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リア充もいいじゃん。  作者: 浅咲夏茶
第七章 エピローグ
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7-9 エプロン

 少し寝たのだろう。日も落ちて、暗くなっている。時刻は夜一一時五〇分か。帰ってきたのが六時過ぎだからな……約六時間寝たわけか……ふわわわわ……。


 また眠気が俺を襲ってくる。時計の光だけでは物足りなくなったので、俺は部屋の電気を付けることにした。が、移動しようとする時ある事に気がついた。俺の前を人影が通ったのだ。ホラーである。そう、ホラーだ。


 けれど、今使える光といえば携帯電話の光か、時計の光程度しかない。暗闇で自由自在に動けるコウモリが羨ましく思ったのは今日が初めてだった。なんで今俺はこんな状況下に置かれているのか、理解しがたかった。


「――ねぇ、六宮英人」


 ビクッ。俺の身体は、その声で震えた。何故だろう。妙に吐息が近づいてくる。暗闇の中だ。嘸かし俺の理性も壊れていこうとしている。――ここで押さえつけなければ。


「電気、つけてあげようか? それとも……キミに抱きついてあげようか?」


 俺はつけてほしかった。とはいえ、こういう状況下であると何気にそっち方向に想像を膨らますのが我々男共である。だから俺は自分の本当の心情を抑えて、俺が特をしない(得するかもしれないけれど)の方を選択した。


「……抱きついて貰えれば嬉しいんだけど……。やっぱり無理だよね。あはは……」

「ぎゅ、だよ『ろくのん』―――」


 また俺の身体は震えを示した。俺が意図的にしているものではないのは、俺自身が感じていたのだから、意図的ではないのは確かだった。が、その今の『ろくのん』というその台詞すら、俺からしてみれば何処か懐かしい感じがしていたのである。


「――六宮英人。いや、ろくのん。キミは、第一世界線で大変な罪を犯した。数多くの女性を相手に身体の関係を持ち、妊娠させ……つまり、孕ませたのも数多い。キミはそんなことを第一世界線でやった。だからボクはキミを殺しに来た」

「いきなり殺しに来たって言われても困るだけなんだが……俺やっぱ何か犯したのか?」

「ああ。それはそれは最低なことを。下種だよ、下種。それこそがキミのタイムマシンを作ったという奇蹟。そう、君の奇蹟だ。けれど、それでキミは豹変した。元のキミとは違う、誰なのかすらわかりづらい人間になったんだ。タイムマシンで」


 俺は思わず息を呑んだ。悲惨な結末を第一世界線では迎えたのだという。なんだかんだ、旧厨二病の俺から言わせてもらえば、『第一世界線』とかいう単語はまだ厨二ではないだろう。……仮に厨二だとして、俺がもうそれ程度で反応しなくなったのかもしれない。


「――タイムマシンをキミはもう使ってはいけない。それはボクも同じ」

「俺の作りだしたそのタイムマシンは、そんな大変な事件などを作ってしまったのか?」

「違う。けれど、それを『作った』せいでキミは豹変した。ただそれだけさ。だけれどボクはキミを殺しはしないよ。そんなことで」


 須戸は耳元でそう囁いたんだ。嘘なんかじゃないだろう。それは言われたというのは紛れもない事実だ。とはいえ、何故今「殺す」と言っておいて「殺さない」と、正反対のことを述べたのだろうか。そこが俺は気になった。それこそ何処かの女キャラみたいに、「私、気になります!」など言うわけにもいかない。


 いや、言った所でどうなるんだ。俺がパロネタを使って楽しんでいるだけじゃないか。まあ、パロネタには愛がないとね。


「……キミはね、第一世界線ではさっきボクが言ったように本当に酷いことをした。だからボクはキミを殺そうと思った。けれど、第二世界線のキミは第一世界線のキミとは全く違った。だって、人のために行動していたんだからね。タイムマシンは人のために行動している、中に入るのかはわからないけれど、少なくとも第二世界線のキミなら大丈夫だと思う。だからさ、ボクはキミに伝えるよ。『キミを殺しはしない』って」


 その時、須戸の瞳から涙が流れたのが分かった。俺の肩に付いた。服を着ているので、あんまり感じないのが普通なわけだが、今は真っ暗であり、なおかつ須戸自身も鼻水をすすっている。だから余計にそう感じさせたのかもしれない。


「今だけは……キミの温もりに浸りたい」


 何か緊張していた。あんまり最近女性と会話してない。……嘘つけ。俺今日、洋食店の店主さんと会話しただろうに。それに今だって……。俺は恵まれている方だろうに。


「一つ、言わせてもらっていいかな?」


 俺の耳元で、須戸は吐息を吐いた。それは即座に俺の耳元にあたって、また俺の耳が震えだした。なんだかいい臭いがする。いやいや、こいつは見ず知らずの少女……。いや、人間という位置にしておくか。それでも須戸は一応それなりの年齢を重ねているだろうし「怪物」という新ジャンルを作ってもいいのではないだろうか。


