6-8 張本人との出会い
思わず俺は口に出してしまった。こらえようとしたが、動揺はそう簡単に抑えきれなかった。それこそ「ヤバイと思ったが性欲を抑えきれなかった」とかいうように、それが変化して「ヤバイと思ったが動揺が抑えきれなかった」みたいなことに成りかねない。
「分かったのかな。ボクはキミに未来からメールを送っていた張本人だよ」
予想的中。やっぱり俺の推理は当たっていた。「真実は何時も一つ!」なんてぼざくわけではないけれど、推理は必ず当たるようになりたいというのは一つ夢としてありだな。
「六宮英人。タイマーを止めて欲しいのか?」
「ああ。止めてやってくれ。そして、また玲香の笑顔、美玲の笑顔、後峠の笑顔、そしてお前の笑顔を戻してやってくれ! 頼む! 科学者なんだろう! なあ、須戸!」
俺は必死に須戸に自分の思いを吐く。まるで赤ちゃんみたいに甘えているようだった。けれど、それは例え。俺が本当に思うのはそういうことではない。俺が本当に思っているのは、『皆元通りにしたい』ということだ。
「その気持ちはわかるけど、現代科学じゃ無理難題。キミがもう少しタイムマシンを精密に作るべきだったんだ。人のせいにして悪いけれど」
「でも、不可能では無いん……だよな?」
須戸は少し間をおいて「うん」とつぶやく。そしてコクンと自分の頭を上下させた。
「じゃあ、その僅かな割合の希望に俺はすべてを託す。俺には何も出来やしない。だから、少しくらい希望を持っても、いいだろ? なぁ、須戸」
「本当に、実行していいのか? 出来る技術は最大限に用いてその人のために使う、それが我々技術者の仕事だとは思うけれど、本当にいいのか?」
「俺のことは気にするな。後はお前が決めろ。あくまで実行するのは俺じゃない。須戸、お前だ。お前がそこで怯えてどうする。俺は怯えないほうがいいってことをお前から教わった。だから、お前も怯えるんじゃない。人間何時か来るんだ、乗り越えなきゃいけない壁が。けれど、乗り越えた先には素晴らしい世界が広がっている。だから、自分と戦うんだ。お前の敵は俺じゃない。自分自身だ」
「こういう時だけいい言葉使うな……泣いちゃう……だろ」
須戸が、俺の身体に抱きついてきた。凄く一杯の涙を流している。それを見るだけで俺自身ももらい泣きしそうだった。だが、俺は主人公だ。
主人公の仕事、それは主人公以外のキャラクターに悲惨な出来事や乗り越えにくい壁が出たら必死にフォローしてあげる、そのことだ。そのことさえ出来れば、俺は正真正銘の主人公なんだ。チキンでもヘタレでもない、頼らりがいがある主人公とみられる、それが本物の王道の主人公。
何時もは(と言っても四日前と今日しか須戸には会ってないが)あんなに強気、もしくは心が病んでいるのに、こうやって時折本当に女の子っぽい時がある。それがこいつ、須戸だ。そしてこれが、通称『ギャップ萌え』なんだろうな、なんてそんなことを俺は思いながら顔を上下に振っていた。
「須戸……自分に、勝て」
「そう……だよね。人の願いを実現する、それが科学者である以上の使命。分かったよ」
「須戸……!」
須戸はそう言うと、白いこの部屋の中にキーボードを出現させて、解除コードらしきものを打っていった。そして、その画面を俺はじっと見つめる。
最終確認のウィンドウが表示され、それを続行、そして本当に本当の最終確認ウィンドウで続行を押した時、今まで真っ白だったこのタイムマシン内の光景は瞬く間に変貌し、驚きを隠せないほどまでに原型をなくした。
「全体が暗く……」
全体が暗くなったのだ。つまり、今自分が一体どうしているのかなど見えないのだ。でも、見えないからといって支障が出るわけではない。その場所にとどまって、光が来るまで待てばいいだけなのだから。と、そんなことを考えている時、俺の後ろの方に青い光が付いた。白いHPゲージのようなもの。そこを青いバーが入り込んでいく。
「六宮英人。キミにボクは勇気をもらった。だから……」
その時、光が点灯した。そして、青いバーは一番右まで到達したからだろうか。それにそれが本当に正しい解釈なのか、そんなことはわからないけれど、解釈なんか「何通りもあってこそだろう」なんて俺は考えているうちに疲れたので開き直った。
須戸は俺の方に抱きついて、俺の身体を押し倒した。そして俺の耳元で須戸はささやいた。「ありがとう」と。
俺はその須戸の声を聞いて今までのお礼も込めてこう返した。「こちらこそ」と。その言葉を言うと何故か俺の瞳には涙があった。何故だろう。ここは泣く場面ではないはずだ。なのにどうして……。危機感がつのっている、という訳では無さそうだが、まあいい。これ以上変な考えばかり重なってもどうにもならない。
やがて、俺は白い光りに包まれた。そして俺はそこで記憶が途絶えた。だが、何か聞こえたのは覚えている。須戸の声だったのかな。やっぱりまだ俺の瞳には涙がついていて、それはまだとれているわけではなかった。




