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願いが叶うなら  作者: 汐野悠翔
秋物語
31/94

喧嘩


神耶君と師匠が真っ青な空の中、遠ざかって行く後ろ姿を見送っていた時、不意に後ろから“バタン”と勢いよくドアが開け放たれる音が聞こえて来て、私は驚いて後ろを振り返る。



すると、屋上と校舎を繋ぐ扉付近に、数人のクラスメイト達が呆然とした様子で立っていた。



「白羽さん・・・・・・今の・・・・・・何?貴方、誰と話してたの?どうして卵焼きが・・・・・・宙に浮いて・・・・・・」


「あ、あの・・・・・・今のは・・・・・・」




クラスメイトの言葉に詰まる。

どう誤魔化そうか?


ふと、前にも同じような状況があった事を思い出した。

あの時は、神耶君の存在を素直に人に言えなかった自分自身に嫌悪感を覚えたんだったっけ。

ここでまたごまかしの言葉を考えるなんて・・・・・・

自分自身の行いに恥ずかしくなった。

だから私は素直に神耶君の存在を説明する事にした。

この町で出会った八幡神社の神様の事を。

皆が忘れかけているこの町の護り神様の事を。




「あんた・・・・・・何馬鹿な事言ってるの?神様なんてこの世の中にいるわけないじゃん!」


「神様はいます。神耶君が前に言ってました。信じない人間には見えない。皆さんに見えないのはきっと、信じてないから。神様の存在を信じれば、きっと皆さんにも見えます。」


「じゃあ・・・・・・」


「え?」


「じゃあ、どうして私が今、こんな学校に通ってなきゃいけないんだよ。第一志望の南高に合格できますようにって、1年間ずっとずっと私は願って願って願い続けてきたのに・・・・・・こんな田舎の学校なんかに・・・・・・」



茶色ががかった真っ直ぐな綺麗な髪を風に靡かせながら、憎々しげにそう言ったのは転校初日の帰り際、私にきつい言葉を掛けた2人のうちの1人。安藤さん。



「神耶君はこんな事も言ってました。神様は願いを叶えたいと本気で努力した人間の手伝いしか出来ないって。」


「何?それじゃあ、私の努力が足りなかったって事?あんた本気でムカつくっ!!」


「い、いえ、そう言うつもりでは・・・・・・」


「笑いたくもないくせに、馬鹿みたいにニコニコ愛想笑いしてさ。大人達に贔屓されて。人の気を引きたいのか知んないけど、神様が見えるとかワケわかんない事言っちゃって、あんたマジでキモいっつの!

クラスの奴から相手にされなくて、いつまでもうじうじうじうじ。"それ"とばっかりにらめっこしてる姿もいちいち腹が立つ!」



そう声を荒げて、あの日のように私に迫って来る安藤さん。

安藤さんは私を睨みつけたまま、不意に私に向かって手を伸ばして来た。

蛇に睨まれた蛙のように固まって動けなくなっていると、私に向けられたその手は触れられる寸前で横に逸れる。



「あっ!?」



安藤さんの手が掴んでいたもの。それは昼休みの空いた時間に神耶君をスケッチしようと持ってきていたスケッチブック。

安藤さんはそれを開くと、力いっぱい左右に引っ張った。



「ダメっ!!」



私は慌ててスケッチブックを奪い返そうと安藤さんに飛び付いた。



「離せ!キモいんだよお前!!」


「離さない!これだけは・・・・・・ダメっ・・・・・・」



私達の取り合いに、その場にいたクラスメイト達は皆が皆、傍観者を決め込んで、誰も止めに入る者はいない。



「返して!」


「うるさい!」


「返して!!」



取り合いに夢中になって、気づけば私達はクラスメイトたちの立つ屋上の入口あたりまで移動していた。

傍観者の生徒達と、いつのまに場所が入れ替わっていたのか、私と安藤さんが校舎の中に、他のクラスメイト達が屋上に出て、こちらを見守っている。



「おい、お前達、んな所で何やってんだ?!危ないだろ!」



不意に、下からそんな怒鳴り声が聴こえて来た。

私の意識が一瞬、そちらに逸れた時、眼下に階段が見えた。

先程の声は、この階段が危ないと忠告してくれたのだろう。

けれど、怯んでなんていられない。

怒鳴り声に安藤さんの力が一瞬緩んだのだから。

私はその隙をついて、スケッチブックを思いっ切り引っ張った。

そして、安藤さんの手からスケッチブックを取り返す事に成功した。



「やった・・・・・・」


思わずも声が漏れる。

けれど、取り戻した勢いで体はバランスを崩し、体がフワリと宙に浮いたような、そんな不思議な感覚に襲わたれ、漏れた声は途中で途切れた。



「危ないっ!」



遠くに聞こえる声。

ぐらりと天井が回って見える。

後ろにバランスを崩した私は、重力に抗えず階段に向かって背中から落ちていく。

込み上げてくる恐怖からギュッと目をつむった。

真っ暗になった闇の中、頭に浮かんできたのは神耶君の顔。



『助けて・・・・・・神耶君。・・・・・・助けて・・・・・・』



そう心の中で叫んだのを最後に、私は記憶を手放した。






















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