「……ボクはキミが大好きでした。泣きたかったんだ。許してほしい」


 いやいや、突然「大好き」って言われて困ってしまうのが常識ってもんじゃないのか。

ふとそんなことを思いながら、俺の身体に抱きつく須戸を見る。


「大好きとか言われても困るんだが……」

「彼女とか、いたり……するのかな?」


 俺は彼女など普通にいないので「それはない」と冷静に答える。やはり、こういう理性崩壊を仕掛けて来られる時は、やっぱり冷静に鳴るのが一番だと俺は思う。


「あのさ、六宮英人。時計、見てみな?」


 俺は、そんな恐怖だとかの概念など持たずに、時計のほうを見た。緑色の光を放つその時計の数字は、〇時一分を表している。そう、現在時刻は〇時一分だ。


「今は〇時一分じゃないのか? それ以外に何かキーワードがあるとでも言うのか」


「はぁ……。キミは、タイムマシン内でダッシュで走った後にやったゲームの時の解読時みたいに、少しはぱっと分かるようになろうぜ」

「……どういうことだ?」

「……はぁ。日付の表示見てみなよ。今日は何日だい?」


 今日は四月一日。そう、エイプリルフールだ。色んなエロゲのサイトや、動画サイト、果ては某大手検索サイトまでエイプリルフールネタをいれこんでくる日だ。まさか、月に入ってすぐのエイプリルフールに通信料が大変な量とられるなんて。


「四月一日。今日はエイプリルフール。事実は嘘に、嘘は事実になる日だ」

「ということはお前まさか……」

「そう。でも、キミがどちらを信じるかは、キミ次第だよ。六宮英人」


 その瞬間、俺はその須戸に押し倒された。といっても、起き上がって会話していたわけでもないし、実際には、俺の上に須戸が乗った、ただそれだけだ。だが、この状況はまずい気がする。普通に互いの吐息が絡まり合っている……。これが春だったからいいものの夏にこんなことされたら……。絶対汗かくだろう。


「でもさ……。私はあんまり大胆に行くような女じゃないから、別にいいよ。何を言っても、何をしても。キミのベッドの中にいる限り。だから……」


 その時だった。俺の目に眩しい光が当たった。眩しい。それだけで眠気は剥がれ落ちるように、溶け落ちるように消えていった。一気に覚醒状態になった俺だが、光によって須戸の姿もあらわになる。俺が上を見上げると、どう見ても過激な衣装を着た女の子がそこには居た。生まれたての姿に、下着無しでエプロンを着ているようにも思える。そう、通称『裸エプロン』である。これ以上の言及はしたくないのでここで止めておこう。


「兄貴……その女の子、誰?」


 妹はヤンデレでないからまだマシだが、ヤンデレ妹だった場合、どうするんだ、俺は一体。けれどまあ、ヤンデレなんて法的に、現実でやっちゃいけないはずだ。というか、嫉妬して人殺すとか、そういうグロテスクなものはダメだろう。考えるだけで寒気がする。


「……何か起きたら此処にいて。……須戸っていうらしいよ」

「え、えと……須戸です。何かその……お久しぶりっていうか……」


 妹は首を傾げる。それもそうか。妹は何も知らないしな。それこそ突然「第一世界線」だとか、「第二世界線」だとか言われても、「は?」って大部分の人は言うだろう。そりゃあ、タイムマシンがない世界じゃそういうだろう。ある世界でもそうなのかもしれないけれど。でも、面白みがあったほうがいいとは俺も思う。


 うんうんと頷いている後ろで、俺の妹と須戸がはしゃいでいた。


「この胸で兄貴を誘惑したんですか? ……そういうのはこーです!」

「ちょ……ひゃ、ひゃぅん……っ! んんっ! んあっ!」


 ヤバイ。これ、性欲真っ盛りの男子中学生に見せたら大変なことになるだろう……。てか、何揉みしだいてんだ俺の妹は。なにしてるんだ美玲……。

だけれど、こんな日常があるのも楽しい。暗いだけじゃ良くない、それは俺がよく分かっているんじゃないのかな、と思ってみていたりする。人間、暗い人より明るい人のほうが好かれるだろう。


 格好良いとか外見は別として、態度面で見れば明るい人のほうが接したくなる。たとえブサイクでも優しいほうがいい。隣で人の胸を揉みしだく俺の実の妹と、裸エプロンで俺を誘惑していた須戸が責めと受けの関係を創り出している。これは素晴らしい光景だ。キマシタワーが絶賛建設中だ。馬鹿馬鹿しいが。でも面白いほうがいい。


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