6-3 ホワイトアウト・ミッション sec
残り二十秒。必死の思いで俺は見つけた扉を開け、そこに飛び込んだ。
「ろくのん! しっかりして!」
その瞬間に、俺はバタリと倒れ呼吸を整え始めた。足の痛みも、手の痛みも酷い。
「ごめん……な。こんなはずじゃなかったのに。……俺はやっぱりダメな男なんだな」
その瞬間、俺は玲香に押し倒された。玲香は、自分の瞳をうるうるさせ、そこに多量の涙の粒を備え持っていた。そして、左手でそれを拭い、右手で俺の頬を叩いた。
「な……っ!」
「ろくのんはすぐそうやって『自分のせい』にする……。止めてよ! 少しは私にも責任を負わせてよ! 共犯者にさせてよ! 自分のせいに、するなよ……ッ!」
「玲……香……っ!」
確かに今までの俺はそうだった。自分のせいにしまくってた。何かがあったら全部俺が、俺が全部やっていた。玲香には押し付けることは特になかった。後峠を助ける時だってそうだった。迷惑メールと思っていたメールが予言メールと知った時も、俺が軽い鬱状態になるまで、玲香には気づかれなかったはずだろう。
「なんか……ごめん」
静まり返ったこの部屋の中に、玲香の鳴き声が木霊す。玲香の身体はぎゅっと俺の方に密着してくる。深い意味は考えることが出来なかった。泣いている女性の姿を見て、俺が恋愛感情を抱いた女性に対して。泣いている人を見ると、そんなこと考えられなくなる。
「……いいんだよ。私にだって、色々とやらせて……ね?」
「お、おう……」
その時、後ろのほうで銃声音が聞こえた。
赤い血がいろいろな方向に向かっている。垂れて流れていくその『血』は、吐き気さえも覚えさせる。吐き気が止まらなかった。迫り来る吐き気を考えないで後ろを向くのにはそれ相応の時間を有した。
「須戸……貴様!」
「ようこそ、管理室へ。ここはタイムマシンの管理室。キミ達はこれから、そのドアの向こうの部屋に入ってもらう。残り十五秒というその残り少ない時間を有効に活用して『鍵』を何処かにある『鍵穴』に挿せ」
「鍵って一体何処にあるんだよ……」
「鍵は今渡すよ」
「……えっ?」
その瞬間、空から鍵が落ちてきた。それこそ、『空から美少女が―――』とかいうようなネタではないが、一応そう解釈されてしまう恐れもある。『空から』という単語だけでは。
さり気なくパロネタを入れて、俺は冷静さを取り戻し鍵を手にとった。
「さて、六宮英人。志熊玲香。キミ達は今から一五秒で、あの部屋の中に入り、鍵穴にその鍵を差し込んで来てもらう。ただそれだけの簡単なお仕事だ。ちなみに、ヒントはへやに入ればすぐ分かる。……じゃ」
「須戸!」
俺が呼び止める。だが須戸はそんなことなど気にせず、画面を黒くして自分の顔を映さなくした。そして、その瞬間、残り時間『一五秒』という数字が動き出した。
「行くぞ!」
「……でもろくのん、今身体が……」
「そんなの今はどうでもいい! 今やらなくちゃいけないのは、家族を守ること。俺の好きな人を守ることだってんだよッ! 行くぞ!」
「え、ちょ、ろくの……」
俺は玲香の手首を強く握りしめ、須戸がさっき『鍵穴をさして来い』と指示した部屋に入った。その瞬間、後ろの扉はキィィ……と閉まった。俺も玲香も、その音を聞いて少し慌ただしくなったが、すぐに状況を理解し、玲香を俺の手によって落ち着かせた。
一面真っ白というわけではないが、一応壁には、残りの制限時間が刻まれたデジタル時計が飾られていた。そんな中で俺は玲香に指示を出した。
「とりあえず探してみてくれ。何処かおかしな点、疑ってしまうような点はないか」
「とにかく何処かに紙とかメモ用紙なんかがあるはずなんだ。今までの経緯を見ても、鍵と何かしらメモ帳が有った。最後の三つ目の鍵の時は、あの爺さんが導いてくれたが、今はその爺さんなど居ない。でも、何処かにあるはずなんだ!」
「……そうだな。メモ用紙……だろう。何処かに……あ!」
「……どうした?」
玲香は右手の人差指をある方向に指していた。それが有ったのはあのデジタル時計のある方向だった。残りはあと八秒……今七秒に変わった。
「で、玲香。何故アレを?」
「いや、周りが全体真っ白くて、それに機械とかがあの時計しか無いじゃん。だから」
「いや、普通時計の裏って鍵穴あるか?」
「いいの! 早く! もうあと四秒しか無いんだから!」
「わかってるけど……」
俺はそのデジタル時計のある方向へ向かって走りだした。右手に鍵を持って、俺は一歩、そしてまた一歩走り、先へと向かった。途中で、息が上がってきた。手を伸ばす。もっと遠くへ、もっと遠くへ伸ばした。もっと、もっと……。
カウントが三、二と、徐々に一に近づく頃、ようやく俺はデジタル時計の前に現れ、そのデジタル時計を見た。そしてくるくる回して状況を確認した。
――あった。その衝動は、今まで生きてきた中で一番大きかっただろう。人間、ここぞというピンチの時は、頭が回らなくなるらしい。
でも、今回の俺はそうじゃなかった。頭は回っていた。これも厨二病を克服した成果からなのかもしれない。一人の女声を好きになったからなのかもしれない。
もしかしたら、今までウザイだけだった妹を一人の人間として認めてあげたから、そして友人ができたから、家族の大切さ、絆の大切さが分かったから……だから冷静になれたのかもしれない。
俺は手に持っていた鍵を、その見つけた鍵穴にさした。。心臓の鼓動が早まる。額からは多量の汗。凄く緊張しているらしい。……あと一秒を切った。俺は、鍵穴に大声をぶつけ、そこに鍵をさした。
「いっけえええええええええええええええええええッッッッ!」
俺はその鍵穴にさした鍵を右方向に回した。目をつぶり、決死の覚悟だ。
今まで玲香と過ごした日々、うざかった妹と過ごした日々、なんだかんだ言って何時も会話の中心に居た厨二後峠。何時もそうやって賑やかだったんだ。笑顔がまた俺のところへ飛んできて、俺に笑顔の実を咲かせたんだ。
何まとめているんだろう。それこそ死亡フラグじゃないか。でも、「死亡フラグでも俺は回収しに行く。それが、運命だから!」とか、そんな風に俺は言えない。




