初めまして 宜しくお願いします
9月1日。転校初日の朝。
今日から私が所属することになる1-2組の教室の前。
クラスでは、ホームルームが行われている中、担任の先生に廊下で待機しているよう言われ、横に広い廊下でぽつんと一人立ち竦む、そんな私の隣には、頭を抱えながら項垂れる神耶君の姿が。
転向初日の不安と緊張に、押しつぶされそうになっていた私の心は、神耶の存在にとても救われた。
「何お前、緊張してるのか?」
先生に呼ばれるのを、今か今かと待っている間、小刻みに奮えている私に気付いたのか、先ほどまで深く項垂れていた神耶君が声をかけて来た。
そして彼は、私の手をギュッと握る。
「っ・・・・!」
神耶君の不意打ちに、胸の鼓動が緊張とはまた違った意味で早まって行くのを感じる。
「・・・・・・ありがとう。大丈夫だよ。神耶君がこうやって側にいてくれるから、私頑張れるよ」
「・・・・・・そっか。」
お互いにはにかんで、どちらからともなく握った手にギュッと力を入れた。
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「所で、さっきから気になってたんだけど、そのでっかい荷物は何だ?」
手を繋ぎながら、私の方をチラリチラリと盗み見た神耶君。
私が手を繋がれた方とは反対の、左手に持っていた風呂敷に包まれたある物が気になったらしく、不思議そうに問い掛けられる。
「これ?これは部活の道具。私、美術部に入ろうと思ってて。」
「・・・・・・ふ~ん。絵か何かなのか?」
「当たり!でも、これ以上の事は、今はまだ教えられないんだ。」
「何でだよ?そう言われると、何かすっげ~気になんだけど」
「そう言われても教えな~い」
「少しだけ!」
「ダ~メ!」
「ほんの少しで良いから!」
「だから、ヤダってば」
「本当にちょっとだけで良いから」
「教えないよ~だ」
先程まで、緊張していた事も忘れて、神耶君とそんなやり取りをしていると、突然教室のドアが開いて、担任のまだ年若い男の先生がひょこっと顔を覗かせた。
「転校生、入っていいぞ」
「はっ、はいっ!」
再び押し寄せて来た緊張に、思わず声が裏返る。
「おい葵葉。落ち着けって」
返事をしたものの、固まったまま動けずにいた私の背中を、神耶君がポンっと押してくれる。
そのおかげで、動けずにいた私の体は、前に体重がかかり、一歩、教室へ足を踏み入れる事が出来た。
教室に入ると、数十人の生徒達が一斉に好奇の視線を私に向けてくる。
私は、隣にいる神耶君の着物の袖をギュッと掴んで、小さく深呼吸する。
そうして一呼吸置いた後・・・・・・
「は、初めまして!今日からこのクラスでお世話になります白羽葵葉と言います。皆さん、宜しくお願いします!」
何度も何度も頭の中で唱え続けていた台詞を一気に吐き出して、私は勢いよく頭を下げた。
次の瞬間、教室には沢山の拍手が鳴り響いた。
とりあえず・・・・・・ちゃんと初めましての挨拶が出来たみたい?
私はホッと胸を撫で下ろした。




