二度目の指切り
「あっ、そうだ。ね、神耶君」
俺が物思いにふけっていると、突然葵葉が何かを思い出したように声をあげた。
「何だよ突然。耳元で大きな声出すな」
「ごめんごめん。あのね、おじいちゃんから聞いたんだけど、今度八幡神社で夏祭りがあるんでしょ?」
「祭?そう言えば、もうそんな季節か」
毎年、八月の第三日曜日には、八幡神社で夏祭りが行われる。
普段は人も寄り付かない寂れた神社だが、流石にこの祭の時ばかりは人で賑わう。
葵葉に言われて、今年もその時期が近付いていた事を、俺自身今初めて思い出した。
「あれ?夏祭りって、八幡神社の祭神・・・・・・つまりは神耶君の為のお祭りじゃないの?なんでそんな他人事みたいなの?」
「馬鹿言うな。祭ってのはな、人間どもがバカ騒ぎしたいが為に、奉納だなんだと理由をこじつけて、勝手に騒いでいるだけだ。俺からしたら迷惑以外の何物でもない!」
「またそんな事言って、本当に素直じゃないよね神耶君って。お祭りでたくさんの人が神社に集まって来て来るの、本当は嬉しいくせに。だって本当は神耶君、人間の事大好きだもんね」
「はぁ?何馬鹿な事言ってんだ!?」
「顔、赤くなってるよ?」
「なってねぇ!!」
「なってるもん。神耶君は嘘ついてもすぐ顔に出るんだから、嘘つくだけ無駄だよ。ホント、からかいがいあってて面白いな~」
「人間の分際が俺で遊ぶな!!」
「楽しみだな~夏祭り」
「だから、楽しみじゃねぇ!迷惑なだけだ!って・・・・・・人話を聞け!!」
「一緒にかき氷食べようね!たこ焼きも、りんご飴も!あ~金魚すくいもやりたいな~。それから
」
「待て待て待て!今なんつった?一緒にってなんだよ??!」
「え?だから、お祭りの日に一緒に出店を見て回ろうよって言う、デートのお誘いだよ」
「・・・・・・はぁ?!デート??!何馬鹿な事言ってんだ?!回りたきゃ勝手に一人で回れば良いだろ。一々俺を巻き込むな!っつか、なんだよデートって。ふざけるのも大概にしろよな」
「え~~?しようよお祭りデート。ねぇ~神耶君、しようよ、しようよ~!!」
俺の背中の上で子供のように足をバタつかせながら駄々をこねる。
暴れる彼女に俺が思わず手を放すと、ピョンと背中から飛び降りて、俺の手を強引に掴む。
「あ、お前!何勝手に?!」
抗う間もなく葵葉の小指が俺の小指に絡められて・・・・・・
「指切りげんまん。嘘ついたら針千本飲~ます。指切った!」
「あああああ~~~~~!!!!」
またあの恐ろしき呪いの儀式を強要させられて、俺は悲鳴を上げた。
これでもう逃げられない。
まさか二度も同じ呪いをかけられようとは。
言いようのない絶望感から、俺がげっそりと項垂れていると・・・・・・
「葵葉っ!」
遠くの方から、葵葉を呼ぶ声が聞こえてきた。
気づけば社のすぐ近くまで戻って来ていた俺達。
そんな俺達の前に、再び葵葉が兄と呼ぶあの男が立っていた。




