6-6 デッドエンド
「居ないじゃないか。ほら、やっぱり嘘……」
「ろくのん、どうしたの? 何か嫌なこととか有った?」
「違う。嫌だとか言うレベルじゃない。なんて言うかさ、絶望みたいな、そんな感じだな」
「絶望か。で、誰かを探しているのか?」
「ああ。司令官、だってよ。メールに書かれてた」
「もしかしてさ、司令官って須戸だったりするのかな?」
「可能性はゼロじゃないな。ただ、もし仮にそうだとするならば、何故今、須戸が死んだ後にメールが届いたんだ?」
「それも不思議だね。あ、ろくのん!」
「どした?」
「とりあえず、須戸さんの服の中からメモとかあったらそれを見てみようよ」
「流石に死んだ死体とはいえ、女性の身体に男が触るというのはちょっと――」
「それなら私が行くよ」
玲香は自信満々にそう言うと、須戸の服に手をかけた。まず、本当に息をしていないのか玲香は確認した。『死んだ』と言われても、それで生きていたのならホラーだからな。やっぱり玲香も考えているのか。
そんなことを考えていると、すぐに玲香がメモを見つけたらしく、それを俺に見せた。
「『エンターキーを押す』って書いてある」
俺は、玲香が見つけてくれたメモに書かれていたとおり、エンターキーを押した。そして、その瞬間、画面が映し出され、それはまるでホラーかのように怖い映像だった。
ちらりと後ろを向くと、そこには一人の女性がいた。パーカーを着ていてロングヘアーで顔は見えない。玲香はその女性に話しかけた。
「あ、あの……」
「こっちを……見るな」
その瞬間、その女性は自身の顔を顕にした。目はない。だけれど笑顔を作っている。そして目の近くからは血の雫がぽつり……ぽつりと垂れる。そして、その女性は口を大きく開けて俺の耳元でこうささやいた。
「死んじゃえ……ッ!」
その瞬間、俺の目にはナイフが写った。ナイフが。そう、ナイフが。ナイフが。ナイフが。ナイフが。ナイフが。そう考えることで恐ろしさが俺を襲う。だけれど、そんな俺を玲香は見捨てなかった。俺はただそのことだけで嬉しかった。
「ろくのんは……私が守る」
「どけ! それは死亡フラグ……な……ん」
俺が左手を前へ差し出そうとした時、玲香はバタンと床に倒れた。相当な傷。ナイフで腹部を刺されたようだ。けれど、今の俺に回復魔法なんて使えりゃしない。ましてや、そんなことへ対処できる技術すら持っていない。
「玲香……玲香……ッ!」
「ねぇ、ろくのん……?」
「なんだ? ……ってわっ!」
その瞬間、俺は玲香に抱きかかえられるように倒された。普通、床に倒れれば強打して痛くなる、それが当然のはずだ。しかし、今回はそういうわけでもなく、玲香の身体が俺の床との衝突の際の衝動を和らげたらしい。玲香が俺の耳元で語りだす。倒された時に、玲香の口と俺の耳は凄く近いところになったようだ。
「―――大好きでした」
そう行った玲香の瞳からはふとポツリ、冷たい心の汗が流れ落ちた。そう、涙だ。玲香は俺の顔を自分の顔の方へ寄せ付けるようにして俺の腹に両手を回してきた。
「あのさ……。楽しかったよ、遊園地。私、これでもあんまりああいう遊びって経験したことなかったからさ。高校生時代なんか、本当に憂鬱で。もう嫌で嫌で。でもさ、君に会ってから変わったんっだよ、ろくのん。勿論それまで後峠もいたけど、後峠は私と別の高校に通ったし、本当になんでもいつも会話できる人なんか、ここ最近まで居なかった。だからさ、ろくのん。自分が悪いだとか、一方的に責めんな」
「玲香……」
「偉大な母に見えるのか、ろくのん? そう思われても特に言うことはないけどさ。でも、自分を悪いとか思うのは悪いことじゃないけど、あんまり自分を責めすぎんな。元厨二病だろう。もっと自分の魔力の力を高めろよ。何時かそれを見せられる日が来たら見たかったな……あはは。……なんで涙出ているんだろう」
玲香が満面の笑みを浮かばせた。けれど、涙が溢れかえっていて、それを手で拭い、顔を左右に振って玲香は最期に、飛びきりの笑顔で一言言った。
「―――サンキュ、ろくのん。また会える日まで……ね」
玲香の手が俺の頭の後ろに回され、俺の顔は玲香によって操作された。そして、笑顔でいる玲香の唇に俺の唇が触れた。だが、五秒と経たないうちに玲香の体温は冷たくなった。動作も何も起きない。心臓も動いていない。つまり―――。
「死んだ……のか……」




