いまのところ外伝 その1
サイト閉鎖の連絡による引っ越しです
続きは・・・どうなるやら
「マザーグースよりアルフ中尉へ。予定発進ポイントに到着した」
「パパアルフよりマザーグース。呼びかけはコードネームで!」
「はは。すまないパパアルフ。お土産を期待します」
「送り届けごくろうさん。帰りもよろしく」
通信が途切れるのと同時に、全天候型スクリーンには満天の星が映しだされる。
アルフが天頂に視線をやると、そこにはホワイトペリカン級ドール輸送母艦が、嘴に似た大きな格納庫をゆっくりと閉じている所だった。
「パパアルフより、アルフパックへ、遅れるなよ」
「了解」
スクリーンに人の上半身が映った二個のウインドウが開く。
三つの閃光がゆっくりと移動を開始する。
「いるいる。情報通りだ」
数隻の戦闘艦が放つ熱核融合エンジン特有の閃光を確認したアルフは、パキパキと指を鳴らす。
「さてと・・・我がラ・シレーヌのデビューといくか!」
アルフは操縦を巡航から戦闘に切り替える。高機動パーツが強制分離され、女性のようなシャープなフォルムをしたナイトタイプのバトルドール・・・シュミット社MF-15Sf3ギュソが姿を現す。
「宇宙でみるギュソもまた格別ですな。隊長」
「派手にデビューといきましょう」
モニターの中の男女が声をかける。アルフが振り返ると、そこには首が埋もれた見事な逆三角形のフォルムをした二機のゴリラタイプのバトルドール・・・三葉社GF-144Aアイアンが右は巨大な鎌を、左は巨大な鉞を担いで待機していた。
その光景は、レディーナイトと付き従う下僕を連想させた。
「攻撃のタイミングを間違えるなよ」
「了解」
「了解です」
「それからなアス、モンティア。ラ・シレーヌをギュソっていうな~」
『り、了解』
ふたりがハモるように返事をしたのを見て、アルフはギュソの腰に装着されているレイピアを引き抜く。
「いくぞ~」
一気に巡洋艦との距離を詰める。巡洋艦の対空砲がギュソを包む。
「そんなヘナチョコがラ・シレーヌに効くか!」
アルフは巡洋艦のレーダー機関に取り付くと、レイピアを突き出す。同時にアス、モンティアは動力部にまわってそれぞれの得物を叩き込む。
「つぎぃ~」
アルフは巡洋艦を踏み台にして、近くの駆逐艦の甲板に跳びつくと、砲塔に対して垂直にレイピアを突き立てる。
ガコン
レイピアを柄の部分まで差し込むと、やや遅れて砲塔の下の甲板がへこむ。
「せ~の」
アルフはレイピアを引き抜き、砲塔を蹴る。
甲板下のへこみは更に大きくなり、やがて亀裂になる。亀裂のため駆逐艦は逆への字になり、亀裂からは光球が出現。そして間髪入れず爆発四散する。
「ははちょろいな」
アルフはレイピアを構えなおすと、手近にいる駆逐艦に張り付く。
「三つめ!」
「させるか~」
駆逐艦動力部にレイピアを突き立てようとしたアルフに、割り込みをかけてきた人間がいる。バトルドールの超至近距離通信が、敵味方関係なく送受信ができるために起こる現象だ。
「艦隊護衛のドールのおでましか!お手並み拝見させてもらおうか」
アルフは声のした方向にギュソを向ける。そこにはギュソによく似たデザインのナイトタイプのバトルドール・・・シュミット社MF-14Sfヴァルキューレ(通称ヴァル)が薙刀を振り回しながら突っ込んでくる。
「ナーサ帝国ウイング=ムシャ=ドラグーン少佐見参!」
「バトラ共和国アルフリード=ベルフィス中尉お相手しよう!」
ウイングの振り下ろす薙刀に向かって、アルフはレイピアを持っていない手をかざす。
ガシッ
薙刀がギュソの腕に触れる瞬間に円形状の透明な楯が浮かび上がり、ヴァルの薙刀を受け流す。
「はあぁ~」
アルフは顔面めがけてレイピアを繰り出すが、ウイングは最小限の動きでこれを躱す。
「いつまで躱せるかな?」
アルフは立て続けにレイピアによる突きを放つ。
「ちいっ」
たまらずウイングは間合いをとる。
「死ねぇ~」
それまで顔面を狙っていたアルフは一転腹部に目標を変え、鋭い突きを放つ。
バキ
ウイングがレイピアの刃先に向かって手をかざし、触れた瞬間に楕円形の透明の楯が出現。レイピアは根元からへし折れる。
「油断したな!同系統のドールだ。同様の防具があってしかるべきだろう!」
ウイングは高らかに笑うと、薙刀を振り上げる。
「あ、アルフ中尉!」
鉞を持ったアイアンが真横からギュソを突き飛ばす。
「あ、アス!」
「こ、こいつ!あとちょっとってところを」
ウイングはすかさず薙刀の刃を切り返すと、逆袈裟切りにアスを切る。
「よ、よくもアスを!」
「アルフ中尉!時間です。撤収してください」
モンティアがモニター内に大きく割って入る。
「が、臥薪嘗胆の念!必ずやこの無念晴らしてみせん・・・撤収する」
アルフは唇の端を噛んで血を滲ませる。
「逃がすか!」
ウイングは追撃しようとするが、閃光に阻まれて断念せざるおえなかった。
「臥薪嘗胆の念だと?被害は我が軍の方が甚大なのだぞ!」
ウイングは叫んだが、遠吠えでしかなかった。しかしそれは本人が良く解っていた。
「報告書は読ませてもらいました。ともにアスの冥福を祈りましょう」
亜麻色のロングヘアの女性。バトラ共和国の戦場を翔けるお嬢様ことケイ=アルテミス少将は、眠たそうなダークブルーの瞳を静かに閉じる。
「申し訳ありませんケイさまっ!わたしの責任です~」
暫し黙祷していたアルフだが、いきなり涙を流しながらケイの目の前で土下座する。
「立ちなさい・・・アルフリード=ベルフィス」
ケイはやさしく声をかける。しかし、彼女がフルネームで人の名前を呼ぶときは怒っているときだ。アルフはそのことをよく知っていた。
「わたしが何故怒っているか、見当がつかない。そういう顔をしていますね・・・」
「は、はい」
アルフは小さく頷く。
「人の死は、例えそれが人為的なものであっても、その人の命運が尽きた結果に過ぎません。あなたがアスの死に責任を感じるのは判りますが、いつまでもそれを恥じていてはアスが浮かばれません」
アルフはただ俯いたまま返事をしなかった。
ありがとうございます