表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
願いが叶うなら  作者: 汐野悠翔
秋物語
25/98

初めまして 宜しくお願いします

9月1日。転校初日の朝。

今日から私が所属することになる1-2組の教室の前。

クラスでは、ホームルームが行われている中、担任の先生に廊下で待機しているよう言われ、横に広い廊下でぽつんと一人立ち竦む、そんな私の隣には、頭を抱えながら項垂れる神耶君の姿が。

転向初日の不安と緊張に、押しつぶされそうになっていた私の心は、神耶の存在にとても救われた。



「何お前、緊張してるのか?」



先生に呼ばれるのを、今か今かと待っている間、小刻みに奮えている私に気付いたのか、先ほどまで深く項垂れていた神耶君が声をかけて来た。

そして彼は、私の手をギュッと握る。



「っ・・・・!」



神耶君の不意打ちに、胸の鼓動が緊張とはまた違った意味で早まって行くのを感じる。



「・・・・・・ありがとう。大丈夫だよ。神耶君がこうやって側にいてくれるから、私頑張れるよ」


「・・・・・・そっか。」



お互いにはにかんで、どちらからともなく握った手にギュッと力を入れた。


「・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


「所で、さっきから気になってたんだけど、そのでっかい荷物は何だ?」


手を繋ぎながら、私の方をチラリチラリと盗み見た神耶君。

私が手を繋がれた方とは反対の、左手に持っていた風呂敷に包まれたある物が気になったらしく、不思議そうに問い掛けられる。



「これ?これは部活の道具。私、美術部に入ろうと思ってて。」


「・・・・・・ふ~ん。絵か何かなのか?」


「当たり!でも、これ以上の事は、今はまだ教えられないんだ。」



「何でだよ?そう言われると、何かすっげ~気になんだけど」


「そう言われても教えな~い」


「少しだけ!」


「ダ~メ!」


「ほんの少しで良いから!」


「だから、ヤダってば」


「本当にちょっとだけで良いから」


「教えないよ~だ」



先程まで、緊張していた事も忘れて、神耶君とそんなやり取りをしていると、突然教室のドアが開いて、担任のまだ年若い男の先生がひょこっと顔を覗かせた。



「転校生、入っていいぞ」


「はっ、はいっ!」



再び押し寄せて来た緊張に、思わず声が裏返る。



「おい葵葉。落ち着けって」



返事をしたものの、固まったまま動けずにいた私の背中を、神耶君がポンっと押してくれる。

そのおかげで、動けずにいた私の体は、前に体重がかかり、一歩、教室へ足を踏み入れる事が出来た。



教室に入ると、数十人の生徒達が一斉に好奇の視線を私に向けてくる。

私は、隣にいる神耶君の着物の袖をギュッと掴んで、小さく深呼吸する。

そうして一呼吸置いた後・・・・・・



「は、初めまして!今日からこのクラスでお世話になります白羽葵葉しらはあおばと言います。皆さん、宜しくお願いします!」



何度も何度も頭の中で唱え続けていた台詞を一気に吐き出して、私は勢いよく頭を下げた。

次の瞬間、教室には沢山の拍手が鳴り響いた。

とりあえず・・・・・・ちゃんと初めましての挨拶が出来たみたい?

私はホッと胸を撫で下ろした。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