5-7 タイムマシン
「六宮英人様、お久しぶりです。須戸です」
「須戸。お前は何で万代シテイであんなことを……」
「アレですか? アレは本当の私ではありません。クローンです。私のクローンは今現在、一二体います。万代シテイで見かけたのはそのうちの七体。航空機爆破は残り五体がやったのです。そして残った私が本体です。凄いでしょう」
「本体……。じゃあお前はそのクローンを吸収できるのか?」
「いえ。違うんです。クローンは作ったら永久不滅。絶対に死にません。瀕死したら生き返るんです。時間が経つと。でも私は死にます。人間ですから」
「凄いシステムなんだな……」
「そうですね」
玲香は気になったのか、須戸の隣に置かれていた大きなな箱のようなものを指さして須戸に聞いた。
「アレは何だ? 何かの機械か?」
それを見て俺はふと思った。「これ、後峠の部屋にあったような気がする」と。
「これは、タイムマシンです。もっと強く言うなら世界初のマシンです」
「え? 世界初はそのタイムマシンじゃないはずじゃ……」
「説明不足でしたね。このタイムマシンは『過去へも未来へも行ける』んです。今日言われて騒がれているタイムマシンは、『過去にしかいけない』んです」
「ああ、なるほど。……でもこの箱って後峠の部屋に無かったか?」
「有ったな。これは私が開発したものだ。適当に箱を探していたらこれを見つけたのだ。ちなみに私はここじゃなくて後峠の部屋から出入りしていた」
「え? 普通姿見えるはずじゃ……」
「その時はたまたま後峠さんが居なくて。そのままバレずに出ることが出来たんです。だから、その時は幸運だった……んだって……思って……い……ま……す……」
その瞬間、須戸はその場に倒れた。その後ろから、また須戸が現れた。だがさっきの敬語を多用する須戸とは違った。何故なら……。
「私は本体です。本体は、クローンを集められるんですよ、六宮さん……!」
「須戸……なのか?」
「私が本当の須戸です。こいつはクローン一号です。……突然ですけど、六宮さん。後峠さんと妹さんを、助けてあげたくはないですか? そして玲香さんも」
「助けてぇよ。どうすればいいんだよ」
「簡単です。過去に戻ればいいのです。過去に」
「じゃあ戻ればいいんじゃないか! そこのタイムマシンで」
「戻ればいい? バカですね。そんな単純な仕組みのタイムマシンだと思っているのですか、この人間は。だとしたら脳のないバカですね。だってここには私とそのクローン、一三体がいるんですよ?」
さっき倒れたはずの須戸が生き返った。またたって歩けるようになったのだ。それこそバケモノである。永久不滅。絶対に死なない。俺と玲香は囲まれた。一三体の須戸に。
「逃げるぞ! 玲香!」
「あれあれぇ? 逃げちゃうんですかぁ。タイムマシンに乗り込むみたいですね。あはは」
須戸がケラケラ笑った。俺はもう、タイムマシンの操作方法なんか分かりもしなかった。そりゃあ初見でプレイみたいに、何も知らずにやったらこれから起こるであろうフラグ、伏線等が予想できてもそれが本当に襲ってきたりするかはわからない。ネタバレがあれば話は異なるが――。
今は俺も何も分からなかったから、直観で操作をしていった。結果、俺と玲香は三次元の世界から飛ばされてしまった。




