6-1 ホワイトアウト・ミッション
白い世界に包まれた。ここはどこか知らない。
ただひとつ分かるのは、俺が玲香の手を握っているという、ただそれだけだった。本当に何にもない。一面真っ白な世界。
その瞬間、画面が現れ、須戸の顔が映し出された。
「どうも、須戸です。これからぁゲームをぉ、始めますぅ」
「……そうか。で、何をする気なんだ?」
「推理ゲームでぇす。結構難しいと思いますよぉ」
「まずこの白い空間に本棚を置きますね」
須戸がそう言うと、今まで画面しか無い白い空間に本棚が置かれた。全五段。全ての段に本が収納されていた。
「次にタイムリミットについて告げておきます。タイムリミットは十分。そのうちに、今から出す問題を解いていって下さいね?」
「十分で解けないと……分かりますよねぇ? じゃあ、幸運を祈ります。プレイヤー方」
画面が消え、それと同時にタイムリミットが刻まれ始めた。早くしなければどうにもならない。今すぐに答えを見つけなければ。
「問題って何処にあのかな?」
「本棚があるっていうことは、この本棚がこの推理ゲームの鍵になるんじゃないかな?」
「本棚か。あ、ノートが置かれてる」
ゲームの場合の選択肢ならこうだ。『ノートを開きますか? はい、いいえ』と出る所だ。いや、今はそんなことをする場合じゃない。開いたほうがなにか得られるかもしれない。
俺はそう思い、玲香に「開くか」と言い、玲香に開いてもらった。
「……ビンゴだ」
玲香はそう言い、そのノートの中にあったメモを俺に見せた。
『―――この部屋には鍵が三つある。今から出す問題を整理して、一つ目の鍵を見つけろ。【《最の上あ一段番る本は左にの鍵》】』
「これは一体……」
「鍵……と書いてあるから、これは何処に鍵があるかを書いているんじゃないのか?」
「まあな。そうだろうよ。でも、本棚だろう。適当に探していけばいいんじゃないか?」
「馬鹿か。一〇分しかないんだぞ。適当にやったらそれこそ時間の無駄じゃないのか」
「じゃあ、解読するのか? じゃまず、最近のラノベの流行り、『ひらがなを取る』をしてみるか。取り除くのは感じのほうだぞ?」
「うん。『のあるはにの』? なにこれ。漢字を分けてみたらどうなのか?」
「だな。『最上一段番本左鍵』。まず、重要なキーワードを抜いていこう」
「鍵を探すから『鍵』、本棚の何処かにあるはずだから『本』を抜くと、『最上一段番左』。なあこれって……」
「『最上段一番左』だな。『段』と『一』を入れ替えると」
「さすがろくのん。時折凄いこと言うよね」
「その言い方はやめろ。でも、鍵の在り処は分かった。一番上の左の本だ」
玲香がその本を引き出し、一ページ開くと、鍵が存在した。それと同時に、メモ帳があって、今度は暗号ではなかった。しっかり、日本語として記述されていた。
『新潟を襲った今日の地震の発生時刻は?』
「七時一二分。午後五時一二分だな」
「それがどうしたんだ? これも鍵のある場所のことを言っているのか?」
『残り九分』という音声が入り、俺と玲香は焦る。
「で、でだ。五時十二分ということは、こういうことか? 『横段五段目、縦段一段目の左から二番目』ていうこと」
「なんで左なんだ?」
「さっきも左の方から数えていたから。もしかしたら右の方から数えるのかもしれないが、通常日本は左から文字を読むからな。横書きだと」
「そうか。左から読むとなれば『縦の五、横の一』……これ十二じゃないかな?」
「確かにそうかもしれないな。てか、縦段一段目の左から二段目ってどういうことだよ」
「何自分で言ったことをネタに使っているのだ。だが、何で左から読むから『縦が先』なんだ? 横が先でも別にいいのでは?」
「横が先? 一応私は数学の公式に当てはめてみただけで、特に確信的なのは無いと思う」
「おい。じゃ、とりあえず推理を整理してみるか……」
俺と玲香は整理を始め、結局、今出た箇所を全て探ることにした。
手探りで探していた中、玲香が大きな声を上げた。
「あった!」
上から一段目。その段の左から五番目に、その本とメモ、鍵は存在した。
玲香がその鍵らしきものとメモを見つけたのだ。メモには『鍵が三つ』だけ書かれており、他には何も書いていなかった。近くにそれといったライトもないし、このメモは特殊加工されていないような紙質だった。
