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外伝 その2

再開するかどうかはみそしるということで

一隻の巡洋艦を旗艦に四隻の駆逐艦、五隻の輸送艦という典型的なナーサ帝国軍の輸送船団が宇宙空間を航行している。五隻のうち一隻にはドールが、残り四隻には弾薬や燃料が満載されている。

そのうちの一隻、三葉社モモイロペリカン級ドール輸送母艦の格納庫にエッグマンタイプのバトルドール・・・チャーク社71式「(ひらめき)」が腕と脚の間接部分の装甲を取り外した状態で格納されていた。

「ヴェツファートは暫くは使えないのか?」

黒ぶち眼鏡を着用したパイロットスーツの青年ウイング=ムシャ=ドラグーン少佐は整備士に尋ねる。

「前回の出撃で無理をさせすぎましたね。特に右腕の肩と肘の間接駆動部。これは全部新品交換しないと・・・」

「代用品でなんとかならないか?チャークのドールは部品の互換性が高いのだろ?」

「無茶いわんでください。最新の71式をフルチューンした特注品ですよ?部品を流用するにしても最低一日は時間をください」

整備士の言葉にウイングは大きく溜め息をつく。

「困ったな。こういうときに限って厄介な敵が襲ってくる・・・そんな気がするよ」

「だったら、空いてるドールのOS環境を少佐用にカスタマイズしてもらったらどうですか?もっとも空いてるのはヴァルキューレだけですが・・・」

「ヴァルか・・・」

「少佐だったらうまく乗りこなせますよ」

整備士の励まし?にウイングはニガ笑いで答えた。



「お時間はよろしくて?少佐」

休息室で機械による森林浴をしていたウイングに、ライトグリーンのロングヘアーの女性が声をかける。眠たそうなブルーの瞳が印象的である。

「やあクリスさん。OSのカスタマイズはお済みですか?」

「ええ。おかげさまで。で、お願いがあるのですが」

「ヴァルを傷つけるな・・・ですか?」

ウイングは機械専用のゴーグルを外し、置いていた眼鏡をかけながら、馬鹿にしたような口調でしゃべる。

「は?ヴァルは兵器です。外観の傷を恐れてどうするのですか」

クリスは訝しげにウイングを見る。

「失礼。過去にそういうことを言われたことがあったので・・・で、ご用件とは?」

「ヴァルはどんなに傷がついても構いません。出来るだけ多くの戦闘データを収集して欲しいのです」

「どういうことです?」

「ナイトタイプは、その威圧効果から戦場ではいまだ兵器というよりはお飾りの要素が強く、実戦データの収集がままなりません。でも、それではわたしのヴァルの優秀さが証明できないのです」

「わたしのヴァル?」

「失礼。ヴァルはわたしが設計したのです」

クリスの言葉にウイングは絶句する。

「やれやれ、技術者が同行しているということは、あのヴァルキリーはカスタム機か・・・でも、それだとボディに傷をつけたら拙いんじゃないのか?」

「納品直前に化粧しますから気にしないでください」

クリスはにっこり笑う。

「まあ・・・頑張ります」

ウイングはポリポリと頬を掻く。

「緊急警戒警報!所属不明のドール三機が急速接近中。第一級戦闘配置」

艦内放送が非常事態を告げる。

「やっぱり嫌な予感というのは当たるもんだな~」

ウイングは格納庫へと走りだす。



「戦況はどうなっている」

「初撃で旗艦のアロアナが沈黙しました。カーチス中佐とモーリス大尉の生存は確認されてますが・・・いま駆逐艦グリーングラスに張り付いてます」

「敵の構成は?」

「ナイト1ゴリラ2です」

ウイングは戦況を聞きながらドールに命を吹き込む。

「ハッチを開いてくれ。ウイング=ムシャ=ドラクーン。ヴァルキリー。出る」

女性のようなシャープなフォルムをしたナイトタイプのバトルドール・・・シュミット社MF-14Sfヴァルキューレ(通称ヴァル)はハッチ近くの壁にかかってる薙刀を掴むと、開いたハッチから宇宙空間に飛び出す。

「あれか・・・くそ!グリーングラスは轟沈したか!」

出撃前に得ていたグリーングラスの位置で、ひときわ大きな光球が発生したのを見てウイングは舌打ちする。

「これ以上・・・」

駆逐艦動力部にレイピアを突き立てようとした女性のようなシャープなフォルムをしたナイトタイプのバトルドール・・・シュミット社MF-15Sf3ギュソを見つけたウイングは、薙刀を振り回しながら突っ込む。

「させるか~」

「艦隊護衛のドールのおでましか!お手並み拝見させてもらおうか」

ウイングの言葉に呼応するようにギュソのパイロットが叫ぶ。バトルドールの超至近距離通信が、敵味方関係なく送受信ができるために起こる現象だ。

「ナーサ帝国ウイング=ムシャ=ドラクーン少佐見参!」

「バトラ共和国アルフリード=ベルフィス中尉お相手しよう!」

ウイングの振り下ろす薙刀に向かって、アルフはレイピアを持っていない手をかざす。

ガシッ

薙刀がギュソの腕に触れる瞬間に円形状の透明な楯が浮かび上がり、ヴァルの薙刀を受け流す。

「はあぁ~」

アルフは顔面めがけてレイピアを繰り出すが、ウイングは最小限の動きでこれを躱す。

「いつまで躱せるかな?」

アルフは立て続けにレイピアによる突きを放つ。

「ちいっ」

たまらずウイングは間合いをとる。

「死ねぇ~」

それまで顔面を狙っていたアルフは一転腹部に目標を変え、鋭い突きを放つ。

バキ

ウイングがレイピアの刃先に向かって手をかざし、触れた瞬間に楕円形の透明の楯が出現。レイピアは根元からへし折れる。

「油断したな!同系統のドールだ。同様の防具があってしかるべきだろう!」

ウイングは高らかに笑うと、薙刀を振り上げる。

「あ、アルフ中尉!」

鉞を持ったアイアンが真横からギュソを突き飛ばす。

「あ、アス!」

「こ、こいつ!あとちょっとってところを」

ウイングはすかさず薙刀の刃を切り返すと、逆袈裟切りにアスを切る。

「よ、よくもアスを!」

「アルフ中尉!時間です。撤収してください」

アルフに撤収を促す通信が割り込む。

「が、臥薪嘗胆の念!必ずやこの無念晴らしてみせん・・・撤収する」

アルフは唇の端を噛んで血を滲ませる。

「逃がすか!」

ウイングは追撃しようとするが、閃光に阻まれて断念せざるおえなかった。

「臥薪嘗胆の念だと?被害は我が軍の方が甚大なのだぞ!」

ウイングは叫んだが、遠吠えでしかなかった。しかしそれは本人が良く解っていた。

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