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リア充もいいじゃん。  作者: 浅咲夏茶
第一章 プロローグ
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1-7 原稿用紙と自室が地下室の幼なじみ

 原稿用紙に書かれていた文章を呼んでいた時、俺は頭を抱えてため息を付いて後の言葉をもらした。頭の回転が止まりそうだ。こんな文章、読んでいられない。


「駄目だ……。俺には、無理だ……」

「ああ、私も限界だ……。この手のジャンルは私には無理だ」


 内容を言ってしまうとこのような内容だった。……というか、俺は見て三ページだけで、「あ、これ俺には読めないわ」と思ったため、そのまま原稿用紙を閉じた次第である。


 最初の一ページ目の内容は以降のとおりだ。


『俺はこの世を支配する男、暗黒影者だ。この世の全ては私が世界線を握っている。だから皆我に逆らうことは出来ぬ。平伏すが良い、この愚民どもめ!


 ……さてと。そろそろ我の召使を紹介しないとな。


 我の召使の名は「デスティニー」。我が暗黒影者なのに対し、奴は「運命の正義者」と名乗っている。とはいえ、主人である俺には頭が上がらぬようだ。


 この物語は、貴様ら愚民どもに、我々の生活を見てもらおうということで書いていた日記を小説化したものだ。「何故自分が富豪、もしくは勇者、世界線を発見することをしなかったのかなど、悔しく憎しいこと」を思い描き、泣き苦しむのだな』


 こんな内容だった。


 もしかしたら、後峠が書いた方ではないこの作品より、後峠の書いた作品のほうが面白そうだ」と思っている読者も居るかもしれないが、そこはご愛嬌、というわけである。


 まあ、俺は「厨二病」ではない……わけではないんだが、元厨二病だったので、若干ご峠から共感できる点も幾つかあるのは確かだ。


 例えば、この自意識過剰になってしまうところだとか、それこそ小説や、漫画、絵などありとあらゆるものを書くようになり、そして自分自身で満足している、そんなふうな状況になったりだとか、無理に英単語を使い「俺凄いだろ」と豪語してしまったりだとか、ネットの上の情報を鵜呑みにして、「全て正しい」と思ったりだとか。


 ――最後はないかもしれないか。でもまあ、俺が厨二病だった時にそれは起こったからな。まあ、あの時は詐欺にあって本当にびっくりしたよ。今でさえ思い出すたびに嫌になるほどの苦痛だ。


「よし、しまっておくことにしようか」

「そうしようか」

「……何をするんだ?」


 少し何もすることがなくなったので、志熊に聞いた。今思えば「ここ洋食店ですよね?」と思ってしまうくらい、本当に静かで、料理すら作られていない状況だったのだ。


「大富豪……とか?」

「ルールわからないから無理です」

「今時大富豪のルールすらわからないとか」


 志熊は、言葉の最後に憎たらしいほどの笑みを見せ、「笑い」と一言言い、話をやめた。……ったく、ふざけんな。俺は確かにリア充が憎いが、お前みたいなリア充に「笑い」なんて言われる筋合いはないっての。


「どう見ても素人です。本当にありがとうございました」

「それって某巨大掲示板ネタ?」

「イエス」

「中高生には受けないんじゃないかな?」

「読者層の都合上?」

「うむ。あ。今思ったんだけどさ」


 志熊が話題を変えようとして俺に問う。俺は「何?」と、返した。


「『都合』って言葉結構いいよね。色々使い道があって」

「例えば、ナイスボートとか?」

「……またアニメネタ? ま、ボートが水面を走っていて、「都合により」っていうテロップは付けられたけどさ……。それはないでしょう」

「……だな」


 その時だった。店に一本の電話が入った。その時は一応、新人ということで、俺が出ることになった。……普通は志熊が出るべきですよね、ここ。


「もしもし、こちら洋食の神上、担当の六宮と申します」

『貴様は、こいつ研究所会員ナンバー〇〇四。炎剣(フレイム・ソード・)召使(サーヴァント)だ。以後、我の召使いとして働いてもらう。今直ぐに、研究秘密本部へ来たまえ』