「『鍵が三つ』か……」
当てずっぽで探るにしても、どうにもならない。本棚を探るといったて、さっきのように、『地震が起きた時刻=本棚の位置』という予想を立てることすら困難である。第一、ただメモ用紙に『鍵が三つ』とだけ書かれていた所で、どう推測すべきがだとか、どう推測できるか、だとかはわからない。
「鍵が三つか……」
「英語……とか?」
玲香が提案した。英語で鍵が三つは(カタカナ表記で)『キースリー』。(英語表記で)『Keythree』と言える。『けいすれえ』とも読めるか。小学生並みの考えだと。
『けいすれえ』――、『キス……れ』――。な、なんだと……。俺が玲香とキ、キスだと? なんてこった。だが、今こんなことはないはずだ。
第一、玲香が鍵を持っているはずがない――と一〇〇パーセント「そうだ」と信じることは無理だが、九九パーセント信じることは可能だ。第一、仕組んでさえいなければ、玲香は無罪なのだから。それに、今まで俺とともに過ごしたから、それこそ心配するほどではないだろう。
「キーが三つ……」
俺は視点を変えたのと少し前に、玲香がぽつりとつぶやくように言った。
「木が三つ……あ」
俺は玲香の後に続けてそうつぶやき悩んだ。が、すぐにひらめき、俺と玲香は丁度同じくらいの時間で、お互い右手人差し指を前に出し、目を丸くして言った。
「木が三つ! 森だ!」
そう。漢字の『森』は、『木が三つ』で成り立っている。だから、木が三つで『森』なのだ。だが、これが本当に合っているかというと、そこは信憑性が低い。
「なぁ、玲香。木が三つで森、だろ? 鍵はどうなるんだ?」
そうだ。鍵。鍵が残っていた。英語で『キー』。それこそ、某泣きゲーの大御所みたいな方面もあるが、今はそっち方面じゃない。何笑わせようとネタに走ってんだ俺は。
「いや、鍵は『キー』でしょ。だから合体して『キーの森』とか」
「キーの……森?」
正確には『キー』ではないが、『キィの森』という小説がある。俺はその小説が結構好きだからタイトルだけで分かったのだが、まさかこういう時に出てくるとは思いもしなかった。意外と本のタイトルを知っておくといいのかもしれない。
「キィの森ってどこかにあるか?」
「ある! 本棚に!」
「でも何巻なんだ? 全四巻あるぞ。当てずっぽで探すにしても、もう時間は限られているぞ。てかもう残り五分三〇秒切ったじゃねえか!」
「いいよ! もうガンガン探すよ!」
玲香に言われるがまま俺は三、四巻を担当し、玲香が一、二巻を担当した。俺が、三巻の一ページ目を開いた時、俺は目を丸くした。何故なら鍵があったからだ。
「……鍵、だ」
「鍵……だよね。でもメモが無いよ?」
そうだ。何時もならメモが有ったはずなのに、今回だけメモがないのだ。もしかして、クリアしたのだろうか。そう簡単にクリアできるものか、なんてあまり言いたくはない。なにせ、これから不幸が襲ってくるかもしれないからな。不幸は、突然訪れるものだ。
「さて、夫婦よ」
「なっ、夫婦とは須戸、貴様!」
白い世界にぽつり画面が映し出され、そこに須戸が現れて、そう話していた。
「いいじゃんか、別に。お前らお似合いだから。じゃあ、最後の問題だ」
「おいこら、ちょ待て……」
俺の背中にピッタリと玲香がくっついてきた。ぷくっとした表情を見せていて、何気に可愛い。だが今はそんなことを考えていられる状況ではないはずだ。早くこの世界から脱出しなければ。そして、過去の生活を取り戻さなければ。
「最終試練だ。その三つの鍵を統合したものがこれだ」
その瞬間、俺の手に鍵が落ちてきた。
「その鍵は、最後の扉を開けるために必要なものだ。ここからは二人三脚で行かなければとてもつらい道のりだ。真っ白な世界、どこに壁があるかわからないだろう。まあ、頑張れ。残り時間は約五分。では、君達の楽しい『殺人ごっこ』が見れるのを心待ちにしてますので。では、楽しい殺し合いを……。幸運を祈る。バーイ」
画面が消えた。そして、その時、俺の左手と玲香の右手、俺の右足と玲香の左足に鎖が掛けられた。これで二人三脚なわけだ。だが、座っている状態から掛かっているとそれはそれで困る。なにせ、立ちにくい。もう、コリゴリな感じになりそうだ。




