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リア充もいいじゃん。  作者: 浅咲夏茶
第五章 無差別殺人事件、地震、そして――
50/70

5-6 後峠との別れ

 人工呼吸を開始した。胸の真ん中に手を当て、五センチ深く押し戻す。これを一分会に百回行わないければいけない。だが、もう時間は迫ってきている。あと……三分三〇秒。


「大丈夫か、後峠! 意識は、意識はあるか?」

「ろくのん、応援呼んで来たよ。それと、AEDも持ってきたよ」

「早く! 一一九番通報はしたか?」

「それが今、電話が混みあいすぎて使えなくて……」

「……くっ。普通電話も、IP電話でもダメなのか……ッ!」

「とにかく、AEDを持ってきたんだし、使おう」

「応援の方々も準備の協力を、お願いします」


 津波襲来まで残り三分を切った。AEDを箱から取り出し、その中の電極パッドを貼り付けていき、俺に全てが託された。


「AED、押します!」


 後峠の意識はない。呼吸は若干あるようだ。いや違う。出血を、早く出血を抑えなければ。だが今ここに清潔なハンカチなどは無かった。


「ハンカチの代用になるもの……誰かティッシュを持っている人はいらっしゃいませんか?」

「どうぞ」

「ありがとうございます」


 近くにいた若い男性にティッシュを貰うと、俺は即座に後峠の出血部分にティッシュを当て圧迫した。俗にいう『直接圧迫止血法』である。血を完全に止めさせるためには、三〇分程度掛かるだとか言われているが、幸い、今回の後峠の傷はそこまで深くもなく、意識さえ戻れば大丈夫かに見えていた。


「なぁ……六宮。本当の悲劇はこれからだ……絶対に、言うことを聞いてはいけない」

「後峠! おい! 起きてよ!」

「ごめん……もう、無理みたいだわ。消えるね……」


 後峠の台詞が言い切られた後。ついに意識は戻らなかった。血が止まったのだ。言い換えれば彼は――


「後峠、嘘……だろ?」


 傷から出ていた血は、流れなくなっていた。



 開始から四分三〇秒。津波襲来予測時刻まで残り九〇秒だった。俺は変わり果てた後峠の姿を見て、唖然としていた。立ち止まり、直視すらままならない。嘘だと願いたかった。


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