「……はいはい、厨二病はいいですから」

「……ふっ。これは厨二病などでは……」


 ピッ。


「言わせねーよ」と心の中で一言思い、電話を切った。そうして、「秘密基地」とはどこにあるのかを、志熊に聞いた。


「志熊。秘密基地はどこにあるんですか?」

「なぜ名前が丁寧に言われないのに言葉だけ敬語を使用するなんて……」

「べ、別にいいだろ!」

「ま、からかっただけなんだけど」


 俺は「え」と言葉を漏らしそうだったが、あえて漏らさぬようにした。……というか、からかいだけに俺が使われていたっていうのは……悲惨だな。


「秘密基地ってのは、この店の地下にあるよ。あと、隣の家は彼奴の家じゃないし」

「え?」

「あ……。彼奴の家はね、研究所なの。この地下で毎年、毎日、毎時間過ごしているわけさ。ま、この研究所は彼奴が『一人で』やってる妄想実験、妄想を現実で再現することとかをやっているだけで、私からしてみれば飯を作っていたほうがマシなんだけどさ。あと、そこは彼奴の部屋だからあんまり立ち入らないほうがいい」

「……俺、女性の口から『飯』なんて初めて聞きました」


 志熊は俺の言葉を聞いて口に手を置き軽く笑った。

「ごめん、口が滑ったわ。やっぱ接客業してると、なかなかこいうタメ口的なのとか、あまり使わないじゃん? これはあくまでストレス発散のためにやってるだけだから、ぜひうとも理解していただきたい所存でございます」

「て、丁寧にありがとう……」

「いえいえ」

「で、地下へ繋がる階段は一体どこに……」

「そこの棚の下だ」


 例えばゲームなどで地下へと繋がる階段が、「棚の下にある」というのはよく聞くが、本当にここはゲームと同じく棚の下なのか……?


 俺はいろいろな疑問や、ある一定の尊敬する気持ちを持ちながら志熊に聞いた。


「棚の下? 後峠が通った後が全くといっていいほどないんだが……」

「……言及不足か。『棚』というのは、それではない。貴様が今動かそうとしているそれは『箪笥』だ。あと、棚っていうのは、押入れの中の棚だ。少し小さな棚だ。それを動かすと見えてくるぞ」


 ちょっと、話が進みすぎているような気もするが、順を追って俺の言葉を交えていこう。


 ま、箪笥と棚とは何なのか、どこが違うのか、というのは一応わかっているはずだが、俺は間違えていたようだ。箪笥と棚を。


「押入れの奥にあるよね……?」

「これ……ですか?」


 俺は横に入れていく方の棚を見つけ、それを持って志熊に聞いた。


 というか、この場所は厨房の一角だ。こんなところにあったのか。何故気づかなかったのであろうか、という疑問も少し残った。でも、少しカモフラージュできる物はある。冷蔵庫だとか、おぼんが置かれている棚だとかだ。


 話を戻す。俺は「この棚で合っているか」と志熊に聞き、答えを求めた。志熊は、「うん」とは言わず、自分の首を上下に振ることでそれを知らせた。


 それを見ると、俺は棚を右においた。すると、置かれていた場所の下には、正方形型の木の板が覆っていた。


「これを……どうやって?」

「私に聞くな。普通に開けれるわい」

「え?」


 俺は、木の板を持ち上げた。


「(……軽いぞ? というか持ち上がっているしなぁ……)」


 どうやら、この板は簡単に持ち上げられるようだ。「秘密基地ならもっと厳重な警備を若けよ」という風になるのだが、そうも行かないのだ。というか、ただの地下室じゃん。


「……さてと、だ」

「後峠? どうした」

「……ふっ。我の名は『後峠』などではない。我の名は『超波炎師』だ。以後『(サイキック)』とでも呼ぶが良い」

「駄目だこいつ……もう、手遅れだ。話しについていけぬ……」


 俺は後峠、いや超の話についていけなかった。勝手に「超と言え」等と言われても、どうしようもできないだろう。なにせ今知らされたばかりなのだから。頑張れば大丈夫なのかもしれないが、実際そういうわけではないだろう。もう、なんというか、こう、「痛い」のだ。そう、痛い。


