ」


「コイツッ!!!」



頭に血が上って、月岡先輩に今にも殴り掛かりそうな勢いのお兄ちゃんを、私は慌てて止めにかかる。

でも、お兄ちゃんの力に敵うわけもなく、私がお兄ちゃんに突き飛ばされてよろめきかけたとき



「白羽君っ!やっと・・・・・・追いついた。話の途中で猛スピードで走って行っちゃうから・・・・・・追いかけるのが・・・大・・・変・・・・・・」



激しく息をきらしながら、保健の先生が入ってきた。

先生が入って来た事によって、意識がそちらに逸れたらしいお兄ちゃん。

びくともしなかった先輩の制服を掴んでいたその手を自ら放して、今度は、先生の方へと足音荒く迫って行く。



「先生遅いですよ!先生が遅いから、俺の可愛い妹がこんな汚らわしい奴に襲われかけ」


「おい!こらあんた、何嘘偽りを言い触らしてやがんだ」


「今の話は本当なの?!本当だとしたら・・・・・ちょっと貴方、職員室にいらっしゃい!」


「ちょっ、先生待って下さい。むしろ俺は襲われかけてた方で・・・・・・あんたからも何か言ってくれよっ!」


「先生。違うんです!先輩は階段から落ちた私を助けたせいで体中怪我してて、手当てしようと・・・・・・ってそうだ手当て!先輩!早く脱いで下さい!!」



先程の痛々しい血の跡を、また手当できていなかった事を思い出して、私は再び先輩の制服に手をかけた。



「だから!無理矢理脱がせようとするなってさっきから・・・・・・あ~~~もう!」



ついに声を荒げて月岡先輩は勢い良く立ち上がる。




「せっかく静かな所で堂々とサボれると思ったのに、あんたら兄妹のせいで台なしだっ!」



そして、かなり怒った様子でそう吐き捨てると、私に背を向け廊下に向かって歩き出す月岡先輩。



「先輩?どこ行くんですか?手当てがまだですよ」


「もう良いよ。あんたに手当てされたんじゃ、治るものも治らなくなりそうだから」



振り返る事すら怠そうにそう言われて、私もそれ以上月岡先輩を引き留める事は出来なかった。



「お前!今、人の妹を馬鹿にしたな?!葵葉はな、少し不器用だけどがんばり屋で・・・・・・ておい!人の話を聞いてるのか?!こら~~~」




月岡先輩が消えて行った廊下に向かってお兄ちゃんが大声で叫ぶ。

そんなお兄ちゃんに、今度は私がお兄ちゃんに向かって怒鳴った。



「お兄ちゃんの馬鹿!お兄ちゃんのせいで先輩怒らせちゃったじゃない!」


「ばっ馬鹿って、葵葉っ・・・・・・俺は、お前の事を心配して・・・・・・」


「心配してくれるのはありがたいけど、お兄ちゃんの場合は限度を超えてるの!」


「しかしだな、葵葉・・・・・・」


「もういいよ!そんな事より、どうしてお兄ちゃんここにいるの?授業は?」


「お前が階段から落ちたって保健の北村先生が呼びにきてくれてたんだ。今から先生が病院に連れていってくれるから、付き添いとして俺もついてこいって・・・・・・そうだ!あんな奴と言い争いをしている場合じゃなかった。先生!早く妹を病院に」


「・・・・・・」



それまでの私達の会話についてこれず呆然と立ち尽くしたままの先生。



「先生!聞いてますか?早く妹を病院に」



急に話題を振られて、先生は驚いたように肩を跳ね上げていた。



「ぇ・・・・・・え?な、何?」


「何?じゃないですよ!先生しっかりしてください!妹を早く病院まで連れて行って下さい!!」


「そ、そうね。・・・・・・えっと・・・あっと・・・・・・」



まだ覚醒しきれない様子で、先生はアタフタする。



「先生!!」



そんな先生に痺れをきらしたらしいお兄ちゃんは、女の先生にまで掴みかかろうとするもんだから、私は慌ててお兄ちゃんの暴走を体を張って止めに入った。




「ちょっ、お兄ちゃん!先生にまで何やってるの?!私は大丈夫だから、少し落ち着いて!

すみません先生。私のせいでご迷惑をおかけして。本当にすみません・・・・・・」



お兄ちゃんを押さえ付けながら、私は先生に向かって何度も何度も頭を下げる。

お兄ちゃんの暴走を止めるのに必死で、この時私は窓から覗く二人の存在に全く気付いていなかった。




***




「葵葉さん、楽しそうですね。それにいつの間にか人間のお友達が出来たみたいで良かったです。ね、神耶」


「・・・・・・あぁ」


「神耶?どうしたんですか?そんなに暗い顔をして。葵葉さんの助けを呼ぶ声が聞こえたと、血相を変えて戻ってきたくせに。葵葉さんの無事が分かっで良かったじゃないですか」


「・・・・・・あぁ。そうだな」


「はぁ。心ここにあらずですか。そんなに心配なら、ほら。こんな所から見ていないで葵葉さんのもとへ行ってあげなさい。」


「・・・・・・いや。良いんだ。無事ならそれで良いんだ。それに、せっかく人間達に囲まれて楽しそうにしてるのに、今俺が出てったら、あいつの邪魔になる。また俺のせいで、あいつが人間から疎まれる。」


「そうですか?」


「でも・・・・・・」


「でも?」


「・・・・・・」


「神耶?」


「何でかな?あいつに友達が出来る事は良い事だ。良い事だって、頭ではそう理解してる。理解してるはずなのに・・・・・・その姿を見て、何でこんなにも淋しいと・・・・・・思っちまうんだろうな?」


「神耶・・・・・・」


「なぁ師匠・・・・・・この矛盾した変な気持ちって・・・・・・一体何なんだ?」


「それは・・・・・・私にもわかりません」


「・・・・・・そっか。師匠にも分からない事なんてあるんだな」


「・・・・・・」


「これ以上、ここにいるのはなんか辛いから、俺は社に戻るよ」


「わかりました。では私は、もう少し葵葉さんの様子を見てから戻りますね」


「あぁ。」























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