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願いが叶うなら  作者: 汐野悠翔
夏物語
15/98

本当の願いは?

集中治療室へのドアを通り抜ける。

その先には沢山の機械に繋がれ眠る葵葉の姿と、葵葉を取り囲む数人の医師。

そして部屋のあちこちを慌ただしく動き回る看護師の姿も。

彼等の表情が、どれ程危険な状態かを物語っていた。


俺は、急いで葵葉の元へと近付き、葵葉の右の手を握る。

そしてゆっくりと目を閉じて、集中する。

葵葉の意識の中に自分の意識を潜り込ませる為に。



「集中しろ・・・集中・・・・・・。葵葉お前、今どこにいるんだ?薄暗い空間を一人でさ迷い歩いて、寂しくて泣いてるんだろ?」



そう葵葉に語りかけながら、そっと目を開いた。

目を開いた先にあるものは、真っ暗な闇。

暗闇の中、一人ポツンと俺は立っていた。

目が慣れてきた頃、よくよく目を凝らしてみると、一本の細く長い道が暗闇の中ぼんやりと続いている。

これは、あの世とこの世を繋ぐ道。

やはり葵葉は、あの世に向かってさ迷い歩いていたのだ。

俺は、急いで先を進める事にした。

もしこの道の果てにある川。人間が言う所の三途の川を渡ってしまったら・・・・・・取り返しのつかない事になる。




***




もうどれ程の時間、薄気味悪い空気が漂うこの居心地の悪い空間を、さ迷い歩いているだろうか?

暗く、左右に全く景色と言うものが存在しない虚無の空間。

唯一存在する細く長い道は、未だ終わりは見えず、どこまでも長く、長く伸び続ける。

何も目印がないだけに、今自分が、どれくらい進んでいるのか?葵葉との距離が縮まっているのか?

状況がまったく分からず、ただただ不安ばかりが押し寄せてくる。


だが、ここで立ち止まるわけにはいかない。

何が何でもあいつを連れ戻さなくては。

俺は不安を押し殺そうと、進む速度を上げた。



その甲斐あってか、進んだ先、前方に、ぼんやりとだが人の姿を見つけた気がした。

もしかして?



「葵葉っ!」


俺はその人影に思わず声を掛ける。

虚無の空間では、反響する事はなく、声を発してもそれが音となってちゃんと響いているのか?それさえも不安になるほどの静寂が広がっている。

前を歩く人影に、止まる気配はない。



聞こえなかったのだろうか?

それとも・・・人違い・・・・・・なのだろうか?


俺は更に足を早めて、前を歩く人物に接近する。




「葵葉っ!!」



もう一度大声で葵葉の名を呼びながら、必死にその人物に向かって腕を伸ばした。

その時・・・・・・




“ピチャン”と言う音が聞こえて・・・・・・

自分の足元に冷たい水を感じる。



「っ!」



その感触に、背中にぞくりと寒気を覚え、一瞬にして俺の全身に鳥肌が立った。

ここは・・・・・・三途の川?





「葵葉!行くな!それ以上進むな!!」



俺は慌てて伸ばした手の先にいた人物の腕を掴んで、強引に俺の方を向かせる。

振り向いたその人は、やはり葵葉で、俺の顔を見ると、少し驚いた顔をしていたが、どこかぼんやりとした目をしていた。



「・・・・・・神耶・・・君?どうしてここに?」


「お前を迎えに来た」


「迎え?・・・・・・でも、向こうで皆が私を呼んでるの。私・・・行かなきゃ」


「皆って?」


「私のおばあちゃんや・・・かほちゃん。雪ちゃん、それに亜美ちゃんも。ほらね?皆、私を呼んでるでしょ」



葵葉は、ぼんやりした目で、川の向こう岸を眺めながら言った。

だが、この薄暗い空間で、川の向こう岸など見えるはずはない。

もし本当に何かが見えているとしたら、それは葵葉自身が魅せている幻覚だ。



「俺も・・・・・・お前を呼んでる。だからこっちへ戻って来い!」



俺は、何とか葵葉に幻覚ではなく、現実世界のこちらを見て欲しくて、必死に訴えた。



「神耶君が?」



「そうだ!よく見ろ。あいつらは必死に来るなって叫んでるだろ?お前はまだ、そっちには行っちゃいけないんだ!」




「どうして?どうして行っちゃいけないの?私は・・・・・・皆の所に行きたいよ」


「・・・・・・」



葵葉の発した言葉に愕然とした。

生きる事を諦めている葵葉。

死ぬ事を受け入れている葵葉。

俺がどんなに頑張ったって、今の彼女をこの世に繋ぎ止める事は出来ない。

望まない人間の願いを叶える事は・・・・・・出来ないのだ。



--『葵葉を助けて。』

周囲の人間がどんなに願っても、本人の意思を無視してその願いを叶えることは出来ない。

葵葉を助ける為には、葵葉自身が生きたいと強く望まなければ・・・・・・


俺は焦った。



「・・・・・・あの言葉は嘘だったのかよ?友達が欲しい。俺に友達になってくれって。俺に言った言葉は嘘だったのか?」



「・・・・・・神耶・・・君・・・」


「お前は、俺を置いて二度と会えない所に行くつもりか??」


「・・・・・・だって・・・だって神耶君は・・・もう私にあってくれないって。嫌われちゃったんでしょ?私・・・・・・」


「違う!そうじゃない!!俺はただ、お前に元気になって欲しくて・・・。お前に治療に専念して欲しくて・・・・・・」


「嘘っ!」


「嘘じゃない!お前言ったよな?友達になって、いっぱいいっぱい思い出作りたいって」


「言ったよ。だからこそ、私には病院でのんびりしてる時間なんてなかったの。なのに・・・・・・」


「そうじゃない。そうじゃなくて・・・・・・友達が欲しい。思い出が作りたい。それが願いだとお前は言った。でもその願いは、この先の未来を望む事と同じだと思わないか?」


「・・・違う。私は未来なんて望んでない。だって私の心臓は、体の成長には堪えられないんでしょ?知ってるよ私。これが私に与えられた運命だって。だから、未来なんて望んでない!」


「自分には未来がない。それがわかっていて何故お前は友達を望んだ?お前のその願いが!行動が!お前の本心を物語ってると思わないか?」


「違う!!」


「違わない!お前は・・・・・・もっと欲張りになって良いんだ。

小さい頃から色々と制限されて、諦める癖がついたのかもしれない。けど・・・葵葉はもっと貪欲になって良いんだ。人の願いが、つまりはその欲が、人の生きる糧になるのだから。死ぬ事が、運命なんて自分で決めつけるな!もっともっと自らの手で、運命に荒がってみせろよ!」


「・・・・・・」


「約束・・・・・・したろ?夏祭りで、デートしようって。言い出しっぺのお前が、約束破るなよ。な?・・・・・・葵葉っ!!」


「・・・・・・」




神なんて言っても、俺には見守る事しか出来ないけど・・・・・・


出来る事なんて限られてるけど・・・・・・


本気で願いを叶えようと、足掻く人間の手助けなら俺にだって出来る。


それをそいつが本気で叶えたいと願うのであれば・・・・・・


俺は全力で応援する!!




「本気で願うなら叶えてやるっ!お前の願いは?!」


「私の・・・願い・・・は・・・・・・」





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