来訪者の呪い
あぁ、全くもって異世界からの来訪者などというものは呪いに蝕まれた存在でしかない。
初めは誰もがこう思う。異世界より来訪した自分は選ばれた存在なのだ、と。
巷であふれる物語に出てくるような英雄の如き力や異世界の知識で彼らは有象無象を蹂躙することを、特権階級というその安泰の地位にのさばるいけ好かない上位者に罪と罰を己が与えることを妄想する。
そしてすぐに気づくのだ。それが甘い毒であり呪いであると。そのような行いはどの世界であろうと自らにはなし得ぬことであると。
少し考えてみれば解る話なのだが、世界を渡るという現象が彼、彼女らを惑わしてしまうのだ。
例えば英雄の如き力、異世界人の何人かがチートと呼んでいる常人ならざる能力。
剣を振れば断てぬものなく、怪力無双にして魔導を行使すればそれはまるで燎原の火の如く燃え盛る、頂上たる力の持ち主たち。
だがその超常たるをもってしても彼らは悲惨な未来を生きることになる。
同じ世界の生まれですら出る杭は打たれるのだ。
ましてや異世界からの住人というだけで問答無用に差別され得る存在なのだ。
その彼らをよりも優秀であることを世界が、人が認めることはあり得ない。
幸い、私にはそのような能力はなかった、しかし異世界からの来訪者の中には世界を渡ったがために変節した能力を得てしまったものも確かにいる。
そしてその者たちは奴隷として使い潰されるか、さもなければ闘技場で見世物として死ぬまで晒し者にされる。
長く苦痛と憎悪と根塊に満ちた日々を送り、いつ自分が死ぬ日がくるのかと戦々恐々としながら日々を過ごすのだ。
最終的に行き着く先は同じである点がある意味では救いなのかもしれない。
それらとは別に自らを小説の主人公であると勘違いしたものもそういえばいた。
彼、彼女らは救いがたい愚かさを振りまくことになり、その結末は一様に暗澹としている。
あるものは言う「私は異世界から召喚されたものであり、神に選ばれたのだ」と。
だがしかし、これらは彼らが言うところの神そのものによって否定される。
曰く、世界と世界の壁は人が考えているよりも強固であること。
但し強固であるそれらも時間という流れに逆らえぬこと、それにより歪みが生じ稀にそれに吸い込まれるものがいること。
つまりは自然現象の一部であり、髪が介在する余地はないのだ、と。
神は更に続ける。
また魂にはそれぞれ大きさが決まっており、優れたる人物は世界を渡っても優れておりなによりその大きさは歪み程度ではくぐり抜けることが出来ぬこと。
つまり世界の扉をくぐるということは世界そのものから要らぬ存在であると言われるに等しい、と。
優れたるものはどのような世界でも優れている。
これが真理でありその歪みから現れた人間は等しくこの世から消えたとしても困ることのない、価値なき魂の申し子である、と。
その内容があまりに絶望に満ちた内容であったため、神よりこの答えを言い渡された来訪者は翌日首をくくっていた。発見者は宿の主人であったという。
このあまりに無慈悲な答えは来訪者にとって最初に教わる事柄であり、そして最初に絶望する壁である。
無論、信じぬ愚か者もいるのだがあるいはそのほうが幸せなのかもしれぬ。
あるものはいう「ここは私のしる小説の中の登場人物であり、私はその登場人物であり、主役である」と。
なるほど、これは証明することが難しい問題ではある。なにせ我々はその物語が如何なるものであるか知ることは出来ないのだから。
あるいは彼、彼女らが謙虚でありさえすればあるいはそうなり得たかもしれぬ。
だがしかし、多くの現実はそうなり得なかった。
彼らは選択を謝ったのだ。
あるものは身分制度というものを悪だと断罪し王侯貴族に不敬を渡らいた咎にて。
あるものはギルドが独占によって不当に利益を吸い上げているとして訴え、その報復によりどこかへ消えることになった。
