もしも、願いが叶うなら
「ねぇ?それ、どうしたの?そのお面。」
人が干渉に浸っているのもお構い無しに、葵葉が俺の被るお面を指差して聞いてくる。
「・・・・・・うるさい。2回も約束破りやがって」
「2回も?約束?・・・・・・あ~~もしかして、今年も夏祭り終わっちゃったの?神耶君との夏祭りデート楽しみにしてたのに~」
「約束破ったんだから針千本飲めよ。いや、2回分で二千本だ!」
「え~?破ってないよ。夏祭りは来年もあるし、来年こそは、夏祭りデートしよう!ね!」
「・・・・・・来年?」
何気なく葵葉が口にした言葉。その言葉に、俺は葵葉に問いかけた。
「来年って事は、じゃあもうお前の病気は治ったのか?」
俺の問い掛けに、葵葉は小さく頭を振る。
「完全には治ったわけじゃないみたい。でもね、もう普通の子と同じような生活は出来るんだよ。
私ね、秋からこの町の学校に通う事になったんだ」
本当に嬉しそうに話して聞かせる葵葉
「そっか・・・・・・そっか!よかったな!」
「うん!神耶君とも、これからいっぱいいっぱい遊べるよ!」
「そうだな」
「来年の夏祭りだって、きっと行けるよ!」
「あぁ。そうだな」
「あれ~?珍しい。私の事、うざからないんだね?」
「うざいに決まってるだろ。」
「あ~酷いな~。やっぱり私の事邪魔物扱いしてたんだ~」
「お前な、自覚あったなら少しは俺への接し方考えろよな」
「言ったでしょ?私は、気付かないふりをするのが得意だって。神耶君に邪魔者扱いされたって、気付いていないふりして、纏わりつくから、覚悟しておいてね!」
「・・・・・・お前な~」
また、以前の様にくだらない事で俺と葵葉の言い合いが始まる。
そんな他愛もない事が、こんなに楽しいなんて、俺は知らなかった。
つい一年前までは、一人でいる時間が幸せだと感じていたのに、いつの間にかこいつが隣にいない日々を寂しいと思うようになった。
こいつは、沢山の感情を俺に思い出させてくれる。
沢山のことを教えてくれる。
そんな存在が、人間の言う“友達”だと言うのなら、それも悪くないかもしれない。
師匠が言った。
友達とは、側にいるのが当たり前の存在だと。
だとしたら、もう二度と・・・・・・
葵葉と言う存在を手放したくない。
俺は、無意識に葵葉をそっと抱き寄せた。
そして・・・・・・
そっと彼女の耳元で囁く。
「お帰り。葵葉。」
「ただいま。神耶君。」
俺の言葉に、少し照れくさそうにはにかみながら答えてくれる葵葉。
こんな日が、ずっと続けば良いのに・・・・・・
俺はふと、そんな事を願った。
――もしも、願いが叶うなら――
俺は、神として、まだ心臓に爆弾を抱えるこいつを・・・・・・
生きたいと願ったこいつを・・・・・・
大人になるその時まで、導いてやりたい。
こいつのこの笑顔を・・・・・・
一番近くで守ってやりたい・・・・・・
そんな事を思いながら、俺は無意識に葵葉を抱きしめる腕に力を篭めた。
―――生きろ。葵葉。
生きろ。―――




