7-1 妹の破壊力
目を覚ました時、俺は自室にいた。カレンダーはまだ三月の終わり。つまり今日は三月三一日だ。時計を見ると時刻は七時を回っている。「急がないと!」なんて言っていた学生時代を思い浮かばせながら、俺は馬鹿馬鹿しいものを見るような目でその昔の俺の姿を笑っていた。
「兄貴! 早く起きなさい! さもないとこのドアを蹴ってやる!」
「やめろ、又修理するようなことすんな。俺が大変な仕事に負わされる。二三にもなって妹に刃向かえないなんて俺のプライドが持た……」
「問答無用! おらあああッ!」
「……ひでえ」
結局、俺の部屋のドアは壊された。なんてこった。これでもう、修理は今年に入って七回目だぞ……。叱ってやるのが兄の仕事なんだろうが、もうこんな妹に関しては俺も正直呆れたものだ。だから俺は今日も妹の行動に頭を抱える。
「ほらパンやっから」
「あ、ありが……って熱いんじゃボケ!」
「か弱い妹に向かって『ボケ』なんて……!」
何時も妹はこんな調子だ。本当にテンションが高い。ウザくてテンションが高い時と、ウザくないけどちょっかいばかり出してきてかつ、テンションが高い、そういう日の大まかに二つに分けることが出来る。それが俺の妹、六宮美玲である。
「あ、今日は私バイトが朝からあるんで」
「はいはい。明日からお前は社会人か……」
「そうですよー。だから何か?」
「俺もそろそろ職を探さないとなぁ……なんて思っててさ。何かいい仕事とかある?」
「自分で探せば? てか、兄貴はニートが一番いい仕事でしょ」
その発言はウザイに尽きる。最低すぎだろ、俺の妹。可愛いところなんかこれっぽちもない。そうさ、だから俺は妹属性が芽生えない。てか、二次元の妹と三次元の妹は本当に変わっている。ウザくないのが二次元(ウザくてもツンデレの『ツン』の部分)で、ウザイのが三次元。リアルの妹だ。
「ニートか。頑張ってみるよ。じゃ、行ってこいよ! 俺は一人で職探すから」
「大学行くべきじゃなかったんじゃないの、兄貴。んじゃまた夕方―。日夜までさいなら」
そういうと、ダダダと俺の家の中の階段を駆け下りて、美玲は友だちと遊びに出かけていった。それを確認した後、俺は部屋から出た。両親が生きているか確認するためだ。もしいないのであれば、これは一人で直すしか無い。
部屋から出ようとした時、床に手紙が落ちていた。
『兄貴へ。親二人いないけど、今日は一人孤独に職を探してね! テヘペロ』
リアルに、大真面目にこの瞬間俺は妹がウザイと感じた。今まで以上にウザイ、そう感じたのだ。それこそ、「2ちゃんねる」のノリみたく、「本当にありがとうございました」とつけてやれば、素晴らしい文章が出来るんじゃないか、なんて俺は脳内で考える。
まあ、両親がいないならっこのドアは一人で直さなきゃいけない。が、それでも金はいる。適当にポケットのあたりを触っていると、見つけた。金、要するにマネーだ。
実際は財布なわけだが、俺は中を見て衝撃の事実を知ることになった。金が無い。三〇〇円程度しかないのだ。生憎、今俺はスマホもPCも壊れているため、ネットに接続出来る機器がない。ハードがないのだから、どうにもならない。
「――ホームセンター行くか」
そう思い立って、俺はホームセンターへ足を進める。