恐らく彼、彼女らは決してその本質が悪であったのではないだろう、しかし結果としてそれは悪となってしまったのだ。
是正しようとした身分制度は一朝一夕に正せるものでも、またその意識改革がなされることもなかった。少数ではあるが理解者がいたことが彼らにとっての不幸であったかもしれぬ。100年の後であったならばもしかしたのかもしれない、彼らは土壌を育てることを怠り一足飛びに結果を求めてしまった。
あえて言うならばそれが悪であったのかもしれない。
ギルドを訴え出たものはより悲惨である。
貧民街に蔓延る疫病の特効薬、その製法を知るとし彼らはその知識を広く教えようとした。
彼らにとっての不幸はその製法が誤りであったこと、そしてギルドにその製法を教えず独断で救おうとしたことにあった。
ギルドは職人たちの互助組織である、実体がすでにそれとかけ離れるほど腐りきっていても、その建前は非常に重要なのだ。そう人をこの世から消し去ることになったとしても……。
ギルドは職人の利益を守るためとして、そして特効薬として貧民街の罪なき人々に毒をばら撒いたとして彼らを告発、その日のうちに裁判が行われ全会一致で有罪、死刑が確定してしまった。
何故彼らが謝ったのか、コレは簡単だ。実は製法は正しかったのだ、但し彼らが製法したそれは製法と異なる薬物が混ぜられていた。もしくは別物にすり替えられていたのだ。
彼らはギルドという組織を見誤ったのだ、ギルドはその利益を犯すものを許さない。
彼らは商人の集まりである。それはつまり王侯貴族ですらも集団として立ち会えば意思を曲げることになるほどの力を持つということだ。
まさしく悪魔の所業であろう、しかしその寿命ある悪魔を彼らは敵に回した。しかも過小評価した状態で。
人間の欲は深く、業に塗れているのだ。彼らにそれを教える誰かがいなかった、そのような人物との知己を得る努力を怠った。あえて罪を上げるとするならばそこがキモとなるだろう。
異世界の優れた知識はどうであろうか?
こちらもやはりうまくない。同じ世界の技術ですら土地や気候、風土毎に向き不向きなどがある。ましてや異世界などと言わんをや。
あるものは魔法のある世界の知識を広めようとした、しかしこれは失敗した。
ただ失敗しただけであればまだ救いがあったかもしれない、だがその知識を与えた人物がまずかった、あるいは彼にはその運がなかった。
つまるところ、彼は王に連なる血族に対してそれを伝えてしまったのだ。
成り立ちの違う術式、前提条件、根本となる法則すら当て嵌まらぬ知識を長い年月と金銭をかけた実践し研究した結果が「起こり得ぬ事象」として証明されてしまったのだ。
哀れな異世界からの来訪者は王族を騙した稀代の詐欺師として処刑されることになった。
その様は広場にて行われることになった、私もそれを目撃した一人でもある。
彼は最後まで泣き叫びながら「こんなはずではない!」と叫び続けていたが処刑人の手によって帰らぬ人となった。
あぁ来訪者の悲哀は闇の如しなるかな。
少なくともこの世界において来訪者とは呪われ人でしかないのだ。
世界に望まれず
歪みに飲み込まれ
かつての世界に帰ること能わず
新たなる世界で生きる決心をしようとも異物として排除される。
この世界の住人として慎ましく過ごそうとも、世の不満不正を正す激烈の人生を歩もうともこの世界を生きる限りその先は絶望に塗れ、希望の光が指すことはないのだ……。
我ら来訪者は世界に見捨てられた異物であり、孤児なのだ。
願わくば我がのちよりいでし来訪者に平穏なる日々が訪れんことを。
王歴112年 赤月 甲の夜
高山行蔵幸隆
処女作故拙いところがあるかとは思いますがどうかご容赦を。
異世界転移ものなどに登場するご都合主義に「そんなわけねえじゃん!」と感じていたことをキャラクターの独白を借りる形で表現してみました。




