不思議な来訪者
「神耶、起きなさい、神耶! いつまで寝ているつもりです、あなたは」
「るっせぇな。いつまでだって俺の勝手だろ。俺の眠りを邪魔すんな」
あの後、いつの間にか眠ってしまったらしい俺は、不機嫌な声でそう返す。
すると師匠は、急に俺の胸倉を掴んで、両の頬を左右に平手で殴り始めた。
「痛っ、いててて……何すんだよ!? 人が気持ち良く寝てりゃ、ビシバシ顔殴りやがって。ってか何であんた、まだここにいんだよ。早く京都へ帰れよ」
赤く腫れているだろう両頬を師匠から守るように手で抑えつつ、少し涙の浮かんだ目で俺は師匠に訴えた。そうして返って来た言葉は
「あなたを監視するためです!」
監視って……この人にとって俺は猛獣か何か?
「そんな事より、外をご覧なさい。お客様がおみえになっていますよ」
そう言って師匠は社の扉をゆっくりと開いた。
「客?」
だが、扉が開け放たれた先に人影などどこにも見えなくて
「何言ってんだよ。誰もいないじゃん。声だって別に聞こえて来ねぇし」
そう零しながら俺は、寝ていた体を起こして渋々師匠の元へと足を進める。
すると、低い位置にあった俺の視界では見えるはずもなくて、鳥居から社へと続く石畳の上に、人が倒れていたのだ。
「おい、何が客だよ。倒れてんじゃねぇか!」
俺は倒れている人間の元へ急いで駆け寄った。
「え? 眠っているのではないのですか?」
「アホか、あんた! んなわけないだろ! どこをどう見ればこれが寝てるように見えんだよ!」
俺は馬鹿な師匠を怒鳴りつけながら、倒れている人間を抱き上げる。と、あまりの軽さに驚いた。
よくよく見れば腕や足はごぼうのように細く、体も小さい。幼さの残る顔つきから中学生――いや、小学生にも見える少年だった。
どうしてこんな子供が、一人でこんな所に倒れているのか。考えだしたらキリがない程に疑問が湧いたが、とにかく今は何とかしなければ。
俺は急いで社へと運び込み、仰向きに寝かせた。
「ったく、何なんだよこのガキは。あんな所で倒れていやがって。俺は人間の看病の仕方なんて知らねぇぞ」
ぶつぶつ文句を言いながらも、息をしている事を確認したり、額に浮かぶ汗を拭いてやったりしていると
「そのわりにテキパキとこなしているように見えますが」
俺の溢した愚痴をクスクスと笑いながら師匠につっこまれる。
「う、うるせぇ、笑うな! そんな無駄口たたいてる暇があるならあんた水汲んできてくれよ!」
恥ずかしさに顔を真っ赤に染めながら、俺は師匠にそう怒鳴った。