学校へ行こう
「か~ぐや君!あっそび~ましょっ!!」
「来たな、また煩いのが。」
「煩いなんて酷いな~。離れていた時間の友情を取り戻そうと頑張ってるのに」
この町に戻って来てから、早いもので一週間が経とうとしていた。
今日は8月の最後の日。
今日で夏休みが終わると言うこの日、私はいつものように、神耶君のいるこの八幡神社に遊びに来ていた。
でも、一つだけ。
一つだけ、いつもと違っていることがある。
「ねぇねぇ!神耶君!どう?似合う??」
「女みたいで気持ち悪い」
「酷っ!!」
夏休みが終わり、9月を迎える明日から、私はついに念願の学校に通う事になったのだ。
今日は、流行る気持ちを抑えきれなくて、明日から着て行く高校の制服を、神耶君へのお披露目も兼ねて着て来ていたのだ。
なのに・・・・・・
そっか。気持ち悪いのか。
まぁ、無理もない。
神耶君の前でスカートをはくのは初めてだしね。
それに最近は伸ばしていたとは言え、まだどちらかと言えば髪型はショートに近い。
自分でも見た目が男の子みたいである事は承知している事実。
そんな私が、制服とは言えスカートなんて
「やっぱり似合わうわけない・・・・・か。」
諦めの気持ちから小さくため息が漏れる。
「別に・・・・・・似合ってない・・・・・・事もない」
「えっ?」
その時、ボソッと漏れ聞こえて来た神耶君の言葉に、俯いていた顔を上げて神耶君を見た。
彼はプイっとそっぽを向くも、その顔はどことなく赤くなっているように見えた。
「相変わらず神耶は素直じゃないですね。素直に可愛い。似合ってると、思っている事をそのまま言葉にすれば良いものを。」
「あっ!師匠さん!」
「師匠っ?!何でここに?」
突然、、どこからともなく聞こえてきた声に、私と神耶君は声の主を呼ぶ。
師匠さんは、白髪の長くて綺麗な髪をなびかせながら、にこにこと穏やかな笑顔を浮かべて、私たちの目の前に姿を現した。
私達が“師匠”と呼ぶこの人は、八幡神社に奉られる八幡神の一人で、三代八幡宮の一つ、京都にある岩清水八幡宮を納める、神様の中でもとくに立派な神様なんだとか。
神耶君が神見習いの時からお世話になっている神耶君の師匠さん。
「あんた、また自分の神社抜け出してこんな所までサボりに来たのか?」
「そんな事、今はどうでも良い事です。それより正直に葵葉さんに可愛いと言って差し上げなさい。ツンツンばかりしてないで、たまにはデレないと、葵葉さんに愛想つかされてしまいますよ。女の方はそのギャップに弱いのですから」
「はぁ?!可愛いなんて、思ってもない事言えるわけないだろ!ってかツンとかデレとか、一体何の話をしてるんだ!!」
更に顔を赤く染めながら、師匠さんに噛み付く神耶君。
彼のそんな姿を見てたら、たまらず笑いが零れて来た。
やはりさっきのは、彼なりの褒め言葉だったらしい。
「本当に素直じゃないんだから。神耶君は。」
「は?お前まで何言ってやがる!何笑ってやがる!別に俺は、似合うとは一言も言ってねぇからな?!わかってんのか!?」
「はいはい。わかってますよ~。そんな事より~」
「そんな事より・・・・・・じゃねぇ!お前、全然わかってねぇだろ!!」
「今日は神耶君に一つお願いがあるんだ。」
「無視すんじゃねぇ!ってか、お願いだと?誰が人間の願いなんて叶えてやるもんか。そんな話をしにきたんならとっとと帰れ!!」
「明日、一緒に学校来てくれない?」
「だから人の話を聞けって!何度言わせれば分かるんだ!?」
「お願い。一緒に行って?久しぶりの学校登校で緊張してるの。しかも入学が二学期からの転校生としてなんて、初めての経験で・・・・・・不安なのっ!」
私は、神耶君に両手を合わせて、甘えるよな声で必死にお願いをする。
「知るかっ!勝手に一人で緊張してろ!!」
「友達が困ってるのに突き放すなんて…酷い!酷過ぎるっ!!」
「だ~れが友達だっ!お前が勝手に付き纏ってるだけだろ!!」
「師匠さんからも神耶君を説得して頂けませんか?明日、どうしても一緒に来て欲しいんです。」
「お前っ!師匠を見方につけようなんて狡いぞ!!」
「だ~って~・・・・・・どうしても一緒に来て欲しいんだもん。一人じゃ心細いんだもん~。
お願い神耶君、明日だけ。明日一日だけで良いから、一緒に学校行って~?」
何度も何度もお願いするものの、決して首を縦には振ってくれない神耶君。
師匠さんも、私のお願いに苦笑いを浮かべるだけで、今回ばかりは師匠さんの味方は期待できそうになは無さそうだ。
「あ~も~!いい加減にしつこいぞ!嫌なものは嫌!だからな!!」
「あぁ~酷い!そんなはっきり言わなくてもいいじゃない!この人で無し!鬼!悪魔~!!」
「・・・・・・お前なぁ・・・・・・」
散々にごねて見せる私に、神耶君は呆れた様子で、盛大なため息をついていた。
***
そして翌日――
「くそっ・・・・・・。なんで俺、ここにいるんだろ」
なんだかんだ言っても、最後には必ず、お願いをきいてくれるんだから。
そんな神耶君が私は大好き。




