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願いが叶うなら  作者: 汐野悠翔
夏物語
13/98

助けてください

あの後、葵葉達がとうしたのか俺は知らない。

ただ言える事は、俺が社に戻った時に、奴らの姿はなかった。そして、一日あけた今日、奴が姿を現す事はなかった。ただ、それだけ。



「来ませんね葵葉さん。本当に良かったんですか?」


「・・・・・・あぁ。」



俺は、社で寝転がって天井をぼーっと見つめながら、師匠に空返事をする。



「ふぅ。これでまた、ぐうたらな生活に逆戻りですか。葵葉さんのおかげで少しはましになって来たかと思ったのですが・・・・・・」



師匠の小言を遠くに聞きながら、俺は反論するでもなくただただぼーっと天井を見つめ続けた。




その時、不意に頭の中に声が流れ込んで来た。


「っ!」


「?!どおしたんです?急に起き上がって。」


「今・・・・・・声が聞こえた。助けてって。毎朝聞こえて来てたあいつの・・・・・・葵葉の兄貴の声が」


「彼は、今日は来てないみたいですけど?」



---『神様…お願いします……あお…が…葵葉が……どうか……を助けて……ださい』


「ほら、また・・・・・・」



微かに聞こえてくるその声に、俺はいてもたってもいられず、立ち上がる。

そして、気づけば社を出て、走り出していた。



「神耶?貴方を信じてもいない人間の為に行くのですか?」



師匠の問い掛けも無視して、俺は夢中で走った。

走って走って・・・・・・

山を下りて、町に出た。町に降りたのは、何十年ぶりだろうか?

遠く離れた場所からいつも見ていたはずの景色も、近くで見ると勝手が違う。最後に町へ下りて来た何十年も昔とは、道も町並みも変わってしまっていて・・・・・・足が竦む。

俺は、そんなにも長い間、人間との関わりを経っていたのか?己の殻に閉じこもっていたのか?

神としての仕事をサボっていた時の長さを実感させられる。


数百年、見守って来たはずのこの町も、今となっては右も左も分からない見知らぬ土地へと変わり果てて、

どこへ向かえば良いのか分からない。

己への怒りに、拳で自身の膝を叩いた。



「くそっ!」



落ち着け・・・・・・落ち着つけ自分。

声の聞こえる所を目指せば良い。

葵葉の気を辿れば良いんだ。

人より何倍も敏感な五感を与えられた神である俺には、ヒントは沢山あるんだ。



--『神様・・・・・・お願・・・し・・・す・・・・・・』



「聴こえた!こっちだ」



俺は、町に溢れたあらゆる雑音を、焦りから生じる雑念の数々を振り払って、微かに聞こえる声に意識を集中させる。



やっとの思いで病院にたどり着くと、頭に響いていた声も今度ははっきりと聞こえて来た。

けれどその声は、どこか力なくて、まるで・・・泣いているようで・・・・・・俺は急いで声の主を探す。

声に導かれるまま辿り着いた先は、『集中治療室』とかかれた部屋の前だった。


部屋の前に置かれたソファーには、葵葉の親らしき中年の男性と女性。

それから、葵葉が兄と呼ぶあの男がうなだれた様子で座っていた。



「おい!葵葉はどうした?!」


「・・・・・・え?」



俺の声に、葵葉の兄貴が驚いた様で顔を上げる。

その頬には大粒の涙がつたう。


「・・・・・・何があった?」


「葵葉が昨日の夜、発作を起こして倒れて・・・・・・意識不明の状態で、ずっと集中治療室に入ってるんです。

お医者さんの話では、今日明日が峠だろうって。もしもの為に・・・覚悟しとけって・・・・・・」


「・・・・・・」


ヒックヒックとしゃくり上げる声で、状況を説明する。

奴の言葉に、俺はハンマーで頭を殴られたようなそんな衝撃に襲われた。



「どうして急に?昨日はあんなに元気だったのに・・・・・・」


「急にじゃないんです。ここ最近、葵葉の発作を起こす回数が増えて来てて、それなのにあいつ、毎日のように病院を抜け出して無茶してたから・・・・・・」



-『葵葉は、命削ってあんたに会いに来てるんだよ!』-



昨日、この男に言われた言葉を思い出す。

あの時は怒りにまかせて聞き流してしまったが



「そんなに・・・あいつの病気は深刻なのか?」


「葵葉は・・・生まれつき心臓が弱かったんです。何度も何度も手術を繰り返して、それでも完治する見込みは少ないって医者から言われていました。それどころか、あいつの心臓は、あいつの体の成長に堪えられるかすら怪しいって・・・・・・。十五の歳まで生きてこられたのは奇跡だって・・・・・・。」


「・・・・・・っ!」


「神様・・・お願いします。どうか妹を・・・・・・昨日の今日で、こんな事お願いするなんて、呆れられるかもしれないけど・・・・・・でもやっぱり俺に出来る事なんて、願う事くらいしかないんです。

自分勝手な事は重々承知しています。でも、どうか・・・どうか妹を・・・・・・助けて下さい。お願いします」


「・・・・・・」


「お願いしますっ!」



必死にそう頼む葵葉の兄の姿に、何て声をかけたら良いのか。

こんな所まで駆け付けておいて情けないが、神と言えど俺に出来る事は限られている。

神に許されている事は、見守る事。

そして、願いを叶える手助けをする事。ただそれだけ。

人の生死に直接手を出す事は許されていない。



今までだって、何度となくこんな経験をして来た。



――『お母さんの病気を治して』

――『子供が事故にあいました。どうか死なせないで』



どんなに強く願われても・・・・・・必ずしも助けられるとは限らなかった。

願いが強ければ強い程、叶えられなかった時の落胆は大きい。

それで何度人間達に恨まれて来たか。

幻滅させてしまったか・・・・・・。


俺だって助けたい!こんなに泣きついて、必死になって頼む人間の、力になりたい!

でも・・・・・・叶えられる保障はない。

期待を持たせておいて・・・結果落胆させてしまうくらいなら・・・・・・

最初から、期待なんて持たせなければ良い。

手を貸さなければ良いんだ。

最初から・・・人間になんて関わらなければ・・・・・・


それが俺の出した答え。

これが俺が人間との関わりを断った理由。




ここまで来ておいて、俺は恐怖から、その場を動けなくなる。




















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