7-7 来客
「ここでいいのかね、洋食店は」
お爺さんが、洋食店のドアを開けた。それと同時に、ドアについていた風鈴のカランコロンという音色が響いて、玲香と後峠は「いらっしゃいませー」と言い放った。
「はい。現在、それといって混雑もしておりませんので、お好きな席におすわりいただければ……。バッグ持ちましょうか?」
「助かるねぇ……。わしは腰が良くないんじゃ。……若い人はいいのう」
「……そうですかねぇ。若いってのも辛いと思うんですけどねぇ」
「そうかねぇ」
そうして、俺の初めての職場での仕事は幕を開けた。お爺さんとの会話が終わって、厨房に戻ると、玲香は俺の背中をぽんぽんと、二回叩いて「すげえな」って褒めてくれた。なんだか嬉しかった。
普通なら「そう……」で済ますところが、今は素直になっていたのだ。何故なのか。もしかして、俺は玲香さんにトキメイていたり――ないか。
それから、おじいちゃんおばあちゃん、果ては小学生までこの店を訪れた。「洋食店」という名目上だが、何気に料理が安いため学生にも人気があるのだろう。コーラ五〇〇ミリリットルが九〇円で提供されているのは凄いと思ったし、水が〇円で飲めるのも魅力的だと思った。本当に、この洋食店は素晴らしい設備があるんだな、とそう気付かされた。
そして、夕方六時。春の夕暮れは夏より早い。もう少しで日も落ちそうだ。明日からは四月だ。昔徹夜した経験がある。「年度末だ、皆で盛り上がろうぜ」だとか、懐かしいな。
「じゃあ、明日は一一時からだから、忘れないでね? くれぐれも今日みたいな時間には来ないでね。せめて三〇分前には来て準備しててね?」
俺は「はい」とコクリと頷き、手を振る後峠と玲香を見ながら俺も手を振り、大体洋食店から三〇〇メートルほどのところの十字路で手を振るのをやめた。ここから俺の家までは結構近いからな。もう一〇〇メートル切ったといっても過言ではないだろう。それほどこの場所から距離的には近いわけである。
「あ! 木材……」
ふと俺は目を下ろす。木材があった。手は加えられていない。一枚の板だ。これがこれからドアとして俺の手によってあんなことやこんなことをされて変わっていくのである。
でも、木材を人だとして、木材をノコギリ出来るってことを考えると相当グロテスクな映像が浮かび上がる。止めておこう、身のためだ。ああ、身のためだ。