 ちなみに今言っているのは、例えば、自分の自動車、自転車、部屋、さらには自分の家までもアニメキャラづくしにする者まで……。「他人から見れば引かれるのに、自分はウハウハしていたり」だとか、そういうことだ。そういう意味の「痛い」だ。


 俺が何について「痛いなぁ」と感じているかというと、後峠の厨二病的な言動だ。その『超波炎師』だとかがそれに当てはまる。


「そうかそうか。我の言葉の意味も理解できぬなど、ただの人間ではないか!」

「『ただの人間には興味ありません!』ってか」

「ふっ。その作品はこの『ライトノベルコーナー』の棚に保管してある」


 後峠は、胸で腕を組み、「どや」という言葉そのものが伝わってくるような表情を見せた。そうして、その顔で、笑顔を作ろうとするが、これがなかなか出来ない。いや、出来ないわけではない。違う、気持ち悪い笑顔になっているのだ。


 つまり、女性が喜ぶような笑顔ではないというわけだ。……何言ってんだろう、俺。男なのに。


 俺はため息を付いて、後峠が腕を組んだ場所の右側の棚を見た。棚の上にはしっかりと『ライトノベルゾーン』と記されており、すぐに分かるようになっていた。そこには、様々な出版会社から出版されているライトノベルが陳列されていた。……が、ここで俺はふとあることに気付いた。


「一般文学はないのか? ライトノベルだけなのか?」


 踏んではいけなかったんだろうか。なんだか、先程まで堂々とした厨二病らしい態度をとっていた後峠が一気にブルブル震えだしている。


「……そんな宇宙のゴミにも満たぬものは置かれていないわ、ハハハ……」


 こいつ今、全世界の読書家達をバカにしたな、可哀想に。というか、やはりこいつ典型的なバカだろ。確かに一般文芸作品にもライトノベルらしい作品もあるし、ライトノベルの中にも、挿絵なしで一般文学作品になったものだってある。


 だから、どっちも読めばいいのだ。


「読書の自由が侵される時、我々は団結して、あくまでも自由を守る」


 俺は少しネタを混ぜて言った。まあ、俺が何を思ったのかが伝わるような漢字ではあると思うが。


「図書○戦争ですか?」

「少し違うな。タイトルを付けるんであれば、『読書戦争』とかかな?」

「……」


 静まり返る。というかさっきから志熊の声が聴こえないんだが……。


 俺は志熊の方を見た。志熊はうとうとしていた。うとうとしてふらつきながら歩くと、所々で頭を壁にぶつけ目を覚まして……そんなことの繰り返しをしていた。確かに後峠のヲタ系、ネットスラングを使う所、厨二病……そこら辺のネタは尽きたようだからな。というか、厨二病ネタは寒いし、笑えないのだから当然か。


 と、その時俺はふと自分の後ろの方を向いた。……先に言っておくが、俺は仕込んだわけではない。俺は仕込んだわけではない。……大事なことなので二回言いました。


「こ、これは……」


 大量の光を発するそれは、大きな音も出した。その音、いや声はこういうものであった。


『後峠君、大好き――――』


 ただの恋愛ゲームじゃん、これ。


「(なんで秘密基地でこんなのやってんだよ。自室でやれ。……あ、後峠の自室はここか)」


 大事なことを忘れていた。そうだ。少し前に志熊が言っていた。「地下の秘密基地は後峠の自室である」と。――とはいえ、地下室という空間で恋愛ゲームとは、これいかに。


「これ、恋愛ゲームですよね……?」

「な、なぜそれを!」

「いや、普通にスピーカーから出ているんですが……」

「し、しまった!」


 後峠は頭を抱える。「いやお前、ヘッドホンしろよ」と心の中で思いながら、俺は苦笑いした。


「き、貴様笑うな!」


 慌ててしまった後、後峠は人差し指を俺に突き刺しそう言った。


 なおも、恋愛ゲーム内のキャラクターの声がスピーカー出ている。俺はそれを見たが、どうやら後峠の攻略しているキャラは金髪巨乳の眼鏡をかけた女の子だった。……俺は一回もプレイしていないからどんなストーリーなのかは分からんが、今度やらせてもらうことにしよう。……今の嘘だわ。


 俺もヲタクになってたまるかってんだ! 中学校時代のあの記憶が蘇るからな……。


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