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願いが叶うなら  作者: 汐野悠翔
秋物語
28/98

放課後、美術室にて

「ね、神耶君。一緒に来て欲しい所があるんだけど・・・・・・今から行かない?」



へらへらと笑う事しかできない私に機嫌を損ねた様子の神耶君。

何とか話題をそらそうと、私はあることを思いついて、神耶君に提案する。



「は?何だよ急に」


「ね?お願い!」



私の突然の提案に、わけも分からず困ったように顔を歪めている神耶君の手を引っ張って、私は半ば強引に彼を教室から連れ出した。



「だから・・・・・・何でいつもお前は突然わけわからない事言いだして、お願いとか言いながら強引に俺を巻き込もうとするんだ~~~~!!」



神耶君の本気の嘆きも笑って流しながら、無理矢理彼を連れて行った場所。そこは・・・・・・




「美術室?」


「そう!朝も言ったけど私ね、美術部に入ろうと思っててね」


「お前、絵なんて描けるのか?」


「入院生活って暇なんだ」


「は?」


「だからね、暇な時はいつも、病室から見える景色を描いてたの。この一年は特に人物画にこっててね」


「それ、朝も大事に持ってた風呂敷か?何が入ってるんだ?」



今日一日大事に持っていた風呂敷包みを解く私の手元を、興味深げに覗き込みながら、神耶君が言う。

私は包みを解き終えると、風呂敷の中に入れていたあるものを、神耶君に向けて持ち上げて見せた。



「じゃん!実は神耶君をモデルにずっと描いてた油絵!」


「は?それが俺?全然似てねぇじゃねぇか!」


「だよね~。うろ覚えの記憶だけを頼りに描いてたからなかなか上手く描けなくて・・・・・・そこで!今から神耶君をスケッチさせてください!」



そう言って、鞄の中から鉛筆とスケッチブックを取り出しすと、私はシャキーンと神耶君の目の前に突き付けて見せる。



「は?」


「ダメ?」


「またお前は・・・・・・捨てられた子犬みたいな目で俺を見るなぁぁぁ~~~!!」



神耶君の怒鳴り声が教室に響く。




***




「で?俺は何をすれば良いんだ?」


「いいよ。何もしなくて。自然にしててけれれば。」


結局、怒りながらも私の我がままに付き合ってくれる神耶君。

もう、お決まりになりつつあるこのやり取りに、神耶君自身もどこか楽しんでいるように見えるのは、私の都合の良い解釈だろうか?



「自然て・・・・・・んなにじっと見られてたら自然でなんていられるわけ・・・・・・」


「?何か言った?」


「何でもない!とっとと描いて、とっとと帰るぞ!!」



胡坐をかきながら椅子に座り、隣の席に座る私の方に体を向けながら机に肘を掛け、ムスッと頬杖を付いていた神耶君は、突然私から顔を逸らすようにプイとそっぽを向きながら言った。



「ありがと。我が儘に付き合ってくれて。」


「今更、何言ってやがる。お前に振り回されるなんていつもの事だろ」


「そうだっけ?」


「おいおい無自覚かよ。この野郎」


「嘘嘘。いつもいつも、ありがとう。感謝してます」


「・・・・・・」



神耶君の顔が真っ赤に染まる。

この顔は、照れてる時の顔だ。

神耶君の反応が面白くて、笑ってしまいそうになったけれど、ここで笑ったらまた不機嫌になってへそを曲げてしまうから、私は必死笑いを堪えた。



「とっ・・・・・・所で何で俺なんかをモデルに絵を描こうなんて思ったんだ?」



照れてるいるのを誤魔化したかったのか、急に話題を変える神耶君。



「神耶君との思い出を、何か形にして残したかったから。かなぁ?」


「思い出を・・・・・・形に?」


「そう。東京にいた時ね、神耶君と過ごした時間を思い出しては懐かしんでいたんだけど、人の記憶っていい加減なもので、時間が経つと薄れていっちゃうでしょ?日に日に神耶君の顔が記憶の中からぼやけて行って、それがなんだか凄く寂しくて・・・・・・。

だから、忘れちゃう前に大切な思い出を、何とか形にして残しておかなきゃって、そう思ったのがきっかけかな。」


「・・・・・・」




自分の気持ちを隠す皓なく素直に答えた私の話に、その後神耶君から言葉が返ってくる事はなかった。

だから私もそれ以上言葉を紡ぐ事をやめて、神耶君を描く事に集中した。

鉛筆を動かす音以外は何もない、そんな静かな時間が二人の間をゆっくりと流れて行く。




***




気付けば空は赤く染まり初めていた。


「あぁ、もうこんな時間なんだ。神耶君ごめんね。遅くまで付き合わせちゃって。疲れたでしょ?」


「・・・・・・ん?」



眠そうな目を擦りながら、焦点の定まらない様子でこちらに視線を泳がせている。そんな神耶君の姿にクスリと笑いを零しながら



「帰ろっか。」



私はそう呟いた。



「あぁ。絵はもう良いのか?」


「うん。大分はかどったから今日はもう終わりにするよ。」


「そっか、なら良かった。モデルになってやったんだから、そっちの油絵が完成したら一番に俺に見せろよ」


「え~どうしよっかな~」


「お前な~」




そんな他愛もない話を交わしながら、私達は学校を後にした。






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