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願いが叶うなら  作者: 汐野悠翔
夏物語
12/98

良き理解者

良かったんだ。これで。

これで・・・良かったんだ・・・・・・。

自分に言い聞かせるように、何度も何度も心の中で呟く。



その時、そんな俺の後ろをついて歩く師匠から声がかけられた。



「本当に良かったのですか?」



師匠の少し遠慮がちなその問い掛けに、やっと俺は後ろを振り返る。



「師匠。全部・・・・・・知ってたんだな」



見慣れた師匠の姿に、俺はぎこちなきく笑って見せる。



「何がです?」


「俺の気持ち。俺が、仕事に不真面目だった理由。全部・・・・・・全部あんたは気付いてくれてたんだな」


「まぁ、これでも貴方の師匠ですからね。それに、神耶だけじゃありません。私にも経験がありますから」


「師匠にも?」


「ええ。神なんて、人から崇拝されていても、所詮は人にとっては都合の良い道具でしかないんです。ある時は勝手に心の支えにされて。ある時は厄介事の言い訳にされる。またある時は祭事のネタにされたり。

でも、人間が私達の存在を思い出す時間ときなんていったいどれ程あるのか?

そんな事を考えると、私達の存在っていったい何なのかと、よく疑問に思うんです」



同じだ。

俺が抱いていた虚しさと・・・・・・


同じだ。




「それで師匠は・・・・・・・その疑問の答えは、見つかったのか?」


「いいえ。残念ながら、今だに見つかりません。」


「じゃあ、どうして今まで千年以上もの間、こんな仕事を続けてこられたんだ?」


「それは・・・・・・それでもやっぱりこの仕事が・・・・・・人間が・・・好きだから。ですかね」




そう言って、師匠は穏やかに微笑んだ。




「・・・・・・・」


「好きだから、十あるうち、九つの辛い事があったとしても、たった一つ、嬉しい事があれば、案外続けて来られるものなんです。」


「?」


「九つのつらい事よりも一つの嬉しい事が、それまでのつらかった事を全部吹き飛ばしてくれるんです。

あぁこの仕事も、存外悪い事ばかりじゃないって、そう思わせてくれるから。

それを繰り返していくうちに、その一つの嬉しい事に出会いたくて、九つの辛い事もぐっと我慢出来るようになるんです」




「・・・・・・よく分からない」


「きっと貴方にも、わかる日が来ますよ。自らの意思で神になる事を望んだあなたにならきっと、分かる日が来るはずはずです」


「・・・・・・やっぱり分からない」


「私は、葵葉さんがそれを、貴方に教えてくれると期待してるんですけど」


「葵葉が?」


「はい」


まるで師匠には未来が見えているかのように、自信ありげに頷く。

俺はと言えば、師匠の言葉の意味が分からず、ただただ困惑するばかり。



葵葉が教えてくれる?

いったい奴が何を教えてくれると言うのか?


俺は、あいつを残して来た社を遠目に見つめた。




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