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リア充もいいじゃん。  作者: 浅咲夏茶
第七章 エピローグ
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7-5 洋食店

 一一時を過ぎる少し前。洋食店の神上に到着した。店長不在でシャッターは降りていたが、俺が店で食べるということを聞いて、その女性は一目散にシャッターをあげ、俺が咳に座っていた時にはもう、厨房で料理を作っていた。


「あの……料理って注文しないんですか?」

「そっちでもよかったんですが、やっぱりおもてなしですので、私の方から……」

「あ、ああ、そうでしたか。では、そのままお願いします」


 一応カウンター席を取ったわけだが、なんだかこういう風景を見ていると何処かの居酒屋に見えるのは何故だろうか。行ったこと無いくせに、誘われたこそ無いくせにいう俺ってどうかしている気がする。


「オムライス、いっちょ上がり!」

「おお!」

「えぇと、ちょっと恥ずかしいんですが、お釣りをもらうお礼に何か私がケチャップで書いてあげますね。なんでもいいですよ」


 なんだこのどこぞのメイド喫茶ならぬメイド洋食店は、なんていいそうになるが、実際そういう要素は皆無だ。あるとしても今。といっても、女性はメイドじゃないしね。


「……じゃあ、今日の日付とか……」

「えぇ、つまんないでしょう。じゃあ、ここはメイド喫茶っぽく……」


 やっぱりこの女性はメイド喫茶を意識していたらしい。何となく俺も予想していたが、こうも当たるとむしろビビる。本当にビビる。


「貴方のお名前は?」


 俺は思わず「ちょ……」と声をこぼす。いや、本当にこの展開はまずい。まずいぞ。味の方じゃないが、本当に「ヤバイ」。いや、何か俺の目の前に天国が広がっているんだよ、うん。本当に。ここで死んでもいいのかな、なんて俺は思えなくなりそうだった。色々あったからね。何かもう、本当に俺の眼の前に広がる原風景が素晴らしく思える。


「……六宮英人です」


 ああ、言っちゃいましたね俺。なにしてるんだろう。これもし彼女がいるときにされたら確実に俺バッドエンドルート入ってただろうな。俺の仮の彼女かこの女性のどちらかの腹が引き裂かれるのも時間の問題なのかもな。何想像してるんだ俺。おかしくなったな。


「じゃあ、『ろくのん』でいいよね!」

「いや、ちょ……」


 問答無用。女性は手に持ったケチャップを匠のように繊細な技術を生かし、華麗に美しく丁寧に文字をケチャップで刻んでいった。


 そして、黄色いオムライスの卵の部分の上に紅いケチャップで文字が刻まれた。その女性は、刻み終えると俺の方を照れるように見て、笑顔を見せた。


「ろくのん、えへへ」


 もう何か近くに虹が見える気がする。円環の理に導かれたわけではないだろうけど、もしこの状況が仮に円環の理に導かれた状況なのだとしたら、行き着く先は天国か。


「ろくのんぎゅー」


 初対面だろ、おい! いや、もう会って結構時間は経ってるけどこの女性一体何なんだ……。俺も男だ。しかも幼馴染でも弟でもない、一般人の、ついさっきであったばかりの男だ。なのになぜこの女性は俺に対してこんなにまで……。いや、まさかそういう手の部類か? ヤリマンとかビッチとかの禁止用語が脳裏に浮かんでいく。


 俺が頭を抱えていると、厨房の方から若い男の人が俺の方に向かってきた。いや、この女性の方に向かっているのか? というか、今出てきた男の人って何時からいたんだよ。いや、さっき厨房から――ってさっきまで厨房には女性しか居なかったような気がするんだが。


「おい志熊。何やってる。俺にも飯」

「はいはい」


 俺はまた首を傾げる。いや、商売なのだからもう少し私的なことは抑えようぜ、なんて言いたいところだが、この男もしや客……? でもどこから……。


「ああ、君は客かね? それとも彼氏かね?」

「いやいや、彼氏なんかじゃないですよ」

「だけど……。そこの店主といちゃラブしているようにしか見えないんだが」

「……あ」


 その男の言葉に俺は硬直した。冷や汗があふれる。そして照れ出す。だが、それを見て俺のすぐ側にいたこの店の店主の女性は俺の胸の上の方に手を回し、抱きついてきた。


「あったかぁい。てか、後峠あんた嫉妬してるん?」

「し、嫉妬なんかしてるわけ無いじゃないか。あは、あははは……」


 隠しきれてないぞ後峠。可哀想に。……いや待て。『後峠』? 何処かで聞いたような名前だが、何処で聞いたか詳しい事は俺の脳内のハードディスクには刻まれていなかった。


「じゃ、オムライスを食べさせてあげるね。ここはギャルゲぽくいくよ?

 ①定番「あ~ん」で食べさせてもらう。

 ②ちょっと刺激的に口移しで食べさせてもらう。

 ③ふぅふぅして貰って①か②のどちらかをしてもらう。

 さあ、どれ? ④とか作らないでね? これ一応ルート分岐だからね? バッドエンドはないにしても、デッドエンドルートはあるんだからね?」


 玲香はそう言って変な方向へ走らないように釘を刺す。

